第28話 おじさんハーフリング、店を地上げした男と再開する。

「ねえティック、そのクロノピースって人に合わせてくれないかしら? 今すぐ!」

「あ、ああ」

 

 アイリーンのやつ、どうしたんだ? クロノピースさんの名前を聞くなり、随分と険しい顔をしていたな。

 まあ、クロノピースさんは『ウッドチャック』の住民にとんでもなく嫌われているからな。倍人間ヒューマンにも悪名が及んでいるのかも知れない。


 歩いて数分、小高い丘にそびえたつ集落いちの大御殿が見えてくる。


「ここだよ。クロノピースさんのお屋敷は」


 扉にしつらえられた金ぴかのドアノッカーをゴンゴンと叩くと、ほどなく、


「ご用件はなんでしょう?」


 可愛らしいメイド服を着た少女が現れた。

 ん? この子、ジョゼの幼なじみだよな。確か、仕立て屋で働いていたはずだが、クロノピースさんに店を地上げされたから、この屋敷で働いているってことか。


 少女も俺の事に気がづいたようだ。首をかしげながら質問してくる。


「あれ? ジョゼのお父さんじゃないですか。ジョゼから南の都に出稼ぎに行ったって聞いてけれど」

「ちょっと野暮用があってね、今は一時的に『ウッドチャック』に戻っているんだ」

「そうなんですね。ジョゼ、『パパが相談もしないで勝手に出てった!』って大荒れだったんですよ」

「そ、そうだったのか? やれやれ、もういい大人なあのに、ジョゼにも困ったものだな。すまない、君にも迷惑かけたね」

「いえいえ! ジョゼの気持ちは痛いほどわかります。こんなに渋くてカッコイイパパ、他にいませんから」

「おいおい、おじさんをからかわないでくれよ!」


 俺が照れ隠しをしていると、アイリーンが話に加わってくる。


「そうよね。こんなイケメンがフリーだなんて、信じられないわよね」

「え? あ、お客様! これは失礼致しました」


 アイリーンの言葉に、ジョゼの幼なじみはハッと我に返ると、


「本日はどよのうなご用件でしょう?」


 声のトーンがたちまち使用人モードに切り替わる。


「学問の都『ブッシュタッツ』のローゼンクロイツ公爵家、第四公女のアイリーン・ローゼンクロイツと申します。本日は地元の有志、クロノピースさんにお目通りしたく伺いました。ご主人はご在宅ですか?」

「ヒュ、倍人間ヒューマンの公女様?? かしこまりました! どうぞお上がりください」


 ジョゼの幼なじみに促されて、俺とアイリーンは屋敷の中に入る。廊下には真っ赤なビロードの絨毯が敷かれており、ピンク色をした熊のはく製や、奇妙な形をしたツボ、東洋のものらしい長細い絵や、極彩色の織物などなど、見たこともない品々がならんでいる。

 学の無い俺にはさっぱりわからんが、きっと大層お高いものなのだろう。アイリーンならその価値も理解できるのかも知れないな。


 俺は横を歩くアイリーンの顔を見上げる。アイリーンは、俺の予想に反してなんとも苦々しい顔をしていた。一体どうしたんだ?


 ジョゼの幼馴染は、俺とアイリーンを客間に通してくれると、


「あるじを呼んでまいりますので、こちらでおつきろぎくださいませ」


 と、ソファを促してから、ぺこりとお辞儀をして客間から去って行った。


倍人間ヒューマン用か。こいつはまた、随分と豪勢なソファだな」


 俺は勢いをつけてソファに飛び乗ると、質の良いソファーの弾力でぼよんぼよんぼよんと弾んでしまう。

 比べてアイリーンはなれたものだ、ソファに浅く腰かけると脚を揃えて斜め横に流す。なるほど……こういうところに育ちの違いってのが出てくるものなのだな。


 クロノピースさんがやってくるまでもう少し時間がかかりそうだ、俺はたわいもない話をして時間を潰すことにする。


「廊下に飾っている装飾品、どれもこれもすごいお宝だったな。ま、学のない俺にはさっぱりだが」


 すると、アイリーンは「はぁ」とため息をついた。ん? どうしたんだ??


「確かに、飾られていた品々は、どれもこれも一級品よ。少なく見積もっても金貨5枚はくだらない。でも、飾り方があんまりだわ」

「そうなのか?」

「そりゃそうよ! 貴重なシロクマのはく製は、ピンクに塗りたくって台無しにしているし、東洋の高級茶器、紫砂壺ズシャフゥは置き方が左右反対だし、掛け軸は上下が反対! 挙句の果てには聖地の方角を指し示すために地面に敷く祈祷用絨毯プレイ・ラグを、あさっての方角に、しかも壁に飾るだなんて! あんなの、他国の文化に対する冒とく以外の何者でもないわ!!」


 どうやらアイリーンのクロノピースさんに対する心象は最悪らしい。

 俺は慌てて当たり障りのない話題に変える。


 数分後。


 コンコン。


「失礼します。あるじをお呼び致しました」


 ジョゼの幼馴染が、クロノピースさんを連れてきた。両手に金の指輪をジャラジャラとつけたなんとも成金趣味ないでたちだ。

 クロノピースさんは、うさんくさい笑顔を全開にしてまっすぐとアイリーンに向かっていく。


「これはこれは、ローゼンクロイツ公爵嬢! わたくし、アーサマヤ・クロノピースと申します! おめにかかれて光栄でございます」


 アイリーンは、しゃがんでクロノピースさんと視線を合わせると、


「はじめましてクロノピースさん、私もハーフリング族の名士にお会いできて光栄ですわ」


 にこやかな笑顔でクロノピースさんに会釈する。さすがは、公爵家の御令嬢だ。


 クロノピースさんは、倍人間ヒューマン用のソファにふ深く腰掛けると、アイリーンに質問する。


「ところで、今日はどのようなご用件で?」

「建設中の施設が気になりまして。あれはどのような施設なのでしょう。差し支えなければお聞かせ願えませんか?」

「あれは、倍人間ヒューマン向けの保養施設ですよ。この地には質の良い温泉が湧きますからね。私はこの『ウッドチャック』を大陸一のリゾート地にするのが、長年の夢だったのです」

「まあ、それは素敵ですこと。ヒューマン向けの施設と言うことは……ご懇意にされているヒューマンの方がいらっしゃるのですか?」


 アイリーンの質問に、クロノピースさんが胸を張る。


「ええ、ここ数年、ハイランド一の名士と謳われるサン・ジェルマン伯爵と懇意にさせていただいておりましてね」


 アイリーンの表情が僅かに曇るなか、クロノピースさんが話をつづける。


「サン・ジェルマン卿は、かねてより倍人間ヒューマンとハーフリング族との積極交流を望まれておりましてね。現在建設している『ウッドチャック』の保養施設は、サン・ジェルマン卿のアイデアなのです。金銭面でも人材面でも、少なくないご支援をいただいております」

「まあ、そうだったのですね! そのお話、もう少し詳しく教えていただけませんこと?」


 その後アイリーンは、クロノピースさんにサン・ジェルマン卿に対する質問を根掘り葉掘りとつづけた。





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