第4話 創造! 『とても強い剣』!!

 サトルの握った光の束が形を成す。


「これが俺の!! とても強い剣!! 喰らえ!! 燃えている人!! ……あ゛あ゛!?」

「ぬぅぅ!?」


 『とても強い剣』が実体化した瞬間、サトルの手からそれは離れた。

 サトルが手を離したわけではなく、持っていられなくなったと表現するのが正しい。

 彼が想像するとても強い剣はまず重い。

 「一撃がとても重い」剣を想像したのだから、サトルの剣術の技量が劇的にアップでもしない限り、一撃の重さは質量の重さになる。


 サトルのスキルで自身を剣の達人に『創造』するという事が可能なのかは分からないが、この追い詰められた状況でそんな想像力は働かなかった。


 とんでもない質量の剣は一般的な大学生だったサトルの腕では支える事ができず、そのまま振り下ろされた。

 落下したと言い換える方が適切かもしれない。

 重すぎて倒れていったのだが、バルズバランからしたら「いきなりものすごく重い一撃を喰らわされた」という状況になるわけであり、最終的にサトルの想像とは違ったがこの戦いで初めてまともな攻撃が放たれたのである。


 バルズバランは魔族として、魔王軍四天王のひとりとして、それを受けた。

 人よりも優れているというプライド。

 これまでの戦いぶりから見るサトルの実力に対する油断や慢心もあった。


「……ひどく、痛い」


 バルズバランの頭、そして右肩に直撃した『とても強い剣』であったが、そのダメージは甚大だった。

 右肩には大きな刀傷。

 炎を操る魔物なのに、その部分が燃えるように熱い。

 産まれてからここまでの深手を負ったのは初めてだったバルズバラン。


 戸惑う。


「やりましたか!? 救世主様!!」

「ニナさん! 少し黙って! そういうのは完全にやった後で言ってください!!」


 こっちはこっちで相変わらず追い詰められているサトル。

 後ろには危機感が足りない、元気はいいけど非戦闘員のニナ。

 もう1度今の攻撃というか、ちょっとした事故を起こせと言われてもそれが不可能なことは彼が最も理解している。


 まさか重い一撃を欲したら、とても重い剣が出てくるとは。


 恐らく『創造』を使えば再度『とても強い剣』を出す事は可能。

 しかし、もうサトルの体が経験値として「とても支えきれない、持つことも叶わない重いヤツが出てくる」と学んでいるので、手から真下に落ちて終わるだろう。

 最悪の場合、自分の足の上に落ちて本格的に終わる可能性すらある。


「貴様……。小僧……あ、ひどく痛い。この勝負、ひとまず預ける。ひどく痛い。肩が。肩だけじゃなくて頭も痛くなって来た。なんか不安だから、一旦帰る。鏡で患部の状態とか見たい。しかし、小僧、ああ、痛い。クソ。痛みでセリフも定まらぬ……」

「えっ。帰って頂ける!?」


「こいつ……!! 何を考えているのだ……!! そう言って自らを弱く愚鈍な愚か者に……くっ。愚かが被った。ダメだ。頭が痛い。多分だが、発熱している。ここは退かせてもらうぞ!! 小僧!! 貴様の名を教えろ!! 聞いたら帰る!!」


 明らかに余裕のなくなったバルズバラン。

 ここで一気呵成に攻めへ転じるほどサトルも愚かではない。

 だってサトルはリデルコベルを救う正義のヒーローになろうと思って転生を選んだのではないのだ。


 ここにはスローライフをするためにやって来た。

 魔王軍との戦いとかそういうのは現地の勇者にお任せしたい。

 ゆえに、お帰り頂くことにした。


「俺の名前は……!! クサツ、ああ! いや、違う!! クサットルだ!!」

「クサットル……!! ふざけた名前だが、覚えたぞ!! 吾輩に傷をつけた男!! クサットル!!」


 フィリエルが入力ミスしたせいで、この世界での本名はクサットルなサトル。

 嘘はついていないし、そんな名前に思い入れもない。

 どうぞ、ふざけた名前をお土産にお帰りくださいとサトルは願った。


「ふ、フハハハハハ!! そしてこの剣は頂いて行く!! 愚か者め!! 敵を前にして得物から手を離すとは!! これは……吾輩が……くっ……。これ……。これを……。ぬぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 頂いて行く!! さらばだ!! クサットル!!」


 バルズバランがサトルから『とても強い剣』を奪って飛び去ろうとしたが、剣が重すぎてそれは不可能と判断したので最終的に転移魔法を使い帰って行った。


「やりましたね!! 救世主様!!」

「ひどい目に遭いました……。あなたもなんで逃げないんですか」


「わたし! 興奮すると他の事が手につかなくるタイプでして!! いやー!! すごいものを見られました!! 村のみんなに伝えて来なくっちゃ!!」


 ニナがペコリとお辞儀をしてから駆けて行く。

 サトルは「こんな恐ろしい現場に立ち会ってよくすぐに動けるな」と感心した。

 とりあえずその場に座り込んで、大きく深呼吸。

 いつの間にか教会の火災も鎮火しており、見上げた空は青かった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 バルズバランが転移魔法で敗走した先は魔王城だった。


「フフフッ。どうした、バルズバラン。卿ともあろう男が血相を変えて。よもや、後れを取り逃げ帰ったのではあるまいな?」

「魔王様……!! 吾輩はとんでもない男とまみえました……!! あの男、とんでもない魔法を使います!! とんでもない魔法を使うとんでもない男でした!!」


「フフフッ。卿、語彙力はどこで落して来た? 四天王の中でも知性派でならす卿らしくもない」

「とんでもないのです! この剣をご覧ください!! ……ぬぅっ!! こ、この剣を!! い、今、御前に!!」


「フフフッ。よせ、バルズバラン。なんだか卿の動きが不安定で余は怖い。そこに置いておくがよい。無理に持ち上げずとも良い。……バルズバラン、無理をするな」

「人間ごときの出した剣! 吾輩が持てずになんとします!! ぬぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 持てました!! これ、この剣を人間が出したので……あ゛っ」


 バルズバランが頭上に持ち上げた『とても強い剣』。

 上段の構えをしたまでは良かったが、やはりとても重い。

 耐えきれずに魔王の玉座に向かって振り下ろしてしまった。



「フフフッ。バルズバランよ。ひどく痛い。どうしてこのような事をする?」

「あっ!! これは……その……!! そう!! 人間の魔法がかかっていたようです!! おのれ、クサットル!! 吾輩の手で魔王様に刃を向けさせるとは狡猾な……!!」


 魔王の脳天に『とても強い剣』がスマッシュヒットした。



 それから魔王は玉座から立ち上がり、言った。


「我が名はファロス! 魔王ファロスなり!!」

「はっ!! どうして急に名乗られたのでしょうか!?」


「フフフッ。強く頭を打ったのでな。こういう時は自分の名前が言えるかどうかが肝要よ」

「さ、さすがはファロス様!! 吾輩は炎魔のバルズバランです!!」


「フフフッ。バルズバラン。後で話がある。頭が痛いし、玉座が壊れた」

「えっ!?」


 その日、リデルコベルを統べる魔王ファロスの耳にも異界人クサットルの名が届いた。

 魔王ファロスは「その名、覚えておこう」とだけ言った。


 とりあえず玉座の修理費を今月の給料から天引きする旨伝えられたバルズバランであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る