ニケの天使
茶村 鈴香
ニケの天使像
百貨店勤務の私は
土日に休めない
建築士の彼は
基本は平日勤務
どうなるかというと
デートの日時に悩む
「仕事終わったら飲もうか」
待っててくれても
私はカルピスサワー2杯が限度
彼はいわゆる『ザル』
無理して「飲め」なんて言わないし
私、焼き鳥も揚げ茄子も好きだよ
酔って陽気になる彼を
楽しそうって見つめてる
でもこれが『出会い系』の限界か
彼には古い女友達がいる
私は怖くて見られないプロレスを
一緒に楽しめる女の子
「カオリは女じゃないから」
隠しもせず言うけど
(じゃ男なんですかね)って
そんな訳ないじゃない
『カオリちゃん』もザルらしい
土曜日の夜から翌朝まで
プロレスと野球の話しながら
飲んでるらしい
妬かないわけないじゃない
出会い系 うちとけた時は
美術館の話題でチャットした
私は絵画より彫刻が好き
憧れは ニケの天使像
「いつかルーブル美術館で
本物を見たい」
私の“将来の夢”に
“一緒に行きたい”って本当?
「俺はサグラダファミリアと
闘牛、スペインにいつか行く」
牛と闘うショーは怖いけど
ガウディの夢の教会は私も憧れ
実際会って 気も合ったけど
悩ましいのはデートの日時
私の休みは月曜日と
時々は月曜日と水曜日
月曜日 彼は休み明けで多忙
水曜日 夕方からやっと会える
これ付き合ってるって言うのかな
ニケの天使像には顔がない
発掘された時はもう失われてた
それぞれに思い浮かべる
美しいであろう天使の顔
私は『カオリちゃん』に会ってない
きっときれいな子なんだろうな
きれいな顔してリングサイド
きれいな顔して大酒飲み
彼にお似合いなんじゃない?
サグラダファミリアは
『カオリちゃん』と行きなよ
闘牛だって
『カオリちゃん』なら喜ぶよ
いつか言っちゃいそう
ジェラシーの言葉
「友達だって言ってんのに」
彼は機嫌悪くなるだろな
ニケは笑っていたのか
瞳は閉じていたのか
何処へ羽ばたこうとしていたのか
無い顔だから想う美しさ
火曜日の夜のデート
ちょっと気取ったレストラン
飲み慣れないワインで
加減がわからない
カルパッチョにテリーヌ
ホタテのグリル あたりで
怪しくなってくる
気づいたら泣いてた
「カオリちゃんと付き合いなよ
私もう、しんどいの」
「あのな、カオリはな…
女の恋人がいるの」って
えっ?
「何で泣くかね、今日に限って」
やれやれとジュエリーボックス
「ありがちで悪いけど
俺の嫁さんになってください」
こんな顔してるのに言わないで
「会ってる時間の長さだけが
2人の時間じゃないじゃん?
カオリの事が嫌なら止めるし
俺はいつも君の事考えてるよ」
タイミングおかしい気がするけど
…私の負け
私もいつも考えちゃってるよ
しばらくして私は百貨店を辞め
パートで引き続き同じ職場に
土日はもちろん彼といられる
『カオリちゃん』にも会えた
やっぱりきれいな子だった
私が想像したニケの天使に
彼女はよく似ている
真っ直ぐな瞳と引き締まった唇
2人暮らし始まったら
遊びに来てって伝えてもらおう
よかったらカオリちゃんの
恋人も一緒に
ザルの皆さまは
好きなように飲んでて
私はサイダーで酔えるから
私の中で
ニケの天使が微笑んで
翼を広げ空へと舞った気がした
ニケの天使 茶村 鈴香 @perumi
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