第9話
「先ほどの彼はもう疲れ切っていてね。慣れてきただろうところ申し訳ないが、ここからは私がお相手するよ」
「へぇ、こういうのってする側も体力持って行かれるものなんですね。下手したら毎日の時もあるってどこかで聞いたことありますけど、その時も今回みたいに交代で」
「とりあえず、その話はいいよ。今はもうキミが話す番じゃない。私の質問に答えてね」
このままだと先輩の二の舞になりかねないと、すぐに制止すると不満そうに唇を尖らせた。こう見ると、本当にただの子供なのに。
「・・・はぁい。じゃあ、お姉さんは何を聞くんですか?さっきの話以上に私から言うことってあんまりないような気がするんですけど。」
「今から聞きたいのは凶器について。そうだね、順序立てて行こうか。まずはキミの弟、亜紀さん、そして崎山直里」
凶器と口にした途端、手首を拘束している手錠をジャラジャラと弄び出す。まるで一切の興味が失せたように、新たな暇つぶしを求める子供のように、その瞳には私の姿が映っていない。絶えず口元だけは、笑っているのが尚更不気味だった。
「この話題はお気に召さないみたいだね。でも困っちゃうな。いきなり本題と言うのも気が引けていたんだけど」
「・・・?なんですか」
分かりやすくぶら下げた餌にすぐに食いつく辺り、好奇心に負けることが多そうな子だな。
「単刀直入に聞くよ。・・・誰も、殺してないのかな?」
取り調べが始まって数時間、どんな時でも揺るがず笑みを湛えていた顔から、表情が抜け落ちていく。
そんな彼女には構わず、次々に言葉を浴びせかける。
「少しだけね、変だと思ってたんだよ。」
なにせ彼ら三人の生死を知っているという点を除いて、彼女を犯人だと判断できる材料はない。
遺体の場所や凶器、殺害方法に至るまで、彼女は一切の情報をこちらに与えなかった。
そして度々出てくる、「殺そうと思った」「殺したかった」もう殺してるじゃないか、と先輩に突っ込まれても、何食わぬ顔でそう続けた彼女は、本当にそう思っていたんだろう。理由はどうであれ、本当に自分で殺すつもりだったかもしれない。
でも、殺せなかった。一歩出遅れてしまったんだ。
「長々と関係のない君自身の話をさせて悪かったね。質問を変えようか。―――誰に、先を越されたのかな?」
「バレちゃったら仕方ないですかね?でも別に、気にしなくて大丈夫ですよ。だって」
そこで、ふと言葉を切った彼女はツンと顔を逸らす。
「私がラッキーって思ったのも事実。殺してくれたんだったら、ありがとうって感じだから。」
ドッと徒労感に襲われた。この結果を聞いたら、先輩なんて卒倒しそうだ。
「なぜ、こんな嘘を?犯人を庇っていたり?」
「嫌だな、犯人なんて知りませんよ。ただ最近三人とも居なくなったから、公的に死んだことにしてあげようとしただけです。なかなか難しいですね、この場で一瞬一人の相手を騙せたところで、結局は裏付けをとられるんですからどこかに死体がないと意味無いですし。実際死んでるんだったら、こんな面倒臭いことしなくていい、やるだけ無駄かぁ」
あーあとため息を吐く、元被疑者を前に呆気にとられる。
「普通、そんなことしようとは思わない・・・」
「そうですか?・・・どちらにせよ、もうどうでもいいでしょう?ここにいる私が無関係だって知っちゃいましたから。小娘に割く時間、お忙しい警察の皆さんには無いみたいですし」
「・・・可及的速やかに出て行ってほしい。可能ならぜひ私の管轄外に」
「向こう五年はここに住むとします」
にこやかにそう言って、少女は留置担当官に連れられ、部屋を出た。
もう夜も更けてきたため、恐らくあと四時間程度で児相に引き渡されるだろう。確かあと数日で18になる歳だった。
「先輩お疲れ様です。ビックリでしたねー、まさか自首してきたのに犯人じゃないなんて!ま、家庭環境は酷いから児相直行になるのは確実ですけど」
「あの子は、拒否しそうだけどね」
「嫌ですよ、あんなのが独力で所轄内ウロチョロしてたら!いつまた首突っ込んでくるのか分かったもんじゃないです。」
「・・・そうだな」
結局、拭いきれなかったこの違和感の正体は?
少女が被疑者でなくなった今、確かめる術はどこにもない。
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