第8話 速度特化は手伝いたい

 扉を開けると、中は外の雰囲気とは違い、静寂で比較的綺麗な空間が広がっていた。

 照明も建物の外とは違い明るく目に優しい色をした光源であり、表の店のように明るく照らされていた。


 正直に言って情報屋のようには見えなく、裏町にしては異質である。


 壁際にはびっしりと古ぼけた書類や巻き物が積み上げられ、店の中央には奥と入り口を区切るカウンターが存在する。


 そこにはあの金髪の少女と、奥には全身を濃い布で覆ったフード姿、それに何か魔法でも使っているのか認識もしづらい人物がいた。おそらく情報屋『ノン』の店主だろう。


「――誰?」


 少女が、俺の気配に気がつき振り向く。

 その表情には、露骨な警戒心やわずかな苛立ちが浮かんでいた。


 俺の姿を確認すると

「付いてきたの? なんで?」

 と疑問を発した。


「お守りみたいなの落としてた」

 俺がそう答えると少女はハッとしたような表情を浮かべる。


「もしかして……触ったの?」

「……だめだった?」


 正直ちょっとあのバチッとなったのは良くない気がしていた。

 触ってはいけないものだったのだろうか。


「はぁぁぁぁ……まあ、触っちゃったものは仕方ない、で、その残りは?」

「ギルドに預けた」

「……全部最悪な方にやってるわね貴方」


 なんというか、やらかしたらしい。


「あれは精霊を……っていってもわかんないわよね。まあつまり超貴重品で……」

「『バチッ』って触った時になったのやっぱなんか起きてた?」

 少女は頭を抱えているがあーもう、と顔を上げる。

 

「あんたにもこれからのことしばらく手伝ってもらうから」

「……落としたほうが悪いのに?」

「いやまあ……それ言われちゃうとどうしようもないんだけど、報酬も出すから手伝ってくれない? 人手も何もかも足りないし」


 まあ、クエストみたいなものだろうか、面白そうだし首を突っ込む気は元々ある。


「いいよ、手伝う」

 俺は引き受けることにした。


「ノン、貴方にも結構働いてもらうからね」

 少女はフードの人物の方を向き直していう。

「やだ」

 ……断られているじゃん。


「それで、何をするの?」

「簡単に言えばそうね、この街のトップを落とすのよ」


 思ったよりも遥かに大きな目標に俺は言葉を失う。

 

「なんで? って顔をしてるわね。簡単よ……この街のトップ、それが人間のふりをした『星鉄族』だからよ」

「『星鉄族』?」


 聞きなれない単語だ、だいたいこういうので出るとしても魔族とかじゃないだろうか……?


「……あんたプレイヤーなのね? なら知らないのも納得、簡単に言えば、人類のふりをして人類の国を乗っ取るやばい種族ね。知ってる人は多いんだけれど、見抜く手段が少ないからたまにこんな感じで街のトップに入られたり、場合によっては国ごと支配されるまだ気が付かない……そんなこともあるわ」


 俺への説明を終えた後、改めて彼女はノン、と呼ばれている情報屋の方に向き直す。

 

「ノン! だからあんたも動いてよ、この街を支配されたら貴方もこまるでしょ?」

「私が動くのは、私の好奇心が満たされる時だけだよ。リリー」


 情報屋のノンは、相変わらず短く拒絶する。しかし、その声は空間の隅々まで響き渡るような圧力を持っていた。


 ノンはリリーを制し、改めて俺に視線を向ける。フードの奥の表情は見えないが、底しれない実力は伝わってきた。


「ユズ、と言ったな?」

 俺は名前を答えた記憶がないが、把握されているらしい。


「君は少し興味深いな、精霊に触れたのに弾き飛ばされただけなのだろう?」

「精霊……あの『バチッ』ってやつ?」

 

「そうだ、普通、精霊族には触れられず、あの封印に触れたとしても勝手に精霊は逃げるだけだ。だが、君は弾き飛ばされた」

 

「そうなの? でも、何も見えたりはしなかった」

「それは正常だ。だが、君の力の制御方といい、弾き飛ばされたことといい……リリー、あの精霊は水の精霊だったか?」


「そうよ、水の精霊を封じていたわ」


「ならユズ、君は反応からして雷。それに似た魔力資質をしているのだろう」


「珍しいの?」


「資質自体は珍しいものではない、だが、魔力資質の変化というものはこの世界で生きてきて何に触れていたかで変わってくる。プレイヤーが来てからまだ少ししか経っていない現状、普通なら手にしているはずもない、それに……」


「雷の資質持ちは、歴史上でも数が少ないんだ。普通に過ごしていて一番、触れにくいものでもあるしな」


 正直に言って、心当たりすらない。


「そうだな、君は魔力感知の方法を知りたいんだろう?」

 なぜ知っているか、なんて野暮なことは聞かない。


「リリーの案件が解決するか、目処が経ったらもっといい、君に向いている感知方法を教えよう」


「って勝手に仕切るんじゃないわよ」


 たしかに、いつのまにか場を支配していたのは、情報屋『ノン』だった。


「ユズ、だっけ? ちゃんとこいつが言ってるやつ以外にも報酬は渡すから安心してね」


「それで結局、何をどうすればいいの?」

 ノンの話もあり、本題はあまり進んでいなかった。


「まずは、逃た精霊をもう一回捕まえるのと……まあ、これは私がやるわ。できるのならなんだけど……あなたにはとある書類をとってきて欲しいの。この街最大の商会、アズル商会からね」


「盗み?」

 まあ……犯罪行為ではあると思うのだが、リスク的にはどうなのだろうか。


「そうね、危ない橋ではあるわ……もし捕まっても1回なら出してあげることはできるからそこは安心して。それで、そのためにノンに商会内部の情報とか、入るならいい時間とか聞いていたのよ」


 メタ的に言えば、一回失敗したら報酬がもらえなくなる感じの、スニーキングミッションみたいな感じなのだろうか。


「商会の場所はわかる。それで、情報って?」

 俺はノンの方に向き直り、聞いた。


 ノンは何もいわず、紙を差し出した。


 内容としては、朝6時、昼13時、夜23時、その時間に商会の人間が一番少なくなり、何より狙うべき部屋が無人になるらしい。


 商会内部の細かい地図などもある。これほどの情報をどうやって集めたのだろうか、そしてここまでできるのなら……


「ここまでしってるなら、取れるんじゃ」

「いや、物理的な干渉をせずに集めた情報だからね、これ以上は言えないが」


 さっき聞いた、精霊、もしくは何かしらのスキルなのだろうか。

 にしても異様な技術だな、と俺は思う。

 朝昼夜、どの時間でも挑戦可能なのはゲーム的配慮なのだろうか、まあ、こういうことばかり考えていたらゲーム内に没入はできないんだが……


「わかった。それで取る書類って何の?」

「『星鉄族』が乗っ取った国、『ルベライト教国、そこと商会のトップ、そして街のトップでの取引履歴ね。『星鉄族』になれるとされる『禁忌指定』アイテムの取引のものよ」


「なんでわざわざ『星鉄族』?になる人がいるの?」

 他のゲームの魔族的扱いを受けているだろう、『星鉄族』になるメリットは俺には思いつかなかった。


「さあ? まあ、人よりは圧倒的に強い種族だし、もしかしたら『星鉄族』が勝った未来のことを考えているのかもね」


 でも、とリリーは続ける。

「それをさせないために、私がこういうことをしているんだけどね」


「そうなんだ、わかった」

 俺はノンから紙をもらい、頭の中で少し計画を立てる。


「あ、そうそう。書類取れたらまたここに集合ね」

 リリーから補足が入る。


「リリー……」

 ノンは不服そうではあるが、まあいいか。と納得したみたいだ。


「じゃあユズ、そっちは任せたわよ」

 リリーはそう言って、店から出て行った。

 それに続き俺もノンに頭を下げ、商会に下見をしに行くことにした。



 


「雷の申し子か、今年は厄年だな」

 誰かの声が、閉じた扉の奥から微かに聞こえた気がした。

 

 

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