調査終了
「隼人君。コーヒー飲めるんだな…。」
「そうですね。実を言うと、俺も飲めます。しかもブラック。」
裏谷月がガーンと効果音が出てきそうなほど、あんぐりと口を開けた。
あの後、俺の提案通り、裏谷月の奢りでコンビニで飲み物を買って一息ついて、隼人は自宅に帰った。互いの連絡先を交換して、今後の調査に協力してもらう約束もしてもらった。
俺は今、コンビニの前で裏谷月と話をしている。隼人と同じタイミングで帰ってもよかったが、まだまだ話したいことがあったのだ。
「しかし、今日だけで結構良い情報が手に入ったね。意外と早く解決の糸口が見えてきたよ。」
裏谷月は今回は楽そうだなと、余裕綽々な笑みを浮かべて言った。
「はい、そうですね。先輩の元同級生と隼人君の話を聞くに、高校入学と卒業が先輩の奇病の重要なファクターになっているのは間違いないです。」
「うむ。しかし今更なんだが、よく君は奇病なんて眉唾なものを信じたね。そういうを信じるほどピュアには見えないが。」
「そうですね、よく言われます。今回、裏谷月さんを尋ねたのは先輩の言葉もあったからですが、本当のところは祖母の影響が大きいのだと思います。」
「祖母?」
「はい。俺、両親を交通事故で亡くしてからずっと祖母と二人暮らしをしてきたんです。俺が手を洗わない時とか悪いことをした時なんかには、決まってバラマキの話をされました。それに加えて、祖母の実体験の話ですね。」
「変わったお祖母様だね。実体験というのが気になるが。」
職業が職業だからか俺の話を真剣な眼差しで聞いてきた。
「えーと確か、祖母が子供の頃、お兄さんがいたそうなんです。ですが、彼が高校の頃、両親と喧嘩して家出してそれっきり帰ってこなかったそうで。」
「五十年以上前の話だろう。その頃なら高校生の家出なんぞ珍しい話ではないはずだが。」
「話はここからです。十年ほど前、もう祖母もとっくの昔に兄のことを諦めて、俺と二人暮らしを始めた頃です。見たらしいんですよ。商店街で。」
「…何を?」
「行方不明になった兄が当時の姿のままで立ち尽くしているところを。」
カラン。
缶の落ちる音がした。裏谷月を見ると、顔を真っ青にして、紅茶の缶を持っていたはずの手には何もなく、微かに手を震わせていた。
「どうかしたんですか?裏谷月さん。」
「嘘だろう。そんなまさか…。」
「裏谷月さん…?裏谷月さんッ!?」
裏谷月が突然走り出した。
俺はそれを追いかけようとするが、百九十近くある大男の全力疾走に追いつくことはできず、すぐに見失ってしまった。
「一体急にどうしたんだよ。」
息を切らして膝に両手をつく。突然の出来事。いきなり土地勘のない場所で一人にされて不安感に包まれた。
スマホの通知音が聞こえた。画面を開き、通知センターを確認する。
19:50 裏谷月『悪いが、この件についての調査は取り止めとさせていただく。着手金は後日、君の家に郵送で送らせてもらう。本当に申し訳ない。』
そう書かれてあった。
街灯一つない住宅街の中、調査終了の文面を写すスマホの画面が淡々と光っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます