第3話 異形のモノ達
沢山の鬼人となった人間が俺を襲おうとする。
「金生水……陰陽護法・
まぁ勿論悪い魂は浄化すれば済む事なんですが。
20人余りの鬼人と化した人間も、俺の浄化の雨の前には無力。
圧倒的な力の前に無力なのを思い知るがいい。
多分後方の人間達は一般人だったな。
一般人が何らかの原因で鬼人になった。恐らくは邪念を掻き立てられたのだろう。
……さて状況的には、雑魚でも群がられると面倒になるからな
「紫の宝石を持っている奴は、今すぐ捨てろ。鬼人になってしまうぞ?」
俺は現場を仕切り始める。事態は予想以上に深刻な気がしていた。
時間は丑三つ刻に近い。防衛戦もクライマックスだ。
後方の人間が鬼として前線に行こうとしたということは、前線では結界を崩す為にもっとヤバい事が起きている可能性がある。
<ポツポツポツ>
雨が降って来た。……今日の天気は晴れ。
恐らく陰陽術によって産み出された雨だ。
意図的に雨を降らせる。つまりは妖魔の足止めをしようとしているということか?
嫌な予感がする。
「綾小路さんって言ったっけ?今すぐこの場の人間を連れて撤退してくれない?」
「どうしてですか?」
「目の前から嫌な気配を感じない?」
そう……ピリピリと……悪い気配が押し寄せてくる。
綾小路さんは真剣な表情で目を細めた。
「綾小路さん程度じゃ、足でまといになるだけだろうから……」
彼女は少しムッとした表情をした。
「まぁ……撤退ついでに救援も呼んできてあげますよ」
聞き分けの良い人で良かった。
「はぁ……今日は後方でノンビリするつもりだったのにな」
俺は一人で前線に向かおうと決心した。
「ちょっと待ってください。あなたは何者なんですか?」
綾小路さんは俺に質問した。
「八雲影斗……かつて最強と謳われた陰陽師・土御門先生の一番弟子だ」
◇◇◇
(雨を降らせたのは……親父か……かぐやか?)
最前線までは距離にして2km近く。最前線は気を抜けば殺される程過酷な戦場だ。
だから本当に強い者が最前線で戦い、その他大勢は前線で戦う。
俺が前線に着いた時、状況は絶望的だった。
妖魔・鬼……そして退魔師や陰陽術師を媒介にした鬼人……
一般の人間が鬼人になるなら対処は楽だ。陰陽術で魂を浄化すれば良い。先程の人間の様に……
だが退魔師や陰陽術師が鬼人になった時、魂の浄化は簡単に出来るか?
答えは否。バイクに乗った人間を銃で狙撃するのと、車に乗った人間を銃で狙撃する位難易度に差がある。
器を傷付けずに魂を浄化するのは不可能に近い。
俺は大きく息を吸った。
「この場に残っている奴がいたら全力で逃げろ!それと自分の身をしっかり護れ!」
俺が今からやること。広範囲の殲滅。
ただそれだけ。
本当は敵だけを殲滅したいよ。でもさ……時間が無い。
時間経過とともに状況は悪化する。そんなリスクは犯せない。
「後方の人間がしゃしゃり出て、何を言ってる!」
「こっちは戦線を維持するので手一杯だ!余裕ねぇよ!」
「雑魚の癖に足を引っ張るな!」
前線を眺めていると、鬼や鬼人対退魔師や陰陽術師が個対個で戦っている。
つまりは一対複数や誰かが無双しているなんて殆ど無い状況。
敵と味方の力が拮抗しているな……
(ここまでの事を計画していて、敵方が有利では無いのは何か理由でもあるのか?)
恐らくだが今回の敵の黒幕は有能だ。何か時間を稼ごうとしているのだ。
でも何か不自然な感じで引っ掛かるのだ。何かを成そうとしているのだ。
(あぁ……考えてもモヤモヤするだけだ)
俺は歯で指の皮を噛み千切り、そこから出た血で手のひらに印を書いた。
自然を利用する大きな規模だから、簡易儀式として必要な動作だ。
「水生木……陰陽滅法・
恵みの雨。恵みの雨は雷を生み、災害をもたらす。
俺は雨の……いや『水』を『木』に変えることで、無差別に雷を産み出す。
雷を人間がコントロール出来る筈も無い。単純に広域殲滅の無差別攻撃を行うのだ。
「うがぁあぁぁぁ……」
「いぎゃぁぁぁぁ」
「わっ、わぁ」
「たすけてぇぇぇぇ」
この場の人間は全員遊びで来ている訳ではない。
つまり死ぬ覚悟は既に出来ているということ。
だから万一落雷に当たって殉職した際は………
ごめんね!許して?
さて陰陽術において『木』というものは不思議な存在だ。
自分達が想像する『木』の他にも、『風』や『雷』が含まれる。
水……に陰陽ではなくプラスとマイナスイオンによる電荷の差が生まれる事によって風や雷が生じるのだが……属性つけるの雑過ぎないか?と自分は思う。
木生火で木は火を生むからと言う結果には納得だけど……本当に雷は木属性って……使う側としてもたまに疑問に感じる。
「土剋木……陰陽護法・土でバリアー」
俺は雑に地面の土で雷避けを作りひたすら無差別攻撃を続けた。
誰かが作った浄化の雨も相まって、まぁある程度は殲滅出来るでしょ。
「ふぃぃぃ。これぞもっともフィジカルでプリミティブで、そしてもっともフェティッシュなやり方でございますね」
とりあえず習いたての横文字をかっこよく使ってみた。意味は知らん。
雷が止む。鬼や妖魔……鬼人は無事に殲滅完了していた。
「てめぇ……こ」
雷の中、無事だった退魔師が元気に俺の元に押し寄せてきた。
一応前線に立っている退魔師達の実力は信じている。
こんな所で死ぬ様な人間じゃないだろう?と。
何か言いたそうだったが、汚い声にかき消された。
「みんな逃げてくれぇぇぇぇ……」
遥か上空から声が聞こえた。どこかで聞いた事がある声だ。
雷の様に神々しい馬に乗ったボロボロの赤髪の人間。
俺をバカにしていた陽介兄貴だ。
「あの天馬は……麒麟?かぐやの式神」
そう……かぐやは式神遣いだ。その中でも幻獣を複数使役する超天才。
幻獣……つまり神の遣いを使役する。
「逃げろ!親父の……ヤマタノオロチが仲間を……結界を壊そうと……」
八俣の大蛇……俺達の父親の最強の式神。
幻獣ではなく、退魔の為に神の一部を使役している。
「おい、どういう事だ?教えろ」
俺は兄に状況を聞こうとする。
「忌み子のお前に……」
「忌み子なんてこの際どうだって良い。かぐやは……親父は無事なのか?教えろ!結界が……俺たちが今護るべきなのは、プライドじゃない。結界に護られて暮らす人間だろう?」
俺はこれまで兄に怒鳴った事はなかった。俺自身が忌み子だと諦めていた事もあったから。
これ以上人間関係を悪くしたくなかったから。
自分が傷付くのなら、どれだけ笑われようが構わない。
でも……他の人が傷付くのは許せない。俺を見下す父や妹が助けを求めていなくても……
俺は助けるべき人を護る為に、色々なモノを捨ててきた。
そしてどんな手段でも使うと誓ったのだ。
「兄貴……頼む。俺達が護るべき人間の為に、状況を教えてくれ」
俺は頭を下げる。俺が頭を下げて助かる命があるなら安いものだろう。
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