第4話 命拾い

ミウがいなくなった・・・、どうしよう・・・

焦った気持ちで、リウは大声で叫んだ。


「ミウ! どこにいるのっ?」


ガチャリと隣の物置部屋のドアが開いた。


中からミウが出てきた。色は白く、耳も小さい人間の姿である。


「よ、良かったあ・・・。ミウがいなくて、すごく心配したんだよ。」


「ミウ ドコニモイカナイ ミウノ イエ ココダカラ・・・」


「そ、そうだよね。心配する方がおかしいよね。でも、どうして物置部屋なんかにいたの?」


「ミウ モノオキベヤデ ネル」


「えっ? どうして? ベッドがちゃんとあるのに? 物置部屋にもベッドがあるの?」


「ナイ ケド ハコ ナラベタラ ベッドニナル。ソレニ・・・アッチノホウガ ヨクネレルカラ・・・」


リウは、とても不思議に思ったが、ミウ本人が物置部屋の方がよく寝れると言うのだから、きっとそうなのだろう・・・


それに・・・ああ、そうか! と少し考えてから思い至った。

「ミウは女の子だもんね。寝ているところを見られるのは嫌だよね。気が付かなくてごめんごめん。」


子どもでも、ミウはレディなのだと納得するのだった。




それから二週間、リウは毎日食料確保にチャレンジし続け、初めはできなかった木登りも、少しずつできるようになり、低い位置に生っている実はとれるようになった。


魚を獲る仕掛けの置き方もだんだんわかってきて、毎日一匹から三匹、多い日には五匹獲れるようになった。


ミウにも変化が現れた。笑顔が増えたのだ。


あるとき、リウが仕掛けに入った魚を掴んだら、その手から逃げようとして魚が跳ねた。逃げる魚を捕まえようとあたふたしていると、小石に躓き、どすんと尻もちをついた。ミウはその姿を見て、あははと声をあげて笑った。


火起こし棒をクルクルさせてもなかなか火が点かず、汗をかきかき苦戦しているリュウの横で、ミウがあっという間に火を点けたら、リウは口を尖がらせてちょっと拗ねた。ミウはその姿を見て、ふふっと小さく笑った。


一人で暮らしていた頃は笑うことなんてなかったミウが、リウと暮らすようになって徐々に笑うことが増えていった。


「ねえ、ミウ、最近よく笑うようになったよね。もう寂しくなんかないよね。」


ミウは小さくこくんと頷いた。




それから数日後、魚をとりに川に行き、リウが仕掛けを引き上げてみたら、魚は一匹も入っていなかった。


「ねえ、ミウ、今日は仕掛けの置き場を変えてみるよ。川の反対側に置いてみる。」


川の水は澄んでいて川底がよく見える。川は浅くて子どもでも簡単に川を歩いて渡れるように思えた。


「アッ、リウ イッチャダメ・・・」


ミウが慌てて声をかけたときはもう遅く、リウはじゃぶじゃぶと川の中に入り、反対側の岸に向かって歩いている。


「リウ リウ モドッテ」


ミウは慌ててリウを引き戻そうと追いかける。だが、ミウの手が届く前に、リウの足は深みにはまってしまった。それは九歳の子どもには到底背が届かない深さであった。


「あっ!」


ドボン!! 鈍い水の音とともに一瞬でリウの姿が消えた。


「リ、リウッ!」


ミウは間髪入れずに川の中にもぐり、水中でもがいているリウを背中から片腕を回してグイッと引っ張り浅瀬へと泳いだ。ミウの機転ですぐに深みから脱出することができたリウは、溺れることなく命拾いをした。


「・・・し、死ぬかと思った・・・」

助かってほっとしたら、リウの目に涙が溢れてきた。


「ううっ・・・、怖かったよ~、ミウ、すっごく怖かったあ・・・」


ボロボロ泣きながら怖かったと訴えるリウであったが、背中にふわりと温かいものを感じた。ミウがそっと両腕を回してリウを抱き、背中をポンポンしている。


「リウ モウ ダイジョウブ ダイジョウブダヨ ダカラアンシンシテ・・・」

ミウはそう言いながらリウの背中を優しくポンポンする。


その温かさのお陰で、リウの心が落ち着いてきた。


「ううっ・・・、ミウ、僕はまたキミに助けられたんだね。ありがとう。本当にありがとう。」


溢れる涙を手の甲で拭いながら、リウは何度も礼を言うのだった。




魚の仕掛けは重石が付いたまま、川底に沈んでしまった。取りに行くには、深い川底は子どもには危険だ。だから仕掛けを一から作ることになる。


ミウは森から細枝とツルをとって来て、器用に仕掛けを作った。それを横で見ながらリウは感心する。


「本当にミウは何でもできるんだね。すごいや。」


「ソ、ソンナコト ナイ・・・」

ミウは恥ずかしそうにそう言った。





二人の生活が始まって二ケ月も経つと、リウは森の暮らしにすっかり慣れた。


ミウは、自然にあるものを上手に使って暮らしている。森にあるものは、何一つ無駄なものはないように思われた。


だけど、二ヶ月も暮らしてきて、リウは、物足りなさも感じていた。


ああ・・・、あれが欲しい・・・。

だけど、あれは、町に行かないと手に入らない・・・。


そう言えばと思って、家の中の物をよく見てみたら、森の自然では手に入らない物がたくさんある。


ナイフ、オノ、ノコギリ、鍋や食器や他にもいろいろ、全部店で売っている品物だ。


「ミウは、これをどうやって手に入れたの?」


「トウサン イタトキハ イッショニ カイニイッタ。 イマハ ヒトリデ カイニイク」


「買いに行くって・・・? 町に? お金は?」


「ウン マチニイク。クダモノ ウッテ オカネニ スル」


「すごい! ミウは一人で売るのも買うのもできるんだ! じゃあ、僕、買いたいものがあるんだけど・・・、一緒に行ってくれる?」

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