第19話 専属の護衛

 ニリンダさんといっしょに事務室を出て、私は館の外に来ていました。村内の自給自足では、まかなうことのできない物品を調達するのも、領主であるセルジオさんの仕事だという話です。そのための事務室なんですね。


 丘をくだりながら、広場のほうへと向かっている最中に、ニリンダさんは改めて私に話しかけて来ます。内容は、セルジオさんにいわれた、聖女になれるよう努力するというもののつづきです。


「さっきは、とっさにあんな言い方をしちゃったけれど、あなたの力は本物よ。大聖女を目指せるなら、目指すべきだと私も思う。シュオウ学院になら、それだけの環境が整っているわ」


 ……しれっと、当初のゴールが聖女から、大聖女にランクアップしていませんか? あれ、最初から大聖女だったんでしたっけ。私の勘違いですか?


「あなたも、助けられる人は助けてあげるべきだと、そう思ったからこそ、ダライアスの治療を終えたあとも、白魔法を使いつづけたんでしょう?」


「……」


 たしかに、それはニリンダさんのいうとおりでした。

 できれば、目の前で人が傷つくさまを見ていたくはないですし、相手を助けられるだけの力を、自分が持っているのならば、それを使ってあげたいとも思っています。


(……でも、いいのかな)


 この世界に迷いこんで、まだ1日もっていません。

 それなのに、癒やしの力に目覚めたり、目覚めたばかりの力をうまく使えたりと、こんなにもとんとん拍子で話が進んでしまって、はたして平気なんでしょうか。あとで手痛いしっぺ返しが待っているなんてことには、ならないんでしょうか?


 私は漠然とした不安に襲われていました。

 今まで、こうした大きな流れに、自分から関わったことがないせいで、どうしたらいいのか私では判断できなかったんです。これからの自分を、変えてしまうようなイベントとは、まるっきり無縁だったんです。


「ねえ、あなた。ちょっと、聞いているの?」


 黙ってしまった私を、横からニリンダさんがこづきました。慌てて、私は視線を上にあげて、ニリンダさんの小ぎれいな顔を見つめます。自分とは違う色の髪が、私にはうらやましく思えました。


「はい、聞いています!」

「……そう。なら、いいわ。シュオウ学院に行くとなれば、専属の護衛も選ばないといけないの。だから、今すぐに決めろとは私もいわないけれど、あなたの将来を左右しかねないことなんだから、真剣に考えなくちゃダメよ」


 専属の護衛を選ばないといけない。

 その部分だけで、私の脳みそは、ニリンダさんのお話を聞くのをやめてしまっていました。ニリンダさんの声が、校長先生の講話みたいに、耳の中を通りぬけていってしまったんです。なので、ニリンダさんが私のために何を語ってくれていたのかは、よく分かりません。


 衝撃でした。

 自分のための護衛を選ぶだなんて、思ってもみないことだったんです。ですが、それは今の私にとって、もっとも自分がしたいと思える――いいえ、しなくちゃいけないと思った行動に、ぴったりの理由を与えてくれるものでした。おあつらえ向きのものだったんです。


 私は緊張しながら、ニリンダさんに聞き返します。


「専属の護衛って、その人もいっしょに行くんですよね?」

「そのための護衛なんだから、あたりまえじゃないの」

「あの……シュオウ学院の位置って?」

「王都よ」

「王都……」


 オウム返しをする私に、ニリンダさんがジト目を向けて来ます。この世界の常識を持たない私のことを、かばってくれたセルジオさんは、今はこの場にいませんので、私は自力でごまかさなければいけませんでした。大慌てで私は取り繕います。


「と、遠いんですよね、きっとすごく」


 なんのごまかしにもなっていないはずですが、容赦してくれたニリンダさんは、私の質問に答えてくれていました。


「ええ、そうね」


 私の頭にあったのは、いうまでもないかもしれません。

 ダライアスさんです。

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