【オムニバス】哀しき者達

越後浪人

ハマサキ朝ゾット帝国

この国はゾット帝国といい、今の皇帝は『ハマサキ朝』の3代目皇帝シャム帝である。

老齢により、隠居した先代のバーニング帝は上皇となってシャム帝の後ろ盾となっているが、既に70代となり、皇女2人を正副の摂政とした。


姉をタップ公主といい、妹をサシャ公主という。

上皇は長男だからとシャム帝を立太子し、譲位したが40代になっても後宮遊びにしか興味のない彼に愛想を尽かしていた。


「タップ&サシャ。話がある」

「何でございますか。上皇陛下」

「私の部屋に来てくれ」


上皇の寝室に来た2人の皇女は父である上皇からこう告げられる。

「シャムはあの通りだから私が死んだら隠居させる。次の皇帝はタップに決めるし、タップの夫のヒカルを関白として補佐させる」


それを聞いた姉妹は互いの顔を合わせ納得しつつ哀しむ。

シャム帝の治世になってから男性官僚が罷免され、女性の官僚に差し替えられる場面が続出した。


その癖、口を開けば『ガチ恋か』『ドレスに掛けたい』などというので後宮の女性達ですら愛想を尽かしている。


その日から4ヶ月経ったシャム帝12年の3月4日。

上皇は未明に息を引き取り、誕生日早々にシャム帝は帝室の保養所があるゴウダ島の温泉地にて喪に服すこととなった。


この服喪には裏があり、彼の静養を名目として廃立し、ゴウダ島の温泉地へ幽閉しようとしたのである。


「喪主は朕だで!朕が皇帝だで!!」

シェル港から船に乗せられたシャム帝は帝冠と印璽を取り上げられ、屈強な兵達に警護されつつゴウダ島の保養所へ幽閉された。


一方、帝都オーガキでは「新帝即位万歳!!」の声が上がる。


正摂政のタップ公主が即位し、4代目皇帝となったのである。

新帝ことタップ女帝は男の官僚達を呼び戻し、適材適所とした。

その中でもクレイ・バレイ将軍は中佐に降格させられ、ゴウダ島の守備隊に左遷されていたが、新帝により大将に復職して野戦軍26万を任されることとなった。


廃帝となったシャム上皇のお気に入りで宰相にまでなったテングリ姉妹は新帝から今までの苦労を労われ、久々の休暇を取れることとなる。


ゴウダ島へ押し込められられた廃帝シャムはどうなったか。

妹帝が庶人への降格こそ免除したものの、上皇とは名ばかりで『オフゼロ侯』と国民から皮肉られ、嘲けられる。


南斉の東昏侯よろしく『皇帝としての尊称を渡す価値がない』という貶降である。


「オラは悪くない。悪くないだで」

廃帝シャムがそう思いたい心境は筆者とて合点が行く。


せっかく帝室専用温泉があるのに彼はそれを非常に嫌がった。


「上皇様。お風呂に入らねばお肌が……」

ゴウダ島駐在女官のイブキが何度諫めても彼が嫌がることから浴槽で番茶を煮出し、廃帝用の風呂とした。


この番茶風呂自体は民間療法であり、筆者自身も過去にやって皮膚炎がマシになった。


「何だで?これは」

「上皇様専用の薬湯でございます」

駄々をこねる廃帝に厳しく突き放すイブキ。


恐れをなした彼はそれ以降、イブキを遠ざけようとする。


イブキを避けたいが、彼女の部下であるセイナに欲情する廃帝。

そのセイナを廃帝から隠し続けるイブキは彼に対してこう叱る。


「上皇様。『努力なくして真の勝利などありませぬ』」

「オラは一発で勝ちたいだで!」


亡父を、亡母を、妹を、義弟を、閣僚達を、将軍達を、憎む廃帝。

哀しいことに今は亡き上皇&皇太后や妹帝と関白の夫妻。オーガキ在住のシェル女王となったサシャ公主夫妻、閣僚達、将軍達が彼に気を遣ったことを未だに認知できていない。


4月23日。亡くなったバーニング上皇の四十九日が開けた日。

初七日すら立ち会えず、喪主の地位どころか帝位すら取り上げられた廃帝シャムはロイヤルSNSで旨味のある話を聞く。


『我が国で暮らせば美味しい物は食べ放題&綺麗どころも抱き放題』


歯の浮くようなキャッチコピーだが、これは大嘘で、読み上げている女性の声や画像もAIで仕立てられたものだった。


「オラを救い出せ!」


そして商談が成ったはずなのに迎えの船は一向に来なかった。

それもそのはず。イブキのリークを受けたタナカ参謀長がバレイ将軍に献策して迎えの部隊を大破し、ゴウダ島へ近寄らせなかったのである。


「どうしてだで……」

彼こと廃帝に悪いが『真っ当な厳しさより偽りの優しさ』、またの言い方を『厳しい善人より優しい悪人』ともいうスタンスでは愛想を尽かす者も多かろう。


かくしてイブキの手によって廃帝は体よく処刑された。


その処刑法もなかなか奇異なやり方で、廃帝を目隠しして自動ラブドールに相手させ、好きなだけ遊ばせて腹上死させたうえで打ち首にしたのである。


「やっと見つけた……。オラのハーレム要員だで……」

それが廃帝最後の言葉だった。


ラブドールごと彼を焼き払った後、イブキはゴウダ島の帝室専用保養所を念入りに掃除させ、リニューアル工事までさせた。


以降、小男の幽霊が出ると噂されゴウダ島自体が余人の立ち入り厳禁となる。


イブキはタップ女帝に『兄廃帝は事故死した』と嘘の報告をしたが、女帝や文武百官は真実を察していた。


『国中から持て余されていた廃帝シャムをイブキが体よく始末した』

と。


女帝姉妹と2人の亭主だけが廃帝の最期を憐れんだ。


『兄上、お労しや……』

と。


そう思いつつも彼が閻魔大王により、重罰を科されていることすら察してしまったのである。

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