第16話 村と、領主の館

「ここじゃ落ち着いて話もできないだろうから、ちょっと場所を移そうか」


 そう話す領主さんのあとを追って、私たちは天幕の外へと来ていました。先導する領主さんに従って後ろを歩いていますと、ほどなくして畑が見えて来ます。植えられている作物は、やっぱり小麦なんでしょうか? 私の思い描く田園風景に比べて、作場さくばが粗雑に見え、また、葉や茎の色がまだ若々しい緑なので、なんだか私には猫じゃらしに見えてしまいます。


 畑の先に、木の柵でを囲まれた村がありました。

 柵の支柱を斜めに切り、その先端を鋭くとがらせているのは、きっと侵入者を阻むためなんでしょう。それならば、いっそ畑もいっしょに保護したほうが、いいんじゃないかと私は思ったんですが、この考えが誤りであることは、じきに分かりました。村には、住居以外をカバーするような余裕がないんです。そんなに多くの面倒を見られるような人手は、残念ながらなさそうでした。


 村の入り口にたたずんでいた男の人に、合図をするまでもなく、領主さんの姿を認めた門番さんは、元気な声であいさつをしながら、私たちのことを出迎えていました。


「セルジオさん! 時間がない中、見舞いをしてもらって悪いね。みんなも喜んでいただろう?」


 領主さんが答えるよりも早く、ニリンダさんがわざとらしく、ひとつ大きなせきばらいをしていたんです。


「なれなれしい口調は控えるように」


 門番さんは、ぎょっとしてニリンダさんを見つめます。それから領主さんのほうに向きなおって、緩慢な動きでいいなおしました。


「あぁっと……みなさんも、喜びなさっていましたか?」


 たどたどしいそのことばづかいに、領主さんがふふっと笑みをこぼします。


「普段どおりで構わないよ」

「そうかい、すまないね。俺たちにゃ、学ってもんがねえからよ」


 ニリンダさんは、ちょっぴり不満げに領主さんへ視線を向けていました。


「僕としても、そのほうが領民と、きちんと交流を持てているという実感があって、うれしい。ただ、彼女のことを悪く思わないでくれ。ヨロロホムハ国との戦いが始まってしまったからね……。白魔法の担い手として、過敏にならざるをえないんだ」


「そりゃまあ……あんたに何かあっちゃいけねえってのは、俺たちだってさすがに理解しているさ」


 ことばとは裏腹に、門番さんはニリンダさんに不満を訴えていました。そんな好ましくない視線を受けても、ニリンダさんは、そ知らぬ顔を決めこんでいます。強いです。おんなじレディーとして、私も見習わないといけません。……無理そうなので、私は潔くあきらめます。潔さには定評があるんです。


 門番さんとのやり取りから、さらに5分ほど村の中を歩きます。すると、明らかにほかの建物よりも堅固に作られた館が、丘の上に見えました。辺りには、板ぶきの質素な家が並んでいるというのに、そこだけは石造りだったんです。


「ここだよ」


 領主さんは開け放たれた扉から、館の中へと入っていきます。

 館の建つ丘は、を空堀に囲まれ、外からの侵入を、より難しくするための工夫が見られます。きっと非常時には、村民たちの避難場所としても用いられるんでしょう。できれば、私がいる間に、そのようなことが起きないのを願います。


「どうかしたの?」

「今、行きます!」


 ニリンダさんにせっつかれた私は、慌ててみなさんのあとを追いかけました。机の置かれた部屋に入った領主さんは、マッチョさんに手伝ってもらいながら、体を覆っていたすべての装備を外していきます。置かれた机はなんとも荒々しく、急場をしのぐだけにこしらえられたように、私には感じられました。


 領主さんの聞く姿勢が整うと、ニリンダさんはこれまでの経緯を伝えていたんです。

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