『一笑けん命 笑顔のたえないクラス』
さわみずのあん
笑うと負けよ
『一笑けん命 笑顔のたえないクラス』
私たち、三年二組のクラス目標。
カエル先生(校長先生。だけど、頭がツルツルで、顔がカエルみたいだから、みんな、そう呼んでる)がクラスの見回りをしている時、後ろの壁に、大きく貼ってあるその目標を見て、
「おや、良い目標ですね」
と言ったけど、何も分かっていない。
笑顔で笑っているからといって、その人の心まで笑っているとは限らない。
一枚のシルエット。
大人に、
「この絵、こわい?」
と聞くと、
「どうして帽子が怖いの?」
と答える。
そのシルエットは、大きな蛇が、像を丸呑みしている絵、なのに。
大人は外側しか見ない。
三年二組になって、私は落ち込んでいた。一年生と、二年生の時に、仲の良かった子たちと、離れ離れになってしまったからだ。
そんな私の気持ちとは、裏腹に、黒板には、
『元気いっぱい』とか、『明るく楽しく』とか、『みんななかよく』とか、調子のいい事。言葉ばかりが並んでいる。
クラス目標を決める。
担任のエビス先生(結構、歳を取っていて、太ってる。けど、優しそうな女の先生)がそう決めた。
無意味な言葉の羅列が出尽くしたところで、
エビス先生が、
「それじゃあ、この中から、クラス目標を決めたいと思います。でも、その前に、決め方を決めましょう」
クラス中が少しざわつく。
「多数決とか、じゃんけんとか、物事を決める方法はたくさんあります。だけどね、先生、そういった決め方は良くないと思うの。多数決でも、じゃんけんでも、勝者と敗者で別れてしまう。負けた方は、悔しくて、涙を流すかもしれない。でもね、たとえば、にらめっこ。笑うと負け、つまりね、勝者と笑者しかいない、みんなが幸せになれる決め方だと思うの。だからね、今から、一回、先生とみんなで、にらめっこをしない? 先生が勝ったら、クラス目標は、にらめっこで決める。どう、する?」
私は、にらめっこで決めるかどうかを決めるのににらめっこで決めるのはどうかと思った。決め方の決め方の決め方を決めないといけないと思った。先生が負けたとき、どうするかも決めてないしと思った。けれど、クラスの他の子は、面白そう、やろうぜ、と勝手に盛り上がっている。
「それじゃあ、にらめっこしましょ、笑うと負けよ、あっぷっぷで、みんな変な顔をしてね。先生が笑ったら、みんなの勝ち、みんなが笑ったら、先生の勝ち。それじゃあ、いくよ、にらめっこしましょ、笑うと負けよ、あっぷっぷ」
いきなり? いきなり、変な顔をしろだなんて、そんな厚顔無恥な、ご無体な。
私は目をぎゅっとつむって、ほっぺたを思いっきり、風船みたく、ふくらませた。
風船のはじけた、音がした。
ぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃ
クラス中から、笑い声が聞こえる。どんどんと、大きくなっている。机をバンバンと叩く音、椅子から、転げ落ちる音。
私は目をつむったまま、必死で、精一杯の変な顔。顔から火が出そう。
ぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇ、とみんなの笑い声の中、
「おんや、まだ、笑ってない子がいるねえ。まんまるまっかなおかお。だるまさんみたいなおかおだねえ」
エビス先生の声がどんどんと、私に近づいてきて、多分、私の顔の前に、先生がいる。
「だーるまさん、だーるまさん。にらめっこしましょ、笑うと負けよ、あっぷっぷ」
先生が、ぷっ、と私に生暖かい息を吹きかけた。
目を、開けると、前に、先生の、変にゃ、ぇへゃ、
ぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃぇへゃ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます