スレ番42―華麗なる転身―

スレ番42の灰色の日常

 人など誰も信じられない……

 それが43年生きて得られた学び。


 午前7時00分日課の如く、PCを立ち上げる。

 今日はこっちの銘柄の方がボラが高そうだな。

 経済新聞を見ながら、朝の経済ニュースをチェックし、朝イチでデイトレする銘柄の目星を付けた。

 後は軽く経済動向を分析しつつ、中長期で購入する銘柄を物色する。


 午前9時、市場開始。

 デイトレは値動きの激しい開始直後の30分が勝負だ。

 コンマ数秒、買いが遅れるだけで十万円単位で利益が飛ぶし、ジャストタイミングで利確出来れば、同じだけの利益が得られる。

 勝つ時も負ける時もある。

 得は大きく、損は小さく……そんなトレードでオレは資産を増やしていった。


 今日のデイトレは終了。後場でいい相場が来たら入るけど、余程でなければ今日は多分、手仕舞いだ。

 今日の実現損益+35万円也,


 やはり株式取引はいい、勝っても負けても自己責任だ。

 他人から足を引っ張られることもない。


 トレードを終え、リビングで入れたコーヒーでひと息付くと、昨日届いた保有銘柄の株主優待についての封書を確認する。


『桂 天彦様』


 それがオレの名前。

 43歳、投資家でニート歴3年、唯一の外界との繋がりが、オレ宛に届く株式関連の封書。

 金融資産3億、これだけあれば働かなくていいし、贅沢さえしなければ配当利回りだけで生活も余裕の金額だ。

 

 もう搾取も裏切りもゴメンだ。

 

 人とは関わりたくない。


 今日の市場も終わり、夕飯も終えると安らぎを覚える独りの時間。だが偶には寂しいときもある。

 そんな時オレの強い味方は匿名掲示板だった。


 週に何度か、気になったスレをROMり、気が向けば書き込んで、スレ住人と絡んだりもする。

 掲示板だけでの付き合いだから、手軽に寂しさを紛らわせる事ができるのだ。

 

【氷河期世代は】氷河期世代救済のためダンジョン作ることになった。意見求む【潜在能力高く設定しています】


 こんなスレを見つけたのは、本当に偶然だった。

 匿名掲示板ではネタスレが立つことも結構ある。

 救済のための方策がダンジョンって……オレは少し興味が湧いて中を覗くことにした。


 ここのスレ主、通称イッチは最初にスレ立てた理由と、ダンジョン作成についての基本方針を書き、直近で悩んでいるという『ステータス画面』と『ダンジョン発生場所』についての意見を求めていた。


 ネタスレと言われても特に怒らず、氷河期世代以外の荒らしに対しても冷静にアク禁していた。

 ネタスレのスレ主としては比較的常識人だろう。

 何で常識人がネタスレなんか立てるのか? という疑問は残るが……

 リアルでストレス溜まってるってことだろうな。こんな世の中だからな、分からなくもない。


 常識人がネタスレ立てるまで追い詰められてるのかと思うと少しは同情心も湧くもの。

 オレは時間もあることだし少し付き合ってやるかと思い、疑問に思っていたことを書き込む。


 何で氷河期世代にだけ、レベルの概念とステータス画面実装して、スキルや魔法を使用可にしなかったのかが、疑問だった。

 スカッとするのは、自分達だけが力を持っていて、それを存分に振るうことなのでは? と思ったのだ。

 

 その問いに対してのイッチの答えは『みんな同じもの持ってるのに、氷河期世代の物だけが優れてる方が悔しいし、持ってないのを逆手にとられての被害者面は苛々するから』と『他世代の報われない人への救済措置』の2つの理由からだった。


 正直、なるほどと思ったよ。

 同じものを形だけでも与えておけば、逆手に取られることはない。

 もし氷河期世代だけがステータス画面実装されていたら、『力を持ってるなら社会のために使え』と国は絶対いう。

 その主張を封じ込められるのは大きい。

『他世代の報われない人への救済措置』というのも納得出来る理由だ。

 世代間でいえば報われない度合いは氷河期世代が一番だろうが、個人間でいえば氷河期世代の平均以下の人も確実にいるだろうし。

 どうやらこのイッチはネタスレのスレ主ではあるけど、俗にいう『いいヤツ』みたいだ。


 その後スレ住人は、各々欲望丸出しなステータス画面の希望を書き込み、イッチが希望を全部飲んで、ステータス画面についての下りは終わる。

 

 次はイッチのもう1つの悩みである『ダンジョンを作る場所』についてだ。

 正直いうと、そんな発想したことなかった。

 ゲームではダンジョンというのは出来合いで、そこにあるものって認識だったからな。

 日本にダンジョン作ろうと画策すると、こういうところで悩むんだな。

 何か妙なところで感心してしまう。

 そもそも範囲が日本全土というのが広すぎるのだ。

 スレ住人も希望を出しにくいようで、書き込みがピタリと止まった。

 なのでオレは、また疑問点を書き込んだ。

 それと、どこにでもダンジョンを作れるという前提で、絶対ここに欲しいという場所も書く。


 国会議◯堂と霞が◯……オレの古巣にして、一番憎いヤツ等の総本山。


 オレの意見にスレ住人が活気づく。こいつ等も氷河期世代、国や政府には相当煮え湯を飲まされてきた。

 オレの意見に同意する住人、ダンジョンの占有を心配する住人……数レス住人同士のやり取りがあり、その後、イッチからの答えが書き込まれる。


 まず、オレのスレ番を安価して、滅茶苦茶褒めてきた。

 仕事を辞めて3年、人と全く関わってなかったから、思った以上に書き込みが心に響く。

 そういや、仕事していた頃は『やれて当たり前』で『やれなきゃ脱落』だったから褒められたことなんてなかったな。


 肝心のイッチ回答だが、なんか面白い。

 このイッチ、要所要所で設定が細かいんだよな。

 パワースポットにダンジョン作れるのは、まぁ分かる。

 でも良質なダンジョンってなんだよ、ダンジョンに悪質ってあるのか?

 オレはもう一度、イッチが安価したスレ番の『42』をコテハンにして質問を投げた。


『違いは何か?』と……


 他のスレ住人から、質問力が凄いとか、ガチ勢だとかの書き込みもあるが、質問力は『昔取ったきねづか』だ。

『ガチ勢』だっていわれても、気になったことをそのままにしておくのも気持ち悪いんだよ!

 このたちのせいで、人間不信になったようなものだから、直さなきゃいけないんだろうけれど。


 これに対してのイッチの回答も、ネタスレの回答として秀逸だった。

『良質なダンジョン』は人に有益なダンジョンで、『そうでないダンジョン』は実際あったら絶対入りたくないダンジョンだ。

 敵倒しても、ドロップ品が出ないとか、ガチャ産アイテムが呪われてるって酷いな。

 地味に敵が臭いってのも堪えそうだし。

 この様子じゃ、ダンジョン内にセーフティゾーンもないんだろうなぁ……


 でも、そうでないダンジョンって古巣のヤツ等の根城近くに作れないかな? 

 そのままだと、さすがに1回偵察したら探索終了になるか。

 それだけでも溜飲は下がるけど、どうせなら占有でもさせて、あいつ等だけが継続的に苦しんで欲しいよな。

 そうだ、良質なダンジョンに偽装できないか? このイッチ質問したことには素直に答えてくれるし聞いてみるか。


 おいおい、スレ住人ども、オレをおもちゃにするなよwww

 思わず草が生えてしまった。どうやらオレはジ◯リアンらしい。


 どうやらイッチも住人のノリが笑いのツボだったみたいだ。

 それでも質問には真面目に答えてくれるイッチに和む。

 答えとしては『初期に作るダンジョンには向かない』だった。

 ただオレの発想自体は至極気に入ったようで、時期を見て是非作りたいとのこと。

 この言い方だと、偽装できるようだ。


 他の住人からは『最初のダンジョンに向かないのは何故?』との問いも出てくる。

 なんとなく想像は付くが、イッチからの回答を待とう。

 

 イッチの回答は若干、オレの想像とは違った。

 オレとしては、確実に成功させるためという理由だけだと、思っていたのだが……

 どうやら偽装するにも何らかのコスト消費するようで、ダンジョンの有用性が認知されたあとの方が、コスト消費が少ないという至って整合性の取れた理由も存在していた。

 

 低リスク高リターンであるに越したことはない。

 しかしイッチはネタスレのスレ主としては、立ち回りが妙に現実的なんだよな。


 その後、スレの流れとしては『作れる場所が限られてないか?』という疑問に対して、オレや他の住人が説明したり、各市に1つは欲しいと、無茶な希望をいう住人がいたりと、中々賑わっていた。

 オレはあまりダンジョンマスターには興味がないから、書き込みはしなかったが、ダンマスになりたい勢が結構おり、理想のダンマス生活を語る流れに突入。


 それに対して、イッチがダンジョンを2市に1つは作るといってみたり、ダンマスに対しても頑張ればなれる的なことを言ったりしていた。


 イッチよ、2市に1つのダンジョンって結構ハードル高いぞ。大丈夫か? それに頑張ればダンマスになれるなんて、無責任なこといって平気か?

 無責任なのは官僚と政治家だけにしてほしいんだからな!


 ……って、いやいや、ネタなんだから何をいってるんだ、オレ。イッチだって本当にやる訳でないから、いってるんだよ。 

 一瞬、本当にイッチがダンジョン作る前提で考えてしまったが、我に返って思考を通常に戻す。


 そんな心の動きをしてる間に、イッチは明日仕事だと告げ、何かあったらまた来るからと言い残し、スレを去っていった。


 イッチのいなくなったスレは少し雑談が続くも、すぐに過疎ることとなった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る