サイドストーリー2 銀のメイドの秘め事

 アルス様が『ヴェルス荒原』から帰還されて数日。

 屋敷の洗濯室では、メイドたちが色めき立っていた。

「ねえ、これ……アルス様のシーツよね?」

「ちょっと、私が洗うのよ! 渡しなさい!」

「ズルい! 昨日は貴女だったじゃない。今日は私がその残り香を嗅ぐ番なんだから!」

 若いメイドたちが、一枚のシーツを取り合っている。

 それは今朝、アルス様のベッドから回収されたものだ。

「……すごい匂い。半年前とは全然違うわ」

「ええ。子供の甘い匂いが消えて、なんだか……鼻の奥がツンとするような、雄の匂いになってる」

 彼女たちはシーツに顔を埋め、うっとりとした表情で深呼吸をしている。

 ヴァンパイアの嗅覚は鋭い。

 成長期を迎えたアルス様が発する、若く強靭な魔力と、精通を迎えたばかりの濃厚なフェロモン。それは屋敷中の女たちを無意識に発情させていた。

「最近、朝のお洗濯物……下着が少し汚れてること、あるわよね」

「キャッ! 生々しい! ……でも、そこがいいのよねぇ」

「あのお身体で、夜な夜な夢を見ていらっしゃるのかしら……。ああ、私がその処理をして差し上げたい……」

 メイドたちの妄想は止まらない。

 屋敷の“未来の王”は、彼女たちにとって既に「守るべき坊ちゃん」ではなく、「抱かれたい雄」へと変わりつつあったのだ。

 ***

 その夜。

 私はいつものように、浴室でアルス様の背中を流していた。

「……ふぅ。やっぱり家の風呂は広いな」

 湯船に浸かるアルス様が、無防備に手足を伸ばす。

 半年間の死闘で鍛え上げられた肉体。

 細身ながらも鋼のように引き締まった筋肉に、汗と湯気が絡みつく。

「失礼します、アルス様」

 私は震える手を抑え、スポンジでその肌を滑らせる。

 指先から伝わる熱。硬い筋肉の感触。

 そして、彼が立ち上がった瞬間に目の前に現れた、半年前とは別人のように成長した象徴。

(……大きい)

 未完成ゆえの張り詰めた皮と、脈打つ血管。

 湯気の中で揺れるそれは、凶暴な魔物のように私の視線を釘付けにした。

「レイラ? どうした、タオル」

「っ……! は、はい! 直ちに!」

 私は慌ててバスタオルを広げ、彼の体を包み込む。

 水を拭き取るふりをして、私はわざと、タオルの上から彼の下腹部を強めに押さえた。

 ビクッ。

 アルス様の腰が跳ねる。

 タオル越しでも分かる。彼のモノが熱を持ち、私の手に反発するように硬く、大きく膨れ上がっていくのを。

「……っ、レイラ。ちょっときつい」

「申し訳ありません。……よく、お拭きしませんと」

 私は謝罪しながらも、手つきを緩めなかった。

 彼の息遣いが荒くなる。

 その反応だけで、私の下着の中はもう、どうしようもないほど濡れてしまっていた。

 ***

 深夜。

 使用人区画にある自室のベッドで、私は自身のパジャマをはだけさせていた。

「はぁ……っ、んぅ……!」

 暗闇の中、湿った水音が響く。

 私は自分の胸を乱暴に揉みしだきながら、もう片方の手を股間に沈めていた。

 そこは既に、溢れ出した蜜でグズグズに濡れている。

 脳裏に浮かぶのは、浴室での光景。

 アルス様の熱い肌。困ったような顔。そして、私の手の中で硬くなったモノ。

「アルス様……アルス様ぁ……っ!」

 指を秘肉に這わせ、敏感な突起を執拗に擦り上げる。

 刺激が強すぎて、腰が勝手に跳ねる。

 頭の中が白く痺れるような快感。

 私は想像する。

 私の指ではなく、アルス様のあそこが、私の中に突き刺さる感覚を。

 まだ経験の浅い彼が、本能のままに私を貪り、めちゃくちゃに突き上げる光景を。

「ああっ! んっ、だめ、そこっ……!」

 中指を蜜壺の奥まで突き入れ、粘膜を掻き回す。

 クチュ、クチュ、と卑猥な音が部屋に響く。

 指が内壁を擦るたびに、愛おしさと欲情がスパークして、背筋がゾクゾクと震える。

(欲しい……貴方様の、全部が欲しい……!)

 理性など吹き飛んでいた。

 私はただの雌として、主人の種を求めて喘ぎ、腰を振る。

「イくッ……! アルス様ッ……!!」

 絶頂の瞬間、身体が弓なりに反り、強烈な痙攣が太腿を駆け抜けた。

 視界が明滅し、熱い蜜が指を伝ってシーツを汚す。

「はぁ……はぁ……っ」

 事後の余韻に浸りながら、私は熱い息を吐く。

 虚しさはなかった。あるのは、より深まった渇望だけ。

 ***

 翌朝。

 ダイニングルームにて。

 いつもより少し目の下に隈(くま)を作った私を見て、アルス様は不思議そうに首を傾げた。

「レイラ、顔色が悪いぞ。旅の準備で疲れているのか?」

 純粋な瞳で心配してくださるアルス様。

 その優しさに胸が温まると同時に、昨夜の自分の痴態が脳裏をよぎり、冷や汗が流れる。

 まさか、貴方様をオカズに朝まで乱れ狂っていたせいです、なんて口が裂けても言えない。

「……はい。少々、根を詰めすぎました」

 私は引きつった笑顔でそう答えるのが精一杯だった。

 その無自覚な優しさが、私の寝不足の最大の原因だということに、彼が気づく日は来るのだろうか。


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