異世界Ride♡on〜異世界に迷い込んだバイク乗りの私が授かったのは、その……「なんでも」乗りこなせちゃうスキルでした〜

ハダカデバオトコ

Ride1 カストロールの香り

 ズザーーーッ!


 突然、山の中に放り出されました。

 私の身体はゴロゴロと地面を転がり……


 「ぐぇっ!!」


 岩にぶつかって止まりました。フルフェイスのヘルメットとプロテクター入りジャケットを身につけていて助かった……。じゃなくて!


 辺りを見渡すと、一本の木も生えていない岩山。昼間だったのに、夜になっていました。

 松明が何本かあって、炎が赤茶けた岩肌を照らしています。

 

 なぜこんなことになったのか、わかりません。私はバイ助くんに跨って、いつもの道を走っていただけだったのに……。

 ……バイ助君! バイ助君はどこ!? あ、バイ助君というのは、私の愛車……バイクの名前です。


「なんだ? 今の音は?」


 大きな岩の向こうから声が聞こえ、複数の足音が近づいてきます。……聞いたこともないような、低い声でした。


「ひっ……!?」


 思わず息を飲みました。現れたのは、人間ではありませんでした。二人とも身長は二メートル近くて……ヒトのカタチはしているけど、毛むくじゃらの豚のようでした。


「ん? なんだこいつは?」


「見たことない防具を着てやがるぜ」


 豚さんたちは、私の姿を見てそう言いました。


「あ、あの……あなたたちは? それに、ここは一体どこなんですか?」


 豚さんたちは顔を見合わせて笑っているようでした。


「その声……もしかして女か!?」


「女だ! おれたちの巣に女が自分から来たぞ!!」


 彼らは私に近づいてきて、両脇から腕を掴んで立ち上がらせます。


「ひっ! あ、あの……」


 あれ、でもなんだか、甘い香りがする……。


「ブヒヒ……! 新しい女だ!」


「牢屋に入れておこうぜ!」


 私は彼らに引きずられ、石で作られた砦の中に連れて行かれました。

 中にはたくさんの豚さんたちがいて、歩かされている間、私を好奇の目で見ていました。舌なめずりをして、涎を垂らしている人もいました。そして……


 どんっ!


「きゃっ!!」


 乱暴に背中を押され、牢屋の中に放り込まれました。

 

「どれ、その兜を脱がしてやる。顔を見せてみろ」


「いや……!」


 豚さんはヘルメットを脱がし、乱暴に床に放り投げました。あぁ、ショウエイのヘルメット、高かったのに……。


「おほっ! お前、ニンゲンか!」


「久しぶりのニンゲンの女だ! ボスが喜ぶぞ! 呼んでこようぜ!」


 そう言って鉄格子の扉に鍵をかけ、彼らは去っていきました。


 ……どうしてこんなことに……。ここは一体どこなの?


「……ぐす……」

 

 暗いし怖い……。これから何をされるんだろう? 会いたいよ、バイ助くん……。


「……おい」


 となりの牢屋からでしょうか。女の人の声が聞こえます。


「お前もカストロールに捕まったのか……」


「は、はい。たぶん……。あの……カストロールって?」


 あの豚さんたちのことでしょうか。どこかで聞いたことがあるような……。あ、オイルのブランドだ。


「カストロール族を知らないのか?」


 少し驚いたような声で私に聞いてきました。


「は、はい。ここのカストロールは、知らないです……」


「? おかしな言い方をするな。まぁいい……。さきほどチラリと姿が見えたが、見慣れない格好からすると、異国の者か?」


「私は日本人です……」


「ニホン? 初めて聞く国の名だ……。よほど遠くから連れ去られたのだな……気の毒に」


 ……日本を知らない人……。それに、あんな種族がいるこの場所は一体……。


「あの……あなたは?」


「お前と同じで、奴らに捕らえられた、哀れで間抜けなエルフさ……」


 エルフ。それはすぐにわかりました。オイルのブランドで、シューズやウェアも作って……じゃなくて! 多分この人は、ファンタジーに出てくる、耳の長い種族なんだと思います。

 だんだん、いやな予感がしてきました。もしかしてここって……


「おう、ニンゲン! ボスのお出ましだ!」


 ボスと呼ばれたカストロールは、他のカストロールよりも大きく、トゲのついた兜を被っていました。これがボスカストロール……。長いので、ボストロールと呼ぶことにします。


「ふぅむ……」


 ボストロールは、品定めをするように私を眺め回します。


「悪くない……。カラダのほうも見てみたいな。お前ら!」


 ボストロールがそういうと、手下たちが私に近づき、服を脱がそうとしてきました。


「あ? なんだこの服、どう脱がすんだ?」


 カストロール達は、私のジャケットとパンツを力任せに引っ張ります。このままだと……


「だめ! 破れちゃう! ジッパー……! ジッパーを下げて!」


「ジッパー? なんだそりゃ。ええい、めんどくせえ!」


 一人が腰の剣を抜きました。


「そ、それだけはやめてえぇ! じ、自分で脱ぐからぁ!」


 ジャケットとジーンズを切り裂かれ、私はあっという間に下着とグローブ、そしてブーツだけの姿にされてしまいました。私のウェアが……


 ボストロールは、私を下から上まで舐めるように見つめています。


「乳はないが、いいケツしてやがる」


 パンッ!


「痛っ!」


 そう言って、私のお尻を叩きました。


「本当に下品ないいケツをしてやがるぜ。乳はないけどな」


 気にしているのに……ひどい。

 次に、ボストロールは私のお尻を撫で回しました。


「ひんッ……!」


 くすぐったくて、つい変な声を出してしまいました……。ボストロールは手をさわさわと動かしながら言います。


「ふむ……。お前ら、アレを持って来い!!」


 手下たちは、一旦牢屋を出て、通路の奥の方へ行ったようです。少しすると、何かを牢の中に運んできました。


 ゴトッ……!


「……?」


 それは、脚が四本ついた木馬でした。でも、なぜか胴体が三角形をしていて、背中が尖っていました。

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