第16章:閉ざされた冬
”松岡の冬"
卒業式の翌日、松岡は迷うことなく沢井の家を訪ねた。
だが、すでに一家はアメリカへ旅立った後で、
近所の人も新しい住所を知らなかった。
しばらくはツテを頼って行方を探したが、見つからなかった。
あの贈り物は、小さな手鏡だった。
「私のパーマンへ」
と書かれたメッセージカードが添えられていた。
何を意味するかすぐにわかった。
あの卒業式のすれ違いが、二人の距離を決定的に遠ざけたのだ。
その意味に気づいた瞬間、運命を恨んだ。
でも、必ず晶子に再会すると心に誓った。
数年たち、松岡も社会人になっていた。
海外出張の多い企業であり、名乗り出て海外に出向いた。
日本人の住所を懸命に探して、海外出張の折にはそれを
頼りに訪ねたが、空振りに終わり、重い足取りで帰途に
つくことが多かった。
それでも諦めきれず、彼女の参加を期待して、
毎回同窓会に足を運び続けた。
見合いの話は何度もあったが、すべて断ってきた。
晶子への思いは彼の心から離れることは決して無かった。
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"沢井の冬"
アメリカに渡った直後の数ヶ月、
沢井はふさぎ込みがちで、両親も心配していた。
沢井はあの日、来てくれなかった理由をずっと考えていた。
両親の仕事を手伝いながら、少しずつ元の元気を取り戻していった。
あの日のことは、今も心の奥に残っている。
でも、それを表に出さない術を覚えた。
仕事柄、アメリカ人の男性と知り合うことも多く、
清楚な和風の晶子へのアプローチは少なくなかった。
晶子はいつもこう言って、相手を遠ざけていた。
"I'm Parko, Perman No. 3. I've been waiting—for so long—for Perman No. 1 to come back.
Even now… I'm still waiting."
(和訳:私はパー子、パーマン3号。ずっと1号を待っているの)
意味を理解できない者は戸惑い、アニメファンの男性は肩を落とし
静かに去っていった。
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"小林の冬"
卒業後、ビジネススクールに通い、新たな人生に向けて邁進していた。
高校時代と同じく、美樹の容姿と性格に惹かれ、
多くの男性がアプローチしてきた。
恋人と呼ばれるような付き合いには進展しなかった。
彼女はわかっていた
「しっちゃんの幸せを見届けるまで、恋などできないこと」を
卒業式後、しっちゃんには何度か会った。
いつも寂しそうで、何かを探すような素振りだったので、
なんとなくわかった。
一度、10年後の同窓会の時に聞いてみた。
「卒業式のあと、沢井さんと会えたの?」
滋昭は少し目を伏せて答えた。
「すれ違ったまま…それっきり、会えてないんだ」
(あの時、しっちゃんに拾ったメモを渡せばよかったかな?
ううん、人の運命には立ち入ったら、叶うものも叶わなくなる)
別れ際、こう言った。
「ずっと同窓会に来てたら、いつか会えるかもしれないよ。
私も付き合ってあげる。……少しは励みになるでしょ?」
滋昭はポツリと
「ありがとう」
と言い
そのまま、何かを探すように去っていった。
小林は、毎回同窓会に参加し、資料室の鍵を開けておくことにした。
「まだ、しっちゃんから卒業できないよ」
と思いながら。
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"西村の冬"
卒業後、地元のFM局に採用され、一生懸命働いていた。
高校時代を忘れるため?それもあったが
パーソナリティの仕事にやりがいを感じていたためである。
「青春リクエスト」のパーソナリティを持つことができるようになった。
番組には色々な人からから、喜び、悩み、悲しみの手紙がくる。
それらの手紙を読みながら、松岡や沢井にしてしまったことへの後悔が、
心の中で静かに膨らんでいった。
卒業式以来、しっちゃんとは会わないようにしている。
だから、同窓会にも一度も顔を出していない。
彼がずっと沢井さんを探しているのは、風の噂で知っていた。
私が、あのとき邪魔をしなければ――。
その思いが、彼を避ける理由になり、
彼女自身も新しい出会いや恋に踏み出せずにいた。
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