第8話 リウの欲しい物
いつもなら歩いて行く道を馬に乗っていくのは新鮮で、高い位置から見る景色も普段とは違う気がする。
ミウは、初めて馬で町に出かけることに、物珍しさと緊張で、自分の体調が良くないことに気付いていなかった。
町に着くと、馬宿に馬を預けて二人はフードを深く被り、慎重に行動する。ミウは人間の姿に変身しているが、万が一のことを考えて、リウは、自分を捨てた誰かに見つからないようにするために・・・。
八百屋で果物を売った後に、肉屋に回った。
「おっ、坊主、今日も売りに来てくれたんだな。坊主んとこの燻製肉は旨いって評判で、よく売れるんだ。おや、今日はいつもより量が多いね。お客さんも喜んで買ってくれるよ。」
店主は肉の代金を、いつもより多くリウに支払った。
礼を言った後、二人はリストに書いた物を買いに店を回る。
すべてを買い終わった後、リウが指で頬をかきながら少し恥ずかしそうにミウを見つめた。
「リウ? どうしたの?」
「実は他にも買いたいものがあるんだ。一緒に行ってくれる?」
「・・・?」
いつも一緒なんだから、わざわざ聞かなくてもいいのに・・・と、ミウは不思議そうな顔をする。
「いいけど・・・。どうしてそんなことを聞くの? いつも一緒に行くのに・・・。」
「ふふっ、じゃあ、行こう!」
リウがミウの手を引いて向かった場所は、若い娘に人気のアクセサリー店だった。
「あっ・・・、このお店・・・」
前回、町に来た時に、たまたま、この店から出てくる少女に出会った。少女は親にペンダントネックレスを買ってもらったようで、うれしそうに胸元をキラキラさせながら出てきたのだ。それをミウはうらやましそうにじっと見ていた。
「ミウ、今日は僕が、ミウの好きなアクセサリーを買ってあげる。そう思って、いつもより頑張ってたくさんお肉を売りに来たんだからね。」
この一ケ月間、リウが寝る間も惜しんで売り物の肉をいつにも増してたくさん作っていたのは、そういうわけだったのか・・・とミウは納得し、とても嬉しいと思った。でも・・・
「でも、もったいなくない? 他に必要なものを買ったほうが良くない?」
「きっとミウはそう言うと思ったんだ。だから、今まで内緒にしてたんだよ。僕の頑張りを受け取ってくれよ。ねっ!」
青い瞳をキラキラさせながら一生懸命に説得しようとしてくれるリウのことが、ミウにはとっても可愛く見えた。
「ふふっ、わかった。リウの頑張り、受け取るよ。」
「よし、じゃあ、中に入ろう。」
リウはご機嫌でミウの手を引っ張り、店の中に入った。
店の中は、キラキラと輝くネックレスや指輪にイヤリング、かわいい帽子なんかも売っていて、若い娘が数人、何を選ぼうかと商品を眺めながら迷っている。皆アクセサリーに夢中で、ミウたちが入ってきたことに気付かない。だから、ほっとした気持ちで店内の様子をぐるりと見回す。
商品の値段を見てみると、本物の宝石が使われているものは値段が張るが、ガラス玉でできているものは安くて、平民女性の小遣いでも買える程度の値段である。
ミウは、いろいろ見比べた後、小さな銀色の花の中に一粒の青いガラスが組み込まれたネックレスを選んだ。
「これがいい。小さくて可愛い。」
「遠慮しなくてもいいんだよ。もっと高いものだって・・・。」
リウは少し不満顔。
だけど、ミウはにっこりと微笑みながらリウを見る。
「だって、これが気に入ったんだよ。この青いガラス、まるで本物の宝石みたい。それに、リウの瞳と同じ色だよ。」
僕の瞳と同じ色・・・
だから選んでくれたのかと思うと、リウの顔がぽっと赤くなる。
「う、うん、これにしよう。気に入ったのが一番だから。」
リウは店員に金を払い、そのネックレスを受け取った。
そして店を離れると、公園へと足を運ぶ。町の人々の憩いの場として作られた小さな公園であるが、今は誰もいなかった。
「良かった。誰もいなくて・・・。僕がネックレスをつけてあげるよ。」
リウはミウのフードを外し、買ってきたネックレスを付けるために首に手を回す。
「あ、あれ? 上手くいかないな。ちょっと待ってね。」
こういうプレゼントは初めてのことなので、リウの手が震えてもたもたしてしまう。
目の前のミウは下からリウを見上げて、じっと終わるのを待っている・・・のだが・・・近い! ミウの顔が近すぎる!
上目遣いに見上げる金色の瞳も長いまつ毛も、何故かとっても色っぽくて、ドキドキしてしまう・・・ さっきまで、簡単に手を握っていたのに・・・。
リウは、カッと真っ赤になってしまう自分を自覚した。
「リウ?」
ミウの可愛らしい唇が僕の名前を呼ぶ。ああ、どうにかなりそうだ・・・。
やっと留め具がつながった。
「できたよ。」
リウはほっとして、一歩退いたが、それと同時に少し寂しさも感じた。
「もたもたしてごめんね。ミウ、とってもよく似合ってるよ。」
ミウの胸元に、自分と同じ瞳の色がキラキラ光っていると思うと、またまた嬉しくなって胸が熱くなる。
「リウ、顔が赤いよ。熱でもあるのかな? 実はミウもさっきからとっても体が熱っぽくて、なんだかふらふらする。体に力が入ら・・・」
ミウは話の途中で体をふらつかせて倒れそうになった。
「ミウ!」
リウは危うくミウの身体を支える。
「ミウ、大丈夫か?・・・って、すごい熱だ。ミウ、ミウ、大丈夫か? 歩けるか?」
「・・・ご、ごめんなさい・・・ちょっと苦しくて・・・無理みたい・・・」
人間ならば熱で火照ると顔が赤くなるのだが、ミウは人間に変身した白い顔が熱で火照って青くなっていた。
このまま帰ると、長時間の移動に耐えれるか心配だ。しばらく様子を見るにしても、今は人間の姿に変身しているが、具合が悪くなれば、変身し続けるのが難しくなる。
「ミウ、今日は帰らずに宿に泊まろう。」
「で、でも・・・」
「大丈夫、僕がなんとかするから。」
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