実は推しがドSで私はドMになりました
白亜 一華(旧:小嵩名雪)
第1話 ドSとドMになった者の出会い
ある日の王室主催のお茶会。
良く晴れ渡った午後。
淑やかな女性達の談笑の声がそよ風にのって耳に届く。
そんな中、リーリア・クロイソス公爵令嬢である自分の目の前に広がるは、鎖で繋がれた殿方達の興奮した顏と、その鎖を掴みその者達を足で踏みつぶしている自分の推し。
ミルツェ・リーン公爵。
ミルツェがリーリアに気がつき視線を送るとにこやかに微笑む。
「おや?クロイソス公爵令嬢ではありませんか」
「こんにちは。リーン公爵様」
リーリアは極上の笑顔をミルツェ公爵に向けた。
何を隠そうリーン公爵様はこの世界での私の推しというやつだ。
この世界にやってきたばかりの頃、生きる糧が欲しいあまりに推しの概念を作り、若くして公爵になったミルツェ様を前から推している。
顏はもちろんの事、優しい笑顔に柔らかい物腰。
そして仕事の時の凛々しいお顔。
どれも完璧だ。
しかし目の前に広がる惨状を理解するのに時間を要した。
――これは……
リーリアは笑顔の奥に困惑を隠した。
そして目を細めて鎖で繋がれている人達を見つめて思った。
――はぁ…羨ましい…。
リーリアは決して異常ではないと思うが、推しの足に踏まれるなんて最高では?っと考えていた。
そうしてリーリアが思考の海に漂っていると、目の前に大きな影が落ちる。
リーリアは顔を上げて、影となっている人物と目が合う。
その瞬間、心臓の鼓動が加速した。
――きゃっ!カッコイイ!!
そんな事を考えていると、リーリアの唇は柔らかい何かで塞がれる。
リーリアはその正体を見て硬直してしまった。
――ミルツェ様とキ…キ…キス!?
長い長い口づけの後、ミルツェが離れていく。
赤く光る自分の唇から舌を少しだけ出し、舐めて不敵に笑う。
リーリアはその珍しい表情を見逃すまいと、目を開いて全力で脳に焼き付けようとしていた。
そしてその艶めかしい唇から言葉を発せられた。
「これでもうリーリア嬢も共犯ですね。」
◆◆◆◆
彼氏なし=年齢。
同僚のチャラ女にサービス残業というクソな置き見上げをされて今やっと帰路についている。
定時は18時。
時計を見ると腕時計の針は23時59分を指していた。
明日も9時出勤の為、帰ったらお風呂入って早く寝ないと…と考えバスから降りるとまさかの異世界でした。
…っていう展開があるわけないと思っていたら、そんなお決まりの展開になりました。
そして今の私はリーリア・クロイソス公爵令嬢。
この足を踏み入れた国、キルシュ王国のクロイソス公爵家でお世話になっている。
あの日、サービス残業で帰宅途中バスを降りるとこのキルシュ王国の地に立っていた。
――あ~やべぇ。ここどこだよ。
っと疲れた頭で考えていたら、目の前に急に老人が飛び出してきて思わず支えたら、その老人が私の両腕をいきなり掴み「リーリア~無事だったんだな!!!」っと叫ばれ、私はスーツ姿のまま筋肉ムキムキの方達に馬車の中に詰め込まれ、大豪邸の前で降ろされた。
そして玄関先で待っていたのは金髪イケオジとこれまた金髪美人のリーリアさんのお父さんとお母さん。
そしてこれまた金髪イケメンのお兄さん三人が泣いて飛びついてきた。
「リーリア無事だったんだな!」
「リーリア…」
「リーリア…お父様とお母様を心配させるんじゃない」
家族に囲まれて大泣きされた後、リーリアさんの部屋に行くと、そこにはリーリアさんの肖像画があった。
肖像画を見るととても可愛らしい黒髪の紫の瞳の持ち主で私とは似ても似つかない。
しかしリーリアさんの家族が私がリーリアさんだという。
試しにこの部屋に案内してくれた兄に私がこの世界の人ではない事を言ってみた。
そうすると兄は一瞬驚いた顔をしたが、ふわりと笑い頭を撫で始める。
「リーリア…可哀想に…何か怖い事があったんだね…」
全く信じてくれなかった。
その為、渋々リーリアさんとなってこの世界で過ごそうとし、鏡の前に行くと何とそこには先程見た肖像画の少女がいた。
顏を触ってみると間違いなく自分の顔。
ここで気がついた。
――私が本当にリーリアさんになっている?
この日、水上亜紀とリーリア・クロイソスが同一人物になった日だった。
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