第19章:パー子のペンダント
ロビーの灯りが柔らかく揺れる中、
二人はゆっくりとホテルに入った。
チェックインのカウンターで、沢井が予約情報を伝える。
沢井は言った。
「ツインルーム取ってあるの。
アメリカ暮らしが長いと、日本のホテルって
狭く感じちゃって…癖になっちゃった。」
クロークへ向かい、預けていたスーツケースを取り出した。
「ねぇ。荷物を置いたら、食事に付き合ってくれる?」
「うん。いいよ。荷物運ぶよ」
と言いながらスーツケースを手にとった。
部屋の鍵を受け取り、エレベーターの
ドアが閉まるまで、二人は言葉を交わさなかった。
部屋に荷物を置いた。
滋昭が
「食事に行こうか」
と言いかけた瞬間、
沢井は後ろ手でドアを閉め、行き手を塞いでいた。
沢井は静かに言った。
「…卒業式の日、資料室で待っていたの。
あなたが私を守ってくれたこと」
「のりっぺから聞いたの。卒業式の日に」
言葉を探しながら、
「ずっと前にあなたへもらって欲しくて
買ったんだよ。パー子のペンダント」
「卒業式に渡そうって思っていたの」
「でも、そのまま20年、私の胸に
下がったままだったよ。」
そう言って、沢井は胸元から小さなペンダントを取り出す。
滋昭の前に立ち、そっとそれを首にかける。
顔が近くなり、胸が高鳴った。
沢井は目を潤ませながら言った。
「…私、もう20年も待てないよ。」
「だから…どう思われてもいい…」
「しっちゃん。。」
言葉が続けられなかった。
強く抱きしめられ、唇がふさがれていた。
ゆっくり目を閉じ、身を委ねた。
唇が離れ滋昭が言った
「ずっと好きだった。」
沢井は涙交じりに笑いながら言った。
「ミッチやのりっぺよりも?」
滋昭は答えた。
「比べ物にならないよ。」
二人はしばらく見つめ合い、静かに微笑み合った。
滋昭は彼女を優しく抱きよせ、ベッドに腰掛け、
あらためて瞳を合わせる。
どちらからともなく、深い口づけを交わす。
言葉よりも、長い時間が育てた想いが、
そこにあった。
沢井は小さな声で呟いた。
「…ツインルームを取ったの、別にこういう
つもりじゃなかったんだからね。」
「わかってるよ」
はずかしそうに
「はじめてなんだよ。アメリカではパーマンを
待っているパー子のふりをしていたんだもん。」
「もう何も話さなくていいよ。パー子」
「バード星からやっと帰ってきたよ」
二人は、離れていた長い時間を埋めるように、
静かに初めての夜を過ごした。
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