さよならの向こう側

スレ番9の『暇な俺と忙しい彼女』

 ダンジョン開始日を宣言してしまった以上、その日に向けて準備するしかない。

 2人で相談して決めた以上、開始日の後ろ倒しはできないし。


 とは言え俺のする事は、そこまで多くない。

 やった事と言えば、掲示板からもらったアドバイスを元に、スレ民に尋ねられ即答出来なかったダンジョン作成場所のリスト化や、錬金や調合でアイテム合成した際の結果を考えたり、めーちゃんがダンジョン開始直前に日本国民に向けて演説する内容を考えたりしているくらいだ。


 合成結果は最初は1つ1つ考えてたから大変だったけど、失敗はランダムで使用対象者が『本人のみ』のデバフ系アイテム作成って事にしたら、随分楽になったし。

 失敗して何も残らないのは可哀想だけど、失敗で有用なアイテムは作成させられないしなぁ……

 結構いい落とし所になったと思うんだよね。

 失敗でもアイテム手に入るんだし、みんなには失敗を恐れずに錬金や調合に勤しんでほしいなぁ。


 あー、あと、とにかくめーちゃんにご飯とオヤツを作ってはいるか……

 和・洋・中・伊・仏・墨・印……少しでも美味しく食べて欲しいという一念で、もうそりゃあ頑張った。

 ダンジョン作るのに、料理でしか貢献できないのが、少し情けなくはあるけど仕方ない。やれる事をやるしかないし……


 そんな俺に比べ、スレでの予告からカウントダウン開始日までのめーちゃんは地獄のように忙しかった。


 初心者セットや有用アイテムをオリジナルで作ったり、スキル作成やダンジョン作成の最終調整etc……


 それだけならまだしも、諸々のダンジョン関連項目を実現するためには、儀式として舞を日本国民に披露しないといけないらしく、その準備で神域と俺の家を行き来する事も多かったのだ。 


 その都度、大量のオヤツ持たせたっけなぁ。

 フィナンシェ、マドレーヌ、わらび餅、ドーナツ、マフィン……ここ数日で確実に俺の製菓の腕前は跳ね上がってるだろう。

 

「リュっちゃんー、ただいまー、疲れたー、癒してー」

 

 5時間前に出掛けて、今しがた帰ってきためーちゃんが、PC作業するため座っている俺の背中に抱きついてきた。


「おかえり、めーちゃん。オヤツにチョコチップクッキーとパウンドケーキ作ったよ、食べる?」


 俺は作業の手を止め、疲労困憊なめーちゃんの頭を撫でる。

 

「うん、食べるー、リュっちゃんのオヤツ美味しいもん。でももうちょっと撫でてー」


 疲れたときのめーちゃんはいつもに増して、甘えたさんになる。

 俺はめーちゃんに抱きしめられたまま、頭をしばらく撫で続けた。


 めーちゃんの甘い匂いと柔らかな感触に包まれてはいるが、さすがに疲れた女の子にムラムラするほど、鬼畜な性癖はしていない。


「あー、癒されるぅー、ちょっとあっちでイヤなことあってさー」


 どうやら神域で何かしらのトラブルがあったようだ。


「めーちゃん大丈夫だったの?」


「うーん、それについてちょっとリュっちゃんに相談したい事があるんだよねー」


 相談? 受けるのはいいんだけど、神域絡みで役に立てるとは思えないんだけどなぁ……


「役に立てるとは思えないけど、それでめーちゃんの気が楽になるなら、俺いくらでも話聞くよ」


「ありがとうー、リュっちゃん大好きー」


 ギュムっと、俺を抱きしめるめーちゃんの腕の力が強くなる。


「じゃあ、オヤツ食べながら話しようか?」


 俺はオヤツの準備をするために台所へと向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る