夜廻りのなごりで

冬馬

第0話 —―の告白①

「劇的な事なんてなくても、簡単にあっさり死にたくなるぜ」


 その言葉を置き土産に、わざと乱暴に扉を叩き開ける。金属が悲鳴を上げ、静まり返ったマンションの廊下に乾いた音が散った。着替える余裕もないまま、外気へ身を晒す。


 まだ冬の匂いが残る二月。


 夜十一時過ぎの街は車の音さえまばらで、沈みきった世界の底に、一緒に沈められていくような黒い錯覚がじわじわ胸に広がる。


 安い怒りと悲しみだけを燃料に、掴んだ薄手のカーディガンを雑に羽織り、行き先を決めないまま歩き出した。


 冷える。思考よりも先に皮膚が震える。どこへ向かえばいい。あたたかいコーヒーが飲みたい。ただそれくらいの理由でいいから、少しだけ救われたい。


 「……ほら、寒いだけで死にたくなった」


 誰にも届かないほど小さく、糞みたいな自分にだけ聞こえる様に、夜に零した。

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