ただガチャを回しただけなのに。
@unyoki
ただガチャを回しただけなのに。
僕は合理的な性格だと思う。 感情的にならず、どんな事も迷うことがなく、効率的に物事を進められる。 そんな僕がただ失敗したとすればあの日、あの時、ガチャを回してしまったことだけだろう。
まずガチャとはなんなのか、それは突如日本に現れた。 通称能力ガチャ。 これは回した時にランダムな能力が本人にその場で付与される。 大当たりもあるが大抵はなんの使い物にもならない能力が排出される。 だがそのギャンブル性が故に多くの人々が夢を見ながら大金を散らして行った。
因みにガチャは日本で管理され、これらの売上は国営収入とされ日本は遥かに豊かな国になった。 これはそんな時代に生まれた、ガチャに狂わされた僕の物語だ。
「
「?」
それは昼休みの時、昼食を食べ終え、教室内で一人黄昏ていた時のことだった。 ここは都内にある雨雲高等学校。 中の上の進学校であり、そこに通う僕は16歳の高校2年生だ。 因みに呼んでいるのは生活指導の加藤先生だ。
先生に連れられて生徒指導室に入ると一人の女子生徒がいた。
「悪いな。 呼び出して。 突然だがお願いがあってな」
座るように促され僕も椅子にかける。
「如月。 こいつのこと知ってるだろ?」
「いいえ。 存じません」
「ちょっと! 酷いよ、如月君!」
活発そうな女子生徒から声が上がる。
「まぁ……。 如月だしなぁ……。 こいつは
「はあ。 そうですか。 それで何ですか?」
「あと二週間後に中間テストあるだろ? そのこいつは何というか……。 学問の成績があまり良くなくてな。 ちょっと勉強を教えてやって欲しいんだ」
「如月君お願い! このままじゃ私留年しちゃうよ!」
「何で僕なんですか?」
「お前が学年トップだからだよ」
実はそうなのである。 僕は常日頃から勉強に熱心に取り組み学年1位の座をキープしていた。
「先生方が教えればいいのでは?」
「教えてるさ。 でも何だろな……。 同世代の方がやりやすいかもと思ってな」
「僕が鳴神に勉強を教えるメリットありますか?」
「あるぞ」
僕は一個も思い当たらなかった。
「お前、友達いないだろ?」
「友達の定義によりますが」
「今ので確信した。 お前絶対友達いないわ」
「先生は学校は何する場所かもちろん存じてますよね?」
「は〜い! 青春と! 友情を謳歌する場所です!」
「鳴神には聞いていない」
「勉強する場所と言うんだろ?」
加藤先生が呆れながらため息をつく。
「そうです。 学校とは将来社会に出て問題なく生活できるように己を磨き上げる場所です」
当たり前のことだ。
「まあそれもあるがそれだけが全てじゃない。 鳴神の言う事も一理ある」
加藤先生が言葉を続ける。
「社会に出るってことは人と繋がりが生じるってことだ。 お前みたいな勉強だけできても友達が1人もいないような奴はまともな社会生活は送れんだろうよ」
「で、そんな成績の悪い奴を友達にしろと? 僕にも選ぶ権利ってものがあると思うんですけどね」
「あれ……。 なんか私ディスられてる……?」
「鳴神は成績はアレだがスポーツ万能の八方美人。 要するにコミュ力お化けっていうわけだ」
「かとー先生に美人って褒められた!」
褒めとらんやろと僕は思う。
「ここは一つお互いに学び合うのはどうかな?」
「お断りします。 僕は失礼しますね」
そう言って立ちあがろうとすると加藤先生がボソリと呟いた。
「……内申もやろう」
「やらせて頂きます」
僕は再び椅子に座り直し、鳴神に話しかける。
「鳴神。 僕が教えるからにはお前の成績を文句なしの好成績にしてやる。 まあ鳴神次第のところではあるが」
「おお……。 頼もしい! まあ私は赤点回避できればそれでいいんだけど……」
「よし。 じゃあ決まりだな。 放課後好きなように教室を使ってくれ」
「分かりました」
「はーい!」
そして来たる放課後。 勉強会が始まった。
「まず鳴神まずは勉強するにあたって目標を決めよう」
「と、言いますと?」
「あと二週間しか無いわけだから、現実的なプランは……」
僕は少し悩み決める。
「ALL教科50点だ」
「ええ! 無理だよ! そんなの!」
「いや頑張ればいけるはずだ。 とりあえず何が分からない?」
「分からないことが分からないというか……。 主に数Bが……」
「よし数Bから取り掛かろう。 とりあえず過去の簡単な問題からやってみろ」
「うう……。 りょーかい……」
鳴神がわからないという箇所を教えて再び自力で問題に取り組む。 それの繰り返しで数時間が経過した。
「ねえねえ如月君」
「なんだ?」
「如月君の趣味は何?」
「勉強」
「それだけ!?」
僕は少し考えて口にする。
「あと強いてあげるなら貯金かな」
「それも少し違うような……」
「人の趣味にケチをつけるな。 鳴神はさぞかし立派な趣味持ってるんだろうな?」
「えへへー。 私はね……」
そう言ってシャーペンを僕に突きつける。
「剣道! これでも県大会行ったことあるんだから!」
「そりゃ凄い。 あ、そこの答え間違ってる」
「もー……。 リアクション薄いなぁ……」
そう言いながら鳴神は消しゴムで答案用紙を擦る。
「そういえばさ」
「お前は口ばかり動かすな」
「いいじゃん。 話しながらでも」
「で、なんだ?」
「入学の時に貰ったガチャチケ使った?」
ガチャチケとは能力ガチャのチケットだ。 能力ガチャは回すのに現在の価格だと1回5万円ほどするがこのガチャチケを使うと1回だけ無料で回せる。 雨雲高等学校入学時に貰える特典みたいなものだ。 入学した全生徒は1枚だけ配布される。
「使ってないな」
「私もー。 いつ使うの?」
「いや使わない」
「え?」
「多分高騰するだろうからいいタイミングでフリマで売って金に変える」
「売っちゃうの!?」
「僕はガチャなんか回さなくても人生満足してるからいいんだよ」
「でも思い出になるじゃん。 思い出はお金にかえれないよ」
まあ一理あると思った。
「しかしなぁ……。 ガチでどうでもいいからなぁ……」
「じゃあさじゃあさ! 私がテスト50点……。 ……いや60点! 取ったら一緒に回しに行かない?」
「60はかなり厳しいぞ」
「頑張るからさ! ねっ!」
僕は現段階で鳴神が全教科60点取れると思っていなかった。
「まあじゃあ取れたらな。 取れなかった場合諦めろよ?」
「もち! よーしやる気出てきた!」
そうしてテストの前日まで勉強会は続いた。
「これは……。 マジか……」
それはテストの返却日。 鳴神から受け取った答案用紙を見て言葉を失った。
「うん! 私凄い! ちょー頑張った!」
全教科の平均は70点を超えていた。 実は勉強会の終盤から薄々気づいていたが鳴神は決して頭が悪いわけではなかったのだ。 一度覚えたことはちゃんと覚えていた。 ただ今まで勉強する気が無かっただけなのだ。
「如月君! 約束覚えているよね?」
「……ああ。 ガチャの件だろ。 わかったよ……」
こうして僕は鳴神とガチャを回しに行くのだった。
「凄い人だな」
「2時間待ちだってさ〜」
都内某所。 能力ガチャ会場にやってきたわけだがそこには人がごった返していた。
「楽しみだなぁ……。 どんな能力が出るかな?」
「あんま当てにしない方がいいぞ。 どうせ碌なもんじゃない」
そうして鳴神の番がやってきた。
「回してきた! このカプセル開けると能力が付くらしいよ!」
鳴神の手にはガチャガチャのプラスチックの球体のカプセルが握られていた。
「一緒に開けようね! 如月君も早く!」
「わかったよ」
僕は受付にガチャチケを渡し、ガチャのある小部屋に入った。 目の前にあるのは一見どこにでもあるガチャガチャの機械だった。 迷わずガチャを回すとカプセルが出てきた。
カプセルを取り出して部屋から出る。
「持ってきた? じゃあ開けよう!」
僕と鳴神は同時に開ける。 眩い光が球体のカプセルから溢れ出し、中には一枚の神社のおみくじのようなものが入っていた。 僕はそれを取り出し目に通す。
『あなたは異性の四文字の名前は声に出せなくなる』
「これは……。 能力というか……。 デメリットでは……?」
鳴神に声をかけようとしたら出なかった。 そうか"なるかみ”四文字だ。
「おい。 お前の名前呼べなくなったんだが。 そっちはどうだ?」
固まる鳴神の手元の紙に目を通す。 そこには。
『あなたは火を自在に出せ、操れるようになる』
「如月君……。 これって……?」
「できるのか?」
「試してみる……」
鳴神はそう言い手のひらを広げると火球が突然現れた。
「マジかよ……。 大当たりってやつか」
「私、火属性になっちゃった……。 如月君は?」
「これだ」
そう言って鳴神に紙を見せる。
「プッ! アハハ!」
「どうすんだよこれ……」
「私のことは今後茜って呼ぶしかないね!」
「そうらしい……。 なんかどっと疲れたな……」
「まあまあ。 思い出になったでしょ!」
「思い出……。 まあそうだな」
僕らは互いに笑った。
そんなガチャの1件もあり僕と茜の交流は続いた。 どこか遊びに行ったり、また勉強会をしたり。 きっとこれが友達ができると言うことなのだろう。 加藤先生が言う通り茜には確かに何か大切なものを教えてもらったような気がした。 そして気づけば僕たちも卒業シーズンに。 それは最後の勉強会を茜と一緒にしている時だった。
「あーあ。 私たちももう卒業だね」
「そうだな」
「雫君はもう進路決まってるの?」
茜も僕に合わせて下の名前で呼ぶようになっていた。
「まあ普通に進学だな。 茜は大阪だっけか?」
「うん」
「中々会えなくなるな」
「そう……だね」
僕たちはお互い黙り込む。
「ね。 最後にさ。 ガチャもう一回回しに行かない? 私たち仲良くなったのってガチャのおかげだと思うんだよね」
「まあいいけど。 あれ5万だろ? また変な能力つけられたら僕としてはたまったもんじゃないんだけどな」
「手からお金が湧いて出る能力が出るかも」
「ハハッ。 そりゃいいな。 よし。 行くか」
そう言うことで僕たちは再びガチャを回しにいくのだった。
「せーので開けようね」
「ああ」
「せーの!」
再びカプセルを開けると眩い光が。 そして中に入っている紙に目を通す。
『あなたは食用できる草が一目で分かるようになる』
まあ……。 これは何とか使いようがあるような気がする。 果たして5万の価値があるのかと聞かれればどうなんだという感じではあるけど……。
「どうやら僕は草博士になったらしい。 そっちはどうだ?」
茜に目をやると呆然とした顔で紙を見つめていた。 また凄い能力を引き当てたのだろうか。
「……茜?」
僕の声かけに茜はハッとし、慌てて持っていた紙を自分のポケットに入れる。
「ちょっと雫君には見せられないかな」
何か恥ずかしい内容だったのだろうか。
「まあ前回大当たり引いてたからな。 今度キャンプにでも行こう。 草博士になった俺がエスコートしてやる」
「……うん」
茜はどうも浮かない表情だった。 5万払って微妙な能力だったら確かにそうなるかもしれない。
「まあなんだ。 帰るか」
「うん」
帰り道、ずっと茜は話しかけても上の空って感じだった。 心配だから家の近くまで送って行くことにした。
「じゃあ僕行くから。 明日またな」
「……うん」
それが茜との最後の会話になるとはこの時は思わなかった。
結論から言うとあの後茜は自殺した。
それが知らされたのは一週間後の学校のホームルームの時間の時だった。 原因は不明。 しかし僕だけはそれを知ることができた。
しばらくして茜の部屋から僕宛の遺書が見つかったと茜の母親が持ってきたからだ。 遺書にはこう書かれていた。
『如月雫君へ。 今まで勉強を教えてくれた事。 友達になってくれてありがとう。 とても充実した日々でした。 本当はもっと遊びたかったけど駄目みたいです。 色々書きたいけどうまく考えがまとまりません。 ごめんなさい』
そして最後の行には震えた文字で一文書いてあった。
『ガチャなんか回さなければよかった』
その文字は涙のせいかインクが滲んでいた。
そして一緒に同封されていたのは能力ガチャのあの紙だった。 それにはただ簡素にこう書かれていた。
"あなたは殺人鬼になる“
「如月。 お前本当に進学しないのか」
「はい」
「お前ほどの優秀な奴が勿体無い……」
加藤先生は嘆くようにそう言葉にした。
「やるべき事ができたので」
「……そうかよ。 まあ応援はしてる」
そして僕は学校を卒業した。 当面の目標は金だった。 僕は幸い纏まった貯金があったからそれを元手に株に手をつけることにした。
うまくいき不労所得を手にする事ができ莫大な金が僕の元に集まるようになった。
では今何をしているのかと言うと。
「あなたは1日の歩数が分かるようになるか……。 ハズレだな」
ただひたすらガチャを回していた。 能力ガチャの仕様で1日1回しか回せないから回せる回数は人生で限られている。
もうガチャを回し始めてから10年立つが狙った能力は未だ出ない。
多分僕はこれから先一生ガチャを回し続けるのだろう。
"死者を甦らせる”その能力が出るまでは。
ただガチャを回しただけなのに。 @unyoki
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