第18話

 【賢者の石】 は黄金を作る触媒だとか不老不死の霊薬の原料だとか、いろいろと言われているが、要約すれば 『物を本質から変える』 作用があるもの。

 すなわち 【賢者の石】 を使えば、吸血鬼は人間に…… まではなれないかもしれないが。日光への耐性…… も付くかはわからないが。

 すべては無理でも、少なくとも血以外の食べ物も美味しいと感じられるようにはなるだろう。それが、人間らしい生活への第一歩だ。


「だから、まずは一緒に 【賢者の石】 を錬成して体質改善を目指しましょう」


 私は、ダーシーの細いガラス糸のような髪に両手を伸ばす。かき乱しながら、冷たいひたいに額をあて、目と目をあわす。

 ダーシーはついに、うなずいた。やったわ!

 自然にほころぶ私の唇に、ダーシーの唇が近づくのを、私は目を閉じて受け入れた。

 雪のような感触が唇をかすめ、離れる。鳩の血色ピジョン・ブラッドの目がやわらかく和んだ。


「あたたかいな」


「あなたも、すぐにそうなるわよ」 今度は私からキスをする。

 ダーシーが私の夢を叶える決意をしてくれたことが、そんな彼を愛しいと思えることが、嬉しくてたまらない。

 嬉しいと思えることが、また嬉しい。

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