第17話 赤き帝王と二つの影
決戦の朝。
峡谷の空気は、今まで以上に張り詰めていた。
俺たちは黒曜石の岩陰に身を潜め、ターゲットを凝視していた。
全長10メートル超。
ルビーのように赤く輝く鱗を持つ亜竜種、『ファイア・ドレイク』。
奴はこの半年間の遠征の、最後の壁だ。
「……デカいな。近くで見ると尚更だ」
二ヶ月前の俺なら、足が震えていただろう。
だが、今は違う。
奴の動き、魔力の流れ、その全てが「情報」として冷静に処理できる。
【Enemy Estimated】
種族: ファイア・ドレイク (Fire Drake)
推定レベル: 42
脅威度: 極大(Boss Class)
レベル差は14。
依然として格上だが、絶望的な差ではない。
この半年で積み上げた経験値、熟練度、そして装備。それらを総動員すれば、勝機はある。
「レイラ。作戦通りに」
「はい。半年分の成果、お見せします」
レイラの剣には、この峡谷で磨き上げた高密度の氷結魔法が纏われている。
俺は『宵闇』を握りしめ、深く息を吸った。
「行くぞッ!」
俺たちは岩陰から飛び出した。
ドレイクが反応し、咆哮を上げる。
グオオオオォォォォォ……ッ!!
開戦の合図。
俺は右手を突き出し、練り上げた影を解き放つ。
「『シャドウウィーブ』・ギガント・アンカー!」
影が四本の極太の鎖となって実体化し、ドレイクの四肢に絡みつく。
以前なら数秒で引きちぎられていただろう。
だが、今の影は違う。
『魔力制御(45%)』によって密度を極限まで高め、さらに『環境耐性』を付与して熱による劣化を防いでいる。
ギチチチ……!
ドレイクが身をよじっても、鎖は千切れない。
完全な拘束。
「今だ、レイラ!」
「はあぁぁぁッ!」
レイラが跳んだ。
五ヶ月前、アッシュ・ウルフ相手に連携した時とは比べ物にならない速度と鋭さ。
彼女のレイピアが、ドレイクの右翼の付け根を貫く。
パキィン!
氷結。翼が凍りつき、飛翔能力を奪う。
完璧だ。
ドレイクが怒り狂い、ブレスを吐こうとする。
だが、その予備動作も、この二ヶ月の観察で完全に把握済みだ。
「右に45度、散開!」
俺の指示に従い、レイラが即座に回避行動を取る。
直後、紅蓮の炎が虚空を焼いた。
死角からのブレスなど、分かっていれば当たらない。
「チェックメイトだ」
ブレスの隙だらけの首元に、俺は『隠密歩行』で忍び寄る。
手には『宵闇』。
そして、半年間貯め込んだ魔力を、全てこの一撃に注ぎ込む。
「『ダークエッジ』・フルバースト!」
ズプッ――……。
闇の刃が、ドレイクの喉元の逆鱗を貫き、その奥にある魔力核を破壊した。
巨体が崩れ落ちる。
断末魔すら上げることなく、赤き帝王は沈黙した。
『Boss Defeated. Experience Acquired (Large).』
『Quest Complete: ファイア・ドレイクの討伐』
『Level Up!』
『Level Up!』
『Level Up!』
ファンファーレが鳴る。
俺はその場に立ち尽くし、消滅していくドレイクを見つめた。
「……終わった」
半年。
長かったようで、一瞬だった気もする。
だが、俺の体には確かな「強さ」が刻まれている。
「アルス様!」
レイラが駆け寄ってくる。
彼女もまた、傷だらけだが、晴れやかな笑顔を浮かべていた。
「帰ろう、レイラ。父上と母上に、土産話を持って」
俺は戦利品である『炎竜の魔核(Bランク)』を拾い上げた。
その輝きは、俺たちの半年の旅路を祝福するかのように、強く、赤く燃えていた。
【Current Status】
Name: アルス・ブラッドベリー
Level: 29 (New!)
Trait: [夜宴] Lv.3 (Pt:0)
Aux Skill Update:
[短剣術(25%)]
[魔力制御(10%)]
[連携(5%)]
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