第6話

「きみだって、伯爵家を背負うよりは、好きな錬金術の研究に没頭できたほうがいいだろう? これは、きみにとっても、いい機会だと思うよ」


「そうよ。エメも、つらいけど…… おねえさまのためなのよ」


 彼に肩を抱かれたままエメラインは両手で顔を覆い、うつむく。きっと隠された口元はゆるみっぱなしだろう。

 

「だって、流行のドレスも、おねえさまよりエメのほうが似合ってしまうじゃない? おねえさまみたいな地味なひと、社交界でも軽んじられてしまうもの」


「そうだよ。ぼくが言うのもなんだけど、エメラインに任せたほうがキャンベル伯爵家のためでも、きみのためでもあるんじゃないかな、マリアローズ」


「お可哀想な、おねえさま…… けど、もう、しかたないのよ…… ほんとうに、ごめんなさい……」


「…………」


 私の声は、まだ出ない。かわりに軽く目を伏せると、エメラインは顔を覆う指の間からひっくひっくと声を漏らしつつ肩を震わせ、さっきより激しく泣き出した。と見せかけた大爆笑で間違いないが。

 いっそ喜劇であるかのような一幕の終わりは、父が重々しく告げた決定事項だった。

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