第15話 ゴリマッチョVSミネアリス
ニナがゴリマッチョに盾を投げて渡した。
サトルが『創造』してからこっち、ついに誰にも買ってもらえなかったほどほどに硬い盾である。
「ゴリマッチョさん! これを使ってください!!」
「拝承。ニナ様の御心遣いに必ずや応えてご覧に入れましょう。このゴリマッチョはクサットル様の創り上げた最高傑作でウホ」
ミネアリスが魔力の集約された杖の先端をゴリマッチョに向けた。
「すみません! 先手必勝とさせていただきます! 『ウインドスライサー』!!」
「ウホ!!」
風の刃がゴリマッチョを襲う。
だが白き神獣を自称するゴリラ、それをジャンプで躱す。
すると風の刃はそのまま武器屋の方へ飛んでいく。
「ぎゃー!! こっち来たっすよー!! ししょー!?」
「ん!? なんて!? 塩コショウ!? ちょっと耳鳴りがひどくてさ!! 頭も痛い!!」
先ほどからサトルがダメになっているのは魔力の枯渇症状。
準備運動もせずに100メートル走を全力ダッシュしたら足をつったり、悪ければ肉離れをするように、サトルはもっとスキル『創造』の段階を踏んで、きちんとステップアップするべきだったのだ。
生命体の『創造』には相当な量の魔力が必要とされる。
サトルにはまだそれだけの魔力を扱える技量がない。
「サトルさん! 伏せてください!!」
「ん!? なんて!? あらやだ! あったかい!! なんか俺、すごくもったいないことになってない!?」
ニナが身を挺してサトルを守る。
当然だが彼女の立派な胸がサトルの背中に押し付けられる。
命の危機とあったかくて柔らかい感触、どちらが大事だろうか。
どちらも大事である。
愚問であった。
「こうなったらあたしも!! って、あれ? 賢者さんの魔法消えてるっすね?」
ミネアリスの『ウインドスライサー』は武器屋の軒先を少しかすめたところで霧散する。
彼女は言う。
「わたくしは手荒な真似をしたくないのです! どうか投降してください!」
「手荒な真似してるじゃないですか! 良くないと思う、俺! 今のでちょっとコンディションが良くなりましたもん! 当たったら死ぬような魔法を寸止めとか、ひどいことをする!!」
「なぁぁぁ!? まるでわたくしが悪者のような言い草! 聞き捨てなりません!!」
「いや実際のところ悪者ですよ。かなり。だって俺、このアシュロフト村で静かに暮らそうとしているだけなのに。その住まいにやって来てこの騒ぎですからね」
ニナが瞳をキラキラと輝かせてサトルを見る。
「さすがです! サトルさん!! 意図してなのかそうじゃないのか分かりませんけど、敢えて相手を煽っていくそのスタイル!! わたし大好きです!!」
「そう? ニナが気に入ってくれたなら良かった! 晩ごはんはお肉がいいな!!」
じっとりとした視線を師匠と親友に向けるのはライカ。
「……この人たち、危機意識が希薄なんすよね」
魔王軍四天王の1人炎魔のバルズバランと戦っていた時もこの2人はこんな感じでしたとライカに伝えたら、彼女の視線はもっとじっとりするだろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「貴女は本来ならば優しい人のはずです。今からでも遅くはない。こんな無意味な争いはヤメましょうウホ。貴女が傷つく姿を見たくないウホ」
一方のゴリマッチョ。
ミネアリスの先制攻撃にたじろぎもせず、戦いの無意味さをウホウホと説いている。
「いいえ! わたくしは賢者としての使命を!!」
「ウホ。使命とは貴女がそうしたいのですか? そうすべきと考える事によって、無理やり行動原理に変えていませんか? ウホ。それはとても哀しいことウホ」
「う、うるさいです!! 次は当てます!! 大怪我をするのが嫌なら避けてください!! やぁぁぁぁ!! 『アースランス』!!」
土塊で構築された槍がゴリマッチョを襲う。
だが、彼は動かない。
持っていた盾も放り投げた。
「ウホ。ほら、当たらない。貴女は心根が優し過ぎるウホ。戦いに向いていない」
「だ、だったら何だと言うんですか!! わたくしは! わたくしはヒョッポリ教の賢者としての使命を!!」
「ウホウホ……。哀しい人ウホ……」
「次は、次は絶対に当てますから!! 『ライトニングニードル』!!」
「ウホォォォォォォォォォォォ!!」
「だから言ったじゃないですかぁ!! わたくしは……なんて事を……!!」
体調が回復してきたサトルがニナとライカに状況を解説する。
「あれはね、本当は戦いなんか好きじゃないんだ!! って言いながら相手を屠るタイプの人だね。好きか嫌いかは置いといて、最終的に相手は殺されるんだよ」
「なるほどー。勉強になりますっ!! ゴリマッチョさんは死んでしまわれたのですか?」
「いや。生きてるっすよ。ウホウホ言いながら。なんで師匠もニナもいつの間にか傍観者気取ってるんすか?」
ライカの言う通り、ゴリマッチョは雷の棘に射抜かれたが死んではいなかった。
胸をドンッと1回叩いてから「ウホッ!!」と気合を入れる。
「貴女の表情が曇るのはその杖のせいですね。攻撃をこれまで3度、見させて頂きました。いずれも杖から魔力を放出させているウホ。つまり、杖がなければもう貴女は攻撃できない。違いますか?」
「どうして倒れてくれないんですか!!」
「私が倒れたら、貴女は笑いますか? それならば喜んで倒れましょう。ですが、違いますね? より一層、貴女の哀しみが増すだけウホ。だから私は倒れてあげられません」
ウホ。
ゴリマッチョが右の拳を手刀の形に変えて、ミネアリス目掛けて突進する。
そのスピードは飛ぶが如く。
目で見てから反応しているようでは間に合わないとその場にいる全員が思った。
「ぬんっ。『ゴリスラッシュ』! ……ウホ」
「くぅぅぅっ!! えっ!?」
ゴリマッチョの魔力を帯びた手刀はミネアリスの杖だけを両断した。
彼女には髪の毛一本だって触れていない。
「勝負はつきました。杖を持たない貴女はただの可愛らしいお嬢さんだ。もうヤメましょう。私の勝ちです。ですが、貴女は私と違って美しい。私の腕をご覧なさい。こんなにゴツゴツした腕では、傷ついた貴女を抱きしめることもできないウホ。人間に生まれて、やりたい事をやりたいように生きる。それが貴女にはできるウホ。嫌なことからは逃げたっていいのです」
「ゴリマッチョ……様……!! うっ、うぅぅ! わたくしは……! わたくし……!!」
ミネアリスは泣いた。
ゴリマッチョのぶ厚い胸板に縋りついて、泣き崩れた。
「よっしゃ! 勝ったぁ!! 俺のスローライフは守られた!! ゴリマッチョ! ナイスぅ!!」
「それでいいんすか? 師匠? やっ、あたしも師匠の戦い方から学ぶところが多かったっすけど。なるほどっすね。強敵と相対した時の立ち回り方を覚えたっす」
白き獣神と賢者の戦い。
決着。ウホ。
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