雑談しよう

水園寺 蓮

雑談

「みんなの理想のプロポーズ聞きたい」


「お前……ほんと、いつも突然だなぁ」


「聞きたい聞きたい聞きたい!」


「私も聞いてみたい。とくにウグさんの」


「私も気になる」


「なんでだよ」


「まぁ一回は聞いてみたいよね」


 いつものごとくすぎる流れ。このやり方を何度押し通されたことだろう。誰かが思い付きの無茶ぶりやゲームを言い出して、それに一人が乗っかって、一人が賛同して、一人が余計なことを言うか、稀に私と同じ側に立つ。稀にだが。


「自分はとくにないからパスね」


「えーウグのやつ聞きたいー」


 この言い出しっぺ。いつもこいつが言い出しっぺ。何度こいつのことを心の中で殴ったことだろう。まだこの程度のことならいいが、恨んだままいつかやり返してやろうと思って眠らせている行為もあるくらいにはこいつに振り回されている。


 そもそもこいつら全員が揃った時の行動は大体ろくなもんじゃない。ボケにボケのボケ渋滞。それを基本一人で捌く私を褒めてくれ。


 え、じゃあなんでこいつらといるかって?


 それはちょちょいのちょいで説明できるもんじゃねぇから今は放っといてくれ。ただ言えることは、私はこいつらに大層甘くなってしまったということだ。


「まず言い出しっぺからだろ」


「ウグは?」


「だからないって」


「じゃあズナから話して、ウグ最後ね」


 段取り決めやがったブキに関してはいつもズナの奴に乗っかる。この二人は波長が合うんだろうな。なかなかどちらかの提案をどちらかが蹴とばしたことを見たことがない。それもそうか。この二人、もはや同じアカウントではないのかと疑うくらい、TLに流れてくるものが一致している。脳みそ共有してんのかもな。



「まず、まずだよ?面白いのがいい!夜景の見えるー高そうなーレストランでー―――」




 プロポーズ、か。考えたこともない。


 そもそも結婚する気がない。誰かと添い遂げる、家族になる、愛し合う…………一人でよくないか?


 結婚とは幸せか。それは常に問われることだが、世の中をみるとまぁ半々といっていいんじゃないか。幸か不幸かなんていうのは人それぞれで、第一幸せを幸せと思わない奴もいる。私のように。


 私はまず家族が嫌いだ。嫌いだとは言うが、普通に愛があるとも言う。家族愛かは怪しいが、所有愛とでも言おうか、とりあえず私が行き場所への情は持ち合わせているということだ。ただ嫌い。家という形が嫌いで、思考の合わない家族を好きになれないだけだ。


 次に誰かといること、それが考えられない。私は多分一人の時間を失うと死ぬタイプだ。比喩じゃなく、本当に心の方が死んでいく。高校のはじめ、忙しすぎて家に寝に帰るような時期だった頃、好きなことも何もできなくて、それを話せるような友達もいなくてかなり病んだ。そして半壊してた、気がする。あの時期のことはよく覚えてない。ただ言えることに、何かが壊れていた事実はある。


 とことん人といるのは向いてない。近づいてくる人間にむやみやたらに刃物を振りかざすように、距離が近くなった人間にナイフ投げまくって相手を試す。大半はその期間でグッバイだ。気楽でいい。最低なやり方だが、卒業までつき合える人間を探すには丁度よかった。化けの皮がどこまで剝がれるかわからないからこそ、最初から試すしか方法がない。


 化けの皮というだけあって私は隠し事も多い。誰が表に出してやるかってもんだが、生涯嘘を貫けば真実になる。だから嘘がバレないようにするのもちょっとめんどくさい。


 色々なわけで私は今の目の前の連中に散々な態度や発言をしてきたわけだが、高校を卒業した今もこうしてこいつらは残っている。今のところ。


 ただ、どんなに居心地が良くても私は長続きしない。潮時だと思ったら自分で壊すからだ。まぁ何が言いたいかというと、結婚なんてしたら私も相手も幸せにはなれないということだ。


 一人は楽だ。何をしても、何を思っても、どれだけナイフで遊んでも問題にならない。他人に割く労力にリターンが見込めないなら割く価値はないからな、一人なら無駄が発生しないのもいいところだ。


 そうだ、下手に縛られないのもいいな。家族が嫌いだから、誰かと家を作るのも嫌だし、子どもとかも無理だ。子ども嫌いだしな。


 愛するからこそ、一緒にいちゃいけない。


「ちょっと」


「ん?」


「ん、じゃないよ次、ウグの番」


「だから……」


「場所くらいないの?」


いつのまに私の番に……めんどい。めんどい、めんどい、めんどい!

ほんとこいつらといるといつもこうだ。


「場所ねぇ……」


 理想のプロポーズ。

 結婚する気も、誰かと一緒に生きるつもりのない私が理想とする言葉。


「墓場で一緒の墓に入ろう、とか?」


「なんで?」


「墓…」


「昼間だよね?」


「いや墓場行くなら夜か夕方だろ」


「なんで」


 ズナのなんで攻撃と、ブキとラギの困惑顔、そしてイナの引き顔だか呆れ顔だかの微妙な顔。これもまたいつものこと。


「墓が好きでも墓に入るの嫌いだし、そもそも一緒の墓に入るほど人間同士が一緒にいるとは思ってない。とくに私は要らないと思った瞬間切り捨てるから」


「嫌いなのに一緒の墓に入ろうって言われたいの?」


「いや?プロポーズってことはある程度お互いのことを理解してる、つまり私がそういう家的な形をとることが嫌いなことも把握してるわけだ。でも一緒の墓に入ろうって相手は言う……最悪のプロポーズだろ?」


「それで結婚するの?」


「最悪なのに?」


「墓場でプロポーズの時点でイカレてるよ」


「私もそう思う」


 本人がそう思うのかよ、というイナの顔。今はイナがツッコミ役に回ったな。


「私と結婚するなら、嫌なことに縛り付ける自覚を持ったうえで最後まで愛しますって宣言してもらわないと嫌だね。私は裏切りが一番嫌いだから」


「……ウグってさぁ……たまに…うん」


「ウグさんらしいね」


「甘くねぇ……」


「想定の想定を超えてくる」



「まずまず結婚する気がないからな、今適当に考えたことだよ」


 それよりさ、と言えば話題はすぐに移り変わる。別にここの誰も本気だと思っちゃいないだろうけど、わりと本気の部分もあったよ。


 まぁ言わないけど。

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