純真な贈り物
まさしの
1-1.
講師室の光は白く、
机の上のノートを均一に照らしていた。
冬の夜の始まりで外は暗く、
窓辺の冷気がガラス越しに薄く張りついている。
暖房の低い風が足元を通り、
木目の机に落ちる影をやわらかく揺らした。
女子高生は机の前に座り、
閉じたノートを端に置いていた。
表紙の角が光を受けて薄く反射する。
手元には一本のシャープペンだけが出ていて、
それを軽く回した跡が指に残っている。
椅子の横にはバッグが置かれ、
布の折れたところから教科書の角が静かに見えていた。
男講師は女子高生の斜め前に座っていた。
椅子の向きが少しだけ女子高生の方へ寄っている。
開いている教科書の紙を指で押さえ、
ページの端が暖房の風に揺れないように軽く整えた。
机に置かれたペンの影が二人の間で細く延びる。
「ここの式ね」
男講師の声は落ち着いた大きさで、
暖房の低い音に吸い込まれるように響いた。
女子高生は目線を動かし、
開かれた教科書の数字を追った。
ペン先が紙に触れそうで触れず、
手元にだけ小さな緊張が残っている。
「さっきの問題と似てるよ」
男講師が紙の端を軽く指で示す。
その指の動きに合わせて、
女子高生の視線が静かに移った。
机の上の光が二人の間に均等に広がり、
声よりも紙の存在のほうが強く感じられた。
女子高生はペンを持ち直し、
ノートを開かないまま机の上に置かれた紙を見つめた。
ページの白が蛍光灯の光を受けて、
薄い影を自分の手元に落とす。
暖房の風が足元を抜けるたびに
紙の端がわずかに沈んだ。
「これで合ってますか」
女子高生が紙を指さした。
声は細く短く、
紙の白さに吸い込まれた。
男講師は頷き、
「うん。考え方はいいよ」
と言いながらペンを動かして説明を重ねた。
教科書の数字をゆっくりなぞるように、
指が軽く滑った。
女子高生の手元は静かなままで、
机上の光の中に薄く沈んでいた。
廊下の物音はほとんど届かず、
講師室には二人の声と暖房の低音だけが残っていた。
窓の外の暗さは深まり、
ガラスに近いところの空気がわずかに冷たくなった。
それでも机の上の光は変わらず、
二人の前に紙の平らさを置き続けていた。
女子高生はペンを置くと、
閉じたノートの上に軽く手を添えた。
その動きに合わせて
バッグの布が少しだけ傾き、
奥にある教科書の角がふたたび白く光を返した。
細い金具がほんのわずかに揺れ、
小さな音が鳴った気がした。
男講師は椅子に浅く座り直し、
紙を整えながら次の問題を準備した。
二人の間にあるのは、
静かな夜の光と紙の乾いた手触りだけだった。
声は短く交わされるが、
沈黙の時間のほうが長く感じられた。
その沈黙は重くなく、
冬の室内に漂うあたたかさのほうが近かった。
女子高生のまつげが影をつくり、
机の上の白い光の中に落ちたまま動かなかった。
居残りの時間は、
その静けさの中でゆっくり続いていた。
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