出逢いは救世の始まり~仇の国に行ったら、なぜか剣才の美少女に崇拝されて?~

まんぜるら

01.麗しき剣才の少女

 はがねと鋼がぶつかる鈍い音が森を震撼させている。

 草むらを慎重にかき分け、その青年――ウィリアムは茂みからそっと顔を出した。

 まず、ふたりの男が視界に入る。

 続いて、深いフードに身を包んだ小柄の人間が見えた。その者は流麗に身を動かし、屈強なふたりの男たちを翻弄している。


(なんて強いんだ……!)


 その優雅な剣筋に心を打たれ、ウィリアムは思わず声に出してしまいそうになった。まるで、剣の達人ではないか。

 夢中になって達人の動きを目で追いかけていると、身をひるがえした拍子にフードが脱げ落ちた。隠れていた素顔が明らかとなる。


(なっ……!)


 ウィリアムは何度も目をこすった。

 美しく長い黒髪が躍るように宙に揺れる。ちらりと見えた小顔の美貌は、明らかに女性のものだった。貴族の令嬢かと思うほど凛とした顔立ちだ。

 眼差しは真剣で、その瑠璃るり色の瞳の中に光を宿しているようだった。

 彼女は、迷いなく剣を振るい、ふたりの男たちを圧倒する。まるで現実感のない光景だ。どれほどの経験を重ねれば、あれほどの域に達するのか疑問だった。ウィリアムでは遠く及ばないし、知りうる騎士の中でも屈指の腕前だ。


「はぁ、はぁ……」


「…………」


 息切れする男たちに対し、達人は沈黙したまま、洗練された足取りで彼らに近づく。

 その無表情からは、彼女が何を思っているのかは読み取れない。

 いったい、何者なのだろう。


 この時のウィリアムはまだ思いもしなかった。

 まさかこの剣才の少女にあがめられ、共に長い長い旅路を歩むことになろうとは。

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