第25話 サトル、結婚式に招かれとる

 アシュロフト村近くの街道では。

 バルズバランが「ちょっと一旦、ちょっと少し待って」と歯切れの悪い感じで通信魔法を終えてから10分余りが過ぎようとしていた。


 バルルンが「あ。また来た。はーい。お父様、なにー?」と再度通信魔法を発動させる。

 この通信魔法は送り手と受け手の双方が同じ魔法を発動できないと効果を発揮しないので、秘匿性バツグン、秘密めいた話の時などにはもってこいなのだ。


『こちらバルズバラン。バルルンよ。クサットルを出してくれ』

「サトルー。お父様がなんか呼んでるんですけどー」


 ニナとライカに「なんでこんなズルズルしているお花の冠を被っているのですか?」「師匠がバカだからっすよ。どうするんすか、このズルズル」と頭の調子を気にかけられていたサトルが「いきなり襲い掛かるのはなしにしてくださいよ」と言って、招集に応じた。


「はい。サトルですけど」

『これより我らが魔族を統べる偉大なる魔王。ファロス様が貴様にお話をなされると仰せだ。拝聴せよ』


「魔王? ああ、はい。なんかよく分からないけど、分かりました」

『くれぐれも不敬のないようにせよ。……ファロス様に代わる』


 バルズバランが跪き、漆黒のマントを翻して魔王ファロスが現れた。


『フフフッ。余がファロス。リデルコベルを統べる魔王! ファロスなり!!』

「どうも」


 サトルの反応が極めて淡泊なものだった。

 それはファロスが齢700を超える老人の姿だったからなのかもしれない。


『フフフッ。余を見て臆することなくどうもと言ってのけるか! さすがだな。クサットル……!!』


 サトルは隣で通信魔法発動中のバルルンに聞いた。

 「このおじいちゃんが本当に魔王なの?」と。


 バルルンは答えた。

 「あたいはお会いしたことないから分かんないし。けど、お父様が言うんだからこのおじいちゃんが多分魔王様だと思うんですけど」と。


『フフフッ。余をおじいちゃんと呼ぶか』


 後ろで控えていたバルズバランが「貴様! 不敬であるぞ!!」と立ち上がるものの、勢いが弱い。

 それは娘のバルルンの方が不敬を働いているからに他ならない。

 「魔王の姿を知らない」「おじいちゃん」「多分魔王」の3連打。


『バルルン! ごめんなさいしなさい!!』

「えー。だってあたい、ホントに知らないんだもん。けど、ごめんなさい!」


『フフフッ。バルルンちゃん、いい子だね。余があとでお小遣いをあげよう』

「ホントに? やった! ありがとうございます! 魔王様!!」


『フフフッ。それよりも本題に入らせてもらおう。クサットル。そしてその仲間たちよ。王命である。余の主催する結婚式に参列せよ』

「別にいいですけど。誰が結婚するんですか?」


『フフフッ。我が忠臣、炎魔のバルズバランである』

「そうなんですか! 良かったね、バルルン!」



「えっ。お父様とお母様って結婚してなかったの?」


 自分の複雑な家庭事情を知って、そちらの方がショックだったバルルン。



 ニナが「よろしいでしょうか?」とサトルの隣にやって来てファロスに向けて言った。

 ライカは「ニナも師匠もどんな強心臓してるんすかぁー」と嘆いている。


『フフフッ。良い。申してみよ。そなたはニナちゃんかな?』

「はい! ニナと申します! わたしたちも結婚式にお呼ばれしてもよろしいのでしょうか? わたし、ただの村娘なんですけれど」


『フフフッ。そなたの言葉を借りるのであれば、余はただの魔王である。良い。美味しいお料理とお酒でおもてなしさせて頂こう』

「わぁ! あのあの! ヒョッポリ教の賢者様とゴリマッチョさんも一緒によろしいですか?」


『フフフッ。良い。賢者であろうとゴリ? ゴリマッチョ? であろうと。余はクサットルの仲間を全員結婚式に呼ぶつもりである。変更はない』

「ありがとうございます! それではわたし、ここにお連れしますね!」


 ニナがペコリとお辞儀をして、アシュロフト村の方へ駆けて行った。


「俺たちこんな格好なんですけど。失礼じゃないですかね?」

『フフフッ。意外と聡いな。クサットル。卿らの礼服とドレスはこちらで用意しよう。バルルンちゃん。そこに召喚魔方陣を発動させる。魔力で維持できるかな?』


「余裕だし!! あ、ごめんなさい。余裕です!」

『フフフッ。普段通りの喋り方でいいんだよ。余もそうしておるゆえ。それではクサットルと仲間たち。魔王城にて待つ。心の準備が済み次第、来るが良い。フフフッ』


 通信魔法が途切れた。

 それからしばらくしてミネアリスとゴリマッチョが街道沿いにやって来た。


「サトル様!? なにしているんですか!? 魔王が開催する結婚式に出る!? バカですか!?」

「あ。ミネアリスさんには紹介してませんでしたね。この子、バルルンです。魔王軍四天王の娘なんですって」


「えっ!? ええっ!? 思考が追い付きません……! わたくしがゴリマッチョ様と出会っていなかったら、サトル様を異端審問にかけているところですよ」

「ゴリマッチョ! ナイスぅ!!」


 ゴリマッチョが跪いて「ウホ。至上の悦びにございます」と首を垂れた。


「はじめまして! バルルンです! ミネアリス? と、ゴリマッチョ! よろしく! あたい、サトルの友達とは仲良くしたいんですけど!!」

「ふぐっ……。なんて真っすぐな視線……!! 本当に魔族なのか疑いたくなる天真爛漫さ……!!」


「じゃあみんな。せっかくだし、行こうか? ドレスとかあっちで用意してくれるらしいし。俺たちは着の身着のままで良いらしいよ?」

「せっかくの機会ですから! さあさあ! 参りましょう! 皆さん!! さあ! 早く!! バルルンちゃんも魔法陣の維持をするの大変だと思いますし!!」


 野次馬系乙女、ニナ。

 魔王城とか魔族の結婚式とか、気になるワードが盛りだくさん。

 行かない理由はないと言わんばかりにたわわな胸を張った。


「おっほ!! よし、行くぞ! みんな!!」

「あたしは師匠とニナが心配なのでついて行くっす」


 いつの間にか師匠の保護者みたいになったライカがサトルとニナに続いて魔法陣の中に入る。


「私は我が創造主クサットル様の行かれるところならば、地獄であろうとお供いたしますウホ」

「わたくしはゴリマッチョ様が行かれるというのならお供します!!」


 ゴリマッチョとミネアリスも魔法陣の中へ。

 全員が参列希望ということになったのを確認して、バルルンが「じゃあ行くね!」と自身も魔法陣の内側に入ってから、地面に手をついた。


「とりゃー!!」

「おっほぉ!!」


 バルルンが魔力を込めると景色は一変する。

 そこはとある山脈にある、魔王城の外だった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 サトルたちを待っていたのは氷鬼のギリアン。


「あ! ギリアンさん! お父様が結婚してなかったって知ってた!? あたい、さっき知ったんですけど!!」

「ああ。私も知らなかった。まさか内縁関係だったとは。しかし、本日をもって正式な婚姻関係になるはずだ。よく来た、人間たち。私は四天王がひとり! 氷鬼のギリアン!!」


 バルルンとは顔見知りのギリアン。

 何度も繰り返すが、ギリアンは別に頭を打っていないので人間憎しのスタンスを崩したわけではない。

 ただ彼は忠誠心が極めて高いので、魔王ファロスが「フフフッ」と笑って方針を転換すればそれに黙って従うだけ。


「お迎えありがとうございます! わぁ! ここが魔王城! お花でいっぱいですね!! ステキです!」

「分かるか!? 人間の女!! この花の苗は私が部下のモンスターを総動員して集めさせたのだ!!」


 ミネアリスが呟いた。


「ん? リデルコベルでモンスターの数が激減していたのって、もしかして……」

「そちらの人間の女は聡明だな。左様。私の指示だ。人間を襲っている場合ではなかった。お花の選定に魔王軍を総動員させていたのでな!!」


 サトルと仲間たち、魔王城に到着。

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