A new dawn after the darkest night

日本―嵐の前の静けさ―

 その超常的物体が日本に顕在したのは、週末の始まり金曜日の0時00分。

 発生時刻が明確に分かるのは、日本各地に設置済みの定点カメラの複数で、出現の瞬間が記録されていたからである。

 空間の歪みともに、日本上空に現れ、即座に72:00:00から00:00:00に向けて、カウントダウンが始まった。


 見た目動力源と思しき機構がないのに浮いているというだけで、既存の物体とは違うのだが敢えて既存の物体の名を借りて、出現した物体を表すなら『巨大なディスプレイ』というのが、一番的確な表現だろう。

 それ以上に驚きなのが、出現時の空間の歪みが影響しているせいなのかは不明だが、日本国内どこにいても同高度、同サイズに見えるのだ。

 富士山くらい大きな山でも、距離が離れれば小さく見えるのが普通なのに、このディスプレイには、そんな法則が当てはまらなかった。

 

 ディスプレイの出現に、政府やオールドメディアといわれる伝統的なマスメディアは困惑する。

 何かしらの危害を加えるでもなく、現時点ではそこにただ在るだけの存在だ。

 どう発表や報道をすれば、政府や報道機関にとって都合がよいか? など分かるはずもない。

 だからか分からないが、速報ではディスプレイ出現の事実と、危険防止の観点から国民には無闇に近づかないようにと発表するに留めた。


 また政府は企業や教育機関に念のため、出社自粛や臨時休校を要請する。

 企業も教育機関も、ディスプレイ出現が金曜日で、翌日が休日だったため、比較的容易に政府の要請は受け入れられた。

 航空会社も万が一に備え、カウントダウン中の航空機全便欠航の決断を下す。


 企業が政府の要請をすんなり受け入れたのは、ディスプレイのカウントダウンが72:00:00で始まっていたのも、大きかったのだろう。

 計算ではカウントが0になるのが月曜日の深夜となる。

 3 日ほどで何かしらの結果が出るなら、そこまでは様子見してもいいし、1日程度の出社自粛なら、仮に何も起こらなかったとしても、業績に大して影響はないと考えたのだ。

 

 オールドメディアは夜中、緊急報道番組を編成し急遽放映するが、特にそれで何が分かるわけでもなかった。そんな番組は起きている国民の不安を煽る効果しかない。

 不安に駆られた国民は、大事件でも大抵通常営業の番組編成を貫く、チャンネル12を司るテレビ局が深夜アニメを放映しているのを見て、取り敢えず大丈夫そうと胸を撫で下ろすのだった。


 ディスプレイ出現が夜中だったこともあり、当初国民の総数に対し、反応は緩やかだった。

 大多数が就寝していたのもあるが、ディスプレイは特に音を発するでもなかったので、国もわざわざ寝ている国民を起こしてまで、何かしようということもなかったのだ。

 多分、起こしたところで具体的に指示できるほどの判断力が政府上層部になかったというのもあるだろう。

 避難指示しようにも、どこが安全かなんて全く見当も付かない事象なのだから……


 政府やオールドメディアの代わりといってはなんだが、朝になるとネットやSNSといった新しいメディア、個人で情報発信をしているインフルエンサーなどは、ディスプレイ出現に色めきだつ。

 その報じ方は様々で、オカルト的に報じるもの、陰謀論的に報じるもの、政府のことなかれ主義的な対応に批判的なもの……多種多様に発信された情報は、取り沙汰されては消えを繰り返し、結局決定的な情報は何一つとして残らなかった。


 しかし、ごく一部、本当にごく一部の人間だけが、それが何であるか知っていたが、それを口にすることはなかった。

 その一部には社会に対し、真実を教えるほどの恩も義理もないからだ。

 また証拠となる情報も存在はするが、カウントダウンの結果が明らかになるまで、世間に見つけられることもなかった。


 若干の混乱が生じたのは、株式市場である。

 ディスプレイへの政府への反応が弱腰と取られ、海外資本家は先行きの不透明さを嫌い株式の利確や、リスク回避の流れから売り注文が集中。

 それにつられ、日本の一般投資家も売り一辺倒。

 一時、日経平均が前日比4000円安まで下落した。

 最終的には押し目買いの注文が入ったのと、防衛株の多くがストップ高を付けたのもあって、前日比3000円安程度で取引を終えることとなる。


 株式市場の混乱や、諸外国から政府の弱腰を非難され、政府が重い腰を上げだしたのは、金曜日の日中からである。

 とは言っても、まず自衛隊に出動要請を出し、ディスプレイに近づいてもらい、近くでの状況把握や記録画像、もし可能ならディスプレイの材質のサンプル回収を頼んだだけなのだが……


 それに対し、自衛隊員はよく働いた。

 まず戦闘機に付いている全ての電子機器的な装置上、ディスプレイは存在してないことになっており、機器を頼りにディスプレイへ向かうことは不可能なことが分かった。

 パイロットは管制機関からの指示と有視界飛行で、時空を歪ませ距離的な法則をも歪ませる超常的な人工物に、近づかねばならなかったのだ。


 そんな苦労をし、戦闘機は接近に成功した。それはベテランパイロットと管制官の匠の技といえるだろう。

 そして周囲の偵察と、それに対してのディスプレイの反応を観察し、無事基地へと戻ってこられたのだ。

 しかし、これで終わりではない。今度は戦闘機の飛行データを元に、ヘリコプターで出動し近づいての任務遂行が残っている。


 これからが本番なのだ。

 そしてこれもある程度の成功をおさめることとなる。ディスプレイへ接近しての撮影は出来たが、サンプル回収は出来なかったのである。

 と、いうのも遠目から見るディスプレイは透明で、厚いアクリル板のような材質に見えたのだが、近づくと違うことが判明した。

 透明なのはその通りだったが、材質はアクリル板のように硬質なものではなく、寒天のように軟質なものだった。

 だったらサンプル回収は容易に思えるが、回収しようとディスプレイに容器を接触させると、中に沈み込みはするが、構成物質を掬おうとしても掬えずに容器は空のままだ。

 外側から刃物で切る方法も取られたが、全く切れずナイフが跳ね返される結果となった。


 その様子はネットでライブ配信されていたのもあり、ディスプレイは国民から『コンニャク』という通称で呼ばれることとなる。

 

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