スキル【創造】で織り成す俺の異世界ライフ
詩羅リン
1話.異世界ライフの始まり
「目覚めるのです。
俺の名前を呼ぶ上品な女声。
目を開けてみれば、そこは神秘的な黄金世界。流れる川も、森林も、全てが金色に包まれていた。
「ここは……? 俺、確かトラックに撥ねられて……」
口から飛び出たのは単調な疑問。学校帰り、確かにトラックに撥ねられた記憶が蘇り、頭痛で表情を歪ませながら、ゆっくりと頭上から降りてくる女ーー薄衣一枚をまとった人物に、視線を奪われた。
「残念ながら、貴方はさきほど、トラックに撥ねられて死亡しました。ここは、死後の世界。これから、貴方を来世の世界へと転送いたします」
『死亡した』
そのことを聞いて、俺の心は酷く動揺する。だが、俺はすぐに悟って、呆れたように鼻で自分を笑った。女は、その様子を慈愛に満ちた表情で見つめている。
「……来世、よく見る異世界転生とかか?」
『来世』と聞いて、すぐに思い浮かんだのは異世界ファンタジー。生前、日課のように見ていた。ラノベは、成績がどんなに悪い俺でも読めた唯一の小説ジャンルだったな。
まさか、本当に存在するとは思っていなかった。大きな喪失感に吞まれていたのに、気づけば期待に包まれている。
「はい、その通りです。来世はご存じの、異世界ファンタジーの世界。基礎的な説明は、大丈夫なはず」
女神はそう言うと、優しく微笑む。その美しい笑みに一瞬ドキッとしつつ、突然上からゆっくりと降ってくる大量の平らな長方形に目をやった。気づけば、俺は囲まれている。
その長方形は透明なデジタルボードになっていて、《剣豪》、《テイマー》など、様々な単語が黒字で書いてあった。恐らくこれは、魔法だったり、そういう類いのもの。
「それでは、異世界で生き抜くための《スキル》を選んでもらいます。不遇スキルから、チートスキルまで。幅広くご用意させていただきました。スキルがお決まりになりましたら、この私ーー《女神》に、お声かけください」
なるほど。この長方形たちは《スキル》か。
正体が分かり、俺は早速スキルを拝見する。
「なんか、ゲームの冒頭っぽいな」
RPG世界に入ったみたいで、俺は新鮮な気分になる。スキルは《変速》、《変換》、《状態異常》など、どれも心踊るスキルばかり。今の俺は、まさに優柔不断そのものと言えるだろう。
「やっぱり、異世界だし、せっかくならチートスキルが良いな。けど、いざこうして見てみると、どれがチートスキルなのか全く分かんない」
異世界転生の醍醐味と言えば、与えられたチートスキルで無双すること。世界を救い、ハーレム状態を築き上げることだ。しかし、どれがチートスキルなのか見分けが付かない以上、それは夢のまた夢。
「あ、《魔力量∞》か。でも、これがチートスキルとは限らないし。一発でわかるのとかないのか?」
今のところ、これだ! というスキルが見当たらない。最悪、適当なものを選ぶしかないか。
そんなことを思っていると、見ていたスキルの間から、とあるスキルが俺を覗いた。瞬時に目に捉え、すぐさまスキルをタップする。
スキル《創造》ーー
自分の創造したスキルや魔法、
物や生物などを自由に作ることができる。
実体化可能だが、破壊は不可能。
「……これ、チートスキルだ」
ーー普通にあった、チートスキル。まさか、自分から出てきてくれるとは。まあ、昔から妄想だけは得意だったし、まさに俺がやりたいことを叶えてくれそうなスキルだ。
俺は決断し、
退屈そうに鼻唄を奏でる女神に声を掛けた。
「決めた。俺、このスキルにするよ」
「……ん? 《創造》ですか、中々にお目が高いですね。では、貴方に《創造》のスキルを習得させておきます。では、スキルも決まったことですし、早速、異世界に転生いたしますか?」
女神が目を細め、試すような表情をする。流れるように進む話に心が追い付いておらず、俺は深呼吸して気持ちを整理した。その後、一言。
「ああ、頼む」
答えを聞いた女神が軽く微笑む。すると、俺の周囲を、足元に展開された小さな魔方陣の範囲に沿って、光が包み込んだ。
「それでは、お楽しみください。天宮 晴斗さん。良い異世界ライフをーー」
高鳴って頭に響き渡る女神の声。
視界から女神が消え、完全に光が俺を呑み込んだ。次の瞬間、俺ーー天宮 晴斗は草むらに立ち尽くし、異世界転生を遂げたことを理解した。
◇
広大な草原。綺麗な青空の下、俺は目を見開く。
空を飛び回る見たことのない鳥たち。奥の峠の方では、黒いドラゴンが飛び回っている。
「……まじで、転生したのか? 俺」
自分の服装を見てみれば、厚着の緑のジャケット。その上から小汚い使い古されたであろうローブを身に纏っている。後ろには、フードがついていた。
「身長は前の俺と大して変わらない。じゃあ顔はどうなった?」
どうにかして自分の容姿を確認したい。
そう思ったとき、スキルのことを思い出す。
ーー確か、創造した物を実体化できるはず。
俺はすぐさま四角形の手鏡をイメージし、実体化しろと強く願う。すると、目の前にウィンドウが現れた。
『スキル【創造】を使用。《クリエイト》と唱え、約10秒お待ちください』
俺は表示された通り、唱える。
「えっと、《クリエイト》……?」
手の平に青白く輝く魔方陣が展開される。
ウィンドウの数字がゼロになった頃、俺は想像通りの手鏡を握っていた。
「……っす、すげえ! まじで出来た……!?」
『手鏡を創造しました。クラフトの実績を獲得』
ウィンドウが消え、頭に機械的女声が鳴り響く。
俺は声を気にしつつも、手鏡を開き、鏡に映る自分に驚愕する。
「はっ!? これが、俺……?」
反射したのは、綺麗な白髪の美少年。瞳はダイヤ色をしており、宝石のように二重で輝いている。整った顔立ちで、歳は十代くらいに見えた。
「六歳くらい若返った気分、異世界転生やばいな」
手鏡を閉じて俺はポケットに仕舞う。自分の容姿に自信がついたおかげか、すぐに次の行動を考える。
後ろを振り返り、奥の方を見てみれば、大きな城が建った中世風の街並みが見える。しかし、街に行くには森を通過するしかない。
「モンスターとか、絶対いるよな。俺って今魔法とか使えるのか?」
スキルは問題なく使えたが、魔法が使えるかどうかが分からない。
「いっそのこと、魔法でも作ってみるか……?」
冗談のように呟き、俺は代表的な魔法を思い浮かべる。よくRPGで使っていた初期魔法と言えば、あれしかない。俺は効果などもイメージし、その場で唱えた。
「《クリエイト》ーー!」
次の瞬間、頭の中で再び声が響く。
『
「え、あ、はい!」
『
まるで本当にゲームの世界に入ったようだ。
俺は自分のスキルの便利さに言葉を失い、そのまま森の中に入っていく。
「にしても、このスキルまじでなんでもありだな。反動とかないのか?」
こんなに使い勝手が良いスキルなら、デメリットくらいあって普通のはず。俺が独り言で疑問を声にすると、またあの声が頭で響いた。
『スキル《創造》は魔力を使用します。今の貴方の魔力量は100%中の70%です』
「つまり、魔力が尽きれば使えなくなるってことか」
『はい、その通りです。魔力は眠れば回復します。また、創造する物によって、消費量も異なります』
「なるほど。てか、さっきから思ってたけど、君誰なんだ?」
当たり前に会話をしていたが、今更ながらに違和感に気づく。森を抜けるにはまだ遠く、暇な時話し相手がいるのは良いのだが。
『私は、異世界転生者のナビゲートをしているものです。主に、質問やシステムメッセージ、会話相手など、幅広いサポートを行っています』
「要するに、世界に慣れるためのナビゲーターってことか。女神様、普通に優しいな」
分からないことがあったら何でも聞いてみよう。
女神の太っ腹さに心を打たれつつ、俺は地面を蹴り続ける。さきほどから草陰から音がするため、そろそろモンスターが現れる頃だと思い、俺は立ち止まった。
「隠れてるのは分かってる。出てこい、俺の異世界ライフ、記念すべき初戦闘の相手にしてやるよ!」
煽る台詞。その言葉に反応したかのように、草陰から球体ーースライムが俺に襲い掛かってくる。水の刃がいくつも飛び交い、スレスレで通過していく。
俺は間一髪で躱しながら、こう唱えた。
「《ファイアボール》!」
手の平から赤く燃えたぎる魔方陣が展開される。
魔方陣の中心から一つの業火が放たれ、スライムに直撃した。
「よしっ! 魔方できてた」
スライムは怯み、地面に着地して体を振る。体からは水蒸気のようなものが沢山出てきており、属性相性的に不利であることに気づいた。
『魔力量残り63%』
頭の中で響く声。俺は体を強張らせて、顔では余裕の表情を浮かべる。
俺が知っている某ゲームでは、水には草と電気が弱点だった。それが通用するかどうか、賭けに出るしかない。
俺は頭の中で新しい魔法をイメージして、唱える。
「《クリエイト》!」
『
ーー「取得!」
すかさず返答。手の平から黄色に輝く魔方陣が展開される。ビリビリと小さな稲妻を帯びていた。
「喰らえ、《エレキボール》ーー!」
スライムが再び水の刃を放ち、今度は頬に擦る。水が傷口に染みて、とても痛かった。が、魔方陣から勢い良く飛ぶ電撃の球体が、スライムを捉える。
スライムに直撃し、雷鳴が走り、段々とスライムの姿が一つの宝石に変わって足元に転がった。
『スライムを撃破、実績を獲得。魔力量残り54%』
「……なんとか、勝てた……」
脱力したのか、俺は膝から崩れ落ちる。転がっている宝石を取って、俺は溜息を吐いた。
「スライム一体に苦戦するって、結構やばいかも」
スキルがどれだけ有能だとしても、結局は使い方。俺はすぐに立ち上がり、街を目指すため地面を蹴り始める。瞬間ーー
「きゃぁっ! 助けて!」
どこか近くで、悲鳴が響き渡った。
俺は声の方に視線を向け、ゆっくりと近づく。
草陰から覗くと、そこには、がたいの良い牛頭ーーミノタウロスがいて、白髪の猫耳少女が地面に這いつくばり、追い詰められていた。
俺は現場に出会し、恐怖に狩られながら、足が竦むのを体感する。ただ成らぬ威圧。空気が震える。やがて、ミノタウロスが巨大な咆哮を上げた頃、俺はとんでもない殺意に、全身を震わせた。
スキル【創造】で織り成す俺の異世界ライフ 詩羅リン @yossssskei
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