第18話 創造! 『すごくキク傷薬』!!
その頃のアシュロフト村。武器屋では。
「サトルさんとライカちゃん、ちゃんと修業できているのでしょうか。ちょっぴり心配です」
危なっかしい師弟コンビを憂うニナがいた。
「ニナ様の我が創造主クサットル様とライカ様を想う御心、このゴリマッチョ感服いたしましてございます。食事の用意は私に任せて、どうぞ心穏やかにお過ごしくださいませウホ」
傍らには白き獣神ゴリマッチョ。
彼にはニナの「お料理のできる生物」という想像力が付与されているので、リデルコベルの料理はもちろん、サトルが前世を生きた地球のメニューも完全再現が可能。
今ゴリマッチョが作っているのは、米に卵をあえて、細かく切った肉や野菜と一緒に炒め、塩コショウで味付けをしたもの。
「さあ。我らも食事に致しましょう。今頃クサットル様とライカ様もお昼の休息を取っておられる頃合いかと」
「これは何というお料理ですか? わたくし、リデルコベルは東西南北全ての大陸へ行った事がありますけれど、初めて見ます!」
ゴリマッチョのいるところには当然ミネアリスもいる。
彼女はゴリマッチョ以外の男が嫌いになったものの、ニナとライカに対しては礼儀正しく接している。同じ村で暮らすのだ。礼節はとても大事。
「ニナさんはご存じですか?」
「分からないです。でもいい匂いですね!」
「これはクサットル様の故郷の料理でございます」
そう言うとゴリマッチョは「完成でございます」とお皿に盛り付けてテーブルに並べる。
その料理の名前は。
「これはチャハーン。サトル様の故郷では母親の手料理として最もポピュラーなものの1つでウホ」
そう。これはチャハーン。
みんな大好きチャハーンである。
「では、いただきましょう! ミネアリスさん!」
「ええ。そうですね。ゴリマッチョ様の手料理……。このミネアリス、米粒1つまで残さず味わいますとも!!」
「はむっ。……なんですかこれ! すごく美味しいです! お口の中が幸せです!!」
「本当に! 何でもできるのですね、ゴリマッチョ様!!」
「我が創造主クサットル様の御力のおかげございます」
言葉では言い表せないほど美味だったらしく、チャハーンはサトルたちが村へ帰って来る前にアシュロフト村の名物料理として産声を上げるのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ほとんど同じタイミングでお昼ごはんを食べ終えたサトルとライカ。
魔法が使いたくて堪らないサトル。
高原を焼け野原にはしたくないライカ。
「とりあえず薬草の採取をするっすよ。この辺、明らかに草が生い茂ってますし」
「えー。俺、魔法が使いたいんだけどなぁ」
「……そうだ! 薬草って希少なものだと結構バカにならない金額で換金所が買い取ってくれるんすよ! 例えばヒョッポリ草! これはヒョッポリ教の作るポーションの材料なんすけど、サトル師匠の持って来た籠いっぱいに採れれば金貨10枚は余裕っす!」
「よし! 薬草を探そう!!」
師匠のコントロール方法が少しわかって来たライカ。
サトルはスローライフのためだという大義さえあれば、割と何でもする。
将来的に楽するために、今の努力は惜しまない。
「あたしも探すっすかねー」
「ライカちゃん! ライカちゃん!!」
「なんすか? もう見つけたんすか? さすがっすねー」
「そのスカート丈で中腰になられるとさ! 俺、集中できないんだけど!!」
「……師匠、前世では一人暮らししてたんすよね? 仕事しながら、勉強もしつつ。それ、ホントの話っすか? なんかあたし、たまに師匠がいやらしいことしか考えてない人に見えて仕方ないんすけどぉー」
「ついでになんか光ってる草も見つけたから、確認してもらおうと思って」
「それ! ヒョッポリライト草じゃないっすか!!」
「分かりにくい!! この世界の薬草ってみんなヒョッポリが頭に付くの!?」
だいたいヒョッポリが頭に付くのである。
特に冒険者から一般市民までみんながお世話になる回復薬ポーションの材料になる薬草はヒョッポリ教が市場を独占しており、名前も「ヒョッポリ〇〇草」で統一されている。
「ちょー貴重な薬草っすよ! 師匠が持ってる量だけでも金貨5枚はイケちゃうっす!」
「これが!? このちょっと光ってる雑草みたいなのが!?」
「その光ってる部分が大事なんすよ。そこは大地から魔力を吸い上げてる証拠で、光が強ければ魔力の含有量も多くなるんす。主に魔法力回復用ポーションの材料になる、なかなかお目に掛かれない薬草なんすからね」
「ライカちゃん。俺、すごい事を思い付いたかもしれない」
ライカの視線が光っているヒョッポリライト草からサトルの輝いている瞳に移行して、その過程でじっとりとした目に変化した。
サトルの事は尊敬している。
尊敬しているが、その上で「思い付いた」とか言われると不安の方が先にやって来る。
この男の想像力がアレなのも熟知しているからである。
「俺のスキルでさ。この薬草からポーション作ってさ。ヒョッポリ教のものよりも良いヤツ! それを量産したら、一瞬でお金持ちになれると思わない? ニナとライカちゃんにも楽させてあげられるし! ミネアリスさんも俺の事を見直してくれるかも!!」
「師匠にしては思ったよりもまともな発想でちょっとビックリっす。けど……。んー。んんー? あたしポーションについては詳しくないんすよねぇ。サトル師匠に至っては多分飲んだことどころか見たこともないでしょうし。成功率がちょー低そうなんすよねぇ」
そこでライカは折衷案を提示することにした。
「村に帰ってから、ミネアリスさんに協力をお願いするのはどうっすか? あの人はヒョッポリ教の賢者だし薬学にも詳しいと思うんす!」と、ライカはサトルに伝えたかった。
過去形なのは、ちょっと目を離したすきにサトルの両手が魔力を帯びて輝いていたからである。
「よっしゃあぁぁぁ!! すごいポーション! ポーションってなんだろう? まあ要するに傷薬か!! すごくキク傷薬出て来い!! どんな魔物のアレやコレにもキク、すごいヤツ!! あの、魔物に……。俺、魔物って燃えてる人以外知らないな。とにかくキク傷薬!! うぉぉぉおおぉぉぉぉ!!」
「ぎゃー!! ちょっと待つっすー!! それ魔法力回復ポーションの材料だって言ったじゃないっすかぁ!! なんで傷薬!?」
サトルの『創造』が完了した。
ピンク色の薬液が瓶に詰まった、とりあえずポーションらしき何かがそこにはあった。
「ライカちゃん」
「嫌っす」
「ちょっと飲んでみてくれる?」
「嫌っすよぉ!! 冒険者にとって最大のピンチって何だと思いますか!? サトル師匠!!」
「えっ? モンスターに囲まれた時?」
「近くに建物がないのにお腹が痛くなった時っすよぉ!! 絶対、ぜーったいに飲まないっすからね!!」
これにはサトルも「なるほど。それは困る!」と納得する。
一先ず『創造』で出て来た『すごくキク傷薬』は籠の中へ。
「ところでライカちゃん。あそこに見えるのが例の休火山だよね」
「そっすよ? ……あれ?」
「なんか爆発してない?」
「してるっすね。師匠。確認なんすけど。魔王軍四天王の1人ってトドメ刺したんすよね?」
「いや? 勝手に帰って行ったよ?」
「じゃあ生きてるじゃないっすかぁー!! それ知っててなんで言わないんすかぁ!!」
「ニナも知ってるけど、特になにも言わなかったから! 俺も合わせた方がいいのかなって!」
「ニナぁー!!」
炎魔のバルズバラン、再臨か。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃のアシュロフト村の武器屋。
昼食を終えた2人と1匹がいた。
「洗い物くらいわたしにやらせてくださいよ、ゴリマッチョさん」
「いえ。料理は洗い物を済ませるまで終わりません。む。申し訳ありません。お皿が1枚割れてしまいましたウホ」
「あ。全然、全然。お気になさらないでください。あれ? それ、サトルさんのお皿ですね。今朝洗っておいたはずなのですけど……」
「急に棚から落ちて来ましたウホ」
不吉な予感ウホ。
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