ニュージェン | 魔王誕生!新魔王が大暴走したら世界を救うのは誰だ?!
小麦シャチノコ
魔王の子
零、届かぬ願い
十六年前……
魔法耐性のついた立派な防具を見に纏い、希望に輝く
勇者パーティは森の中を突き進み、大河を渡り、大地を走った。広大な自然の何処に悪魔が潜んでいるかを警戒しながらも素早く進む。そして遂には汗までもが凍りついてしまうような氷河地帯に足を踏み込む。
「もう少しだ、魔王城は山頂だ!」
山の麓で、吹雪を前に勇者は皆んなに呼びかける。
見上げた山はこれまで見てきたものより比べ物塗らないほど高い。山頂は雲に隠れ、天まで届くようだ。
勇者は剣を鞘にしまい、雪を被った岩を次々に這い上がる。
登山中、勇者一行はテントを張り、夜を凍えながら耐え凌いだ。
三泊四日かけて彼らは魔王城に辿り着いた。山に作り込まれた門は高く、上に見える塔への唯一の入口だった。
4人がかりで扉を押し開け、城内を彷徨う。
「そこまでだ勇者」
大きな広間へ出ると、彼らの前にデュラハンが待ち構えている。
勇者たちと頭無しの騎士の間には体育館ほどの空間があり、後ろにも奥行きがある。
「
奴の声が何処からもなく勇者たちの耳に響く。
「はっ、その前にテメェはこの剣の餌食だ」
掛け声と共に戦士と勇者は床を蹴る。目では追えぬ速さで瞬時に間合いを詰めると、左右からデュラハンを挟み込み、それぞれ武器を振う。
デュラハンは素早く対応し、左は勇者を盾で防ぎ、右は大きな
腹部をガラ空きにした刹那、僧侶と魔法使いが詠唱を唱え、強力な技をデュラハンにぶつけた。
勇者と戦士は2人の元まで撤退し、攻撃でできた煙が退くのを待った。
デュラハンは傷が付くどころか不安定な姿勢を全く崩していない。
「伝説の勇者でもこの程度か?」
鎧の動く高い金属音に紛れて声が響く。
魔法使いの詠唱が短く響き、勇者の身体が淡い光に包まれる。
「攻撃増加、加速付与、メンデヘル!」
次の瞬間、勇者の動きは風のように早く、デュラハンの懐に入る。
「小細工か!」
デュラハンは鎚矛を上げる。
カアン!
勇者の力強い一撃と共にデュラハンの手から剥がされ、魔法使いの側に落ちる。
その隙に僧侶テュファは戦士への元で跪くと両手を合わせて唱える。
次の勇者の攻撃。
デュラハンは剣筋を見切ったものの、盾では防ぎ切れず火の粉を飛ばしながら片膝を地面につける。
すかさず魔法使いは鎚矛に爆破魔法を付与し、暴風でデュラハンに起爆させた。
「ほう……」
敵への称賛にデュラハンはしばらく止まった。
爆風が収まり、広間に金属の破片が転がる音だけが残った。
「
錆たような声で彼は言い、鎧は魂をとられたかの様に力尽き、崩れた。
デュラハンを倒した勇者一行は場内を駆け巡り、次々と待ち伏せる幹部を倒していった。
天井まで身長のあったミノタウロス、どんな冒険者も虜にしてしまう
最後の部屋は玉座の間。扉の向こうは魔王。
4人は覚悟を決めて中に入る。
ドアを開けた途端、とてつもない覇気が溢れ出し、来るものを拒んだ。
「こ、これ程とはなぁ。今まで戦ってきた奴らと比べ物にならねぇ」
勇者は歯を食いしばりながら部屋に入る。
「おうよ、コイツぁ正真正銘のバケモンだ。覇気だけで縛られる様な感覚だぜ」
戦士は息を呑むと斧を構えた。
「さっさと倒して街に戻ったらお風呂に入りますの」
魔法使いが言うと僧侶も後を追う。
「相変わらずですね、リーネ様」
玉座の間の奥、立派な玉座に座る魔王が居た。腰掛けていた彼はゆっくりと立ち上がる。
「よくぞ此処まで辿り着いたな勇者よ。この様な形で会うことになったのはとても残念に思う」
彼の重く低い声は部屋全体を震わせた。
4人が中に入ると扉は閉じ、床の魔法陣が赫く光った。4人は警戒して魔法陣の周りを歩く。
「どう言うことですの?」
魔法使いは気味悪そうに聞く。
「ヒトの子達よ。我等はそう変わらない。いや、変わらなかった……」
魔王は両腕を挙げた。
「エルフ族は遠い昔、ヒトから別れたそうだ。我等魔族も、君たちが奴隷にしている亜人族もそうだ」
「何が言いたい。長話は嫌いだ」
勇者は魔王の話の最中に言った。
「共存だよ。私の願いはね……社会的魔族の地位を取り戻し、この世界に居場所を与えること」
魔王は両腕を今度下げると、右手には巨大な剣を具現化させた。
「しかしどうしてだね?君たちは上下を作らなければならないのは。共存のレシピにヒトは不要だ!」
魔王の言葉が叩きつけられた。魔王がただひとつ見下す種族だった。
「では参りましょう」
僧侶テュファの掛け声と共に勇者達と魔王の攻防が始まった。
勇者は剣を抜き放ち、躊躇無く魔王に振りかかった。
片手とは思えぬ速さで魔王の大剣に防がれる。
カアァン!
勇者は後ろに反動で滑る。
魔王は合間無しに踏み入り、勇者の足を狙う。
勇者は紙一重で跳躍してかわした。背後では戦士が斧を構え、魔王の側面へと突進する。
「らあああ!」
戦士が跳ね上がり、斧を振り上げた瞬間、瞬間移動でもしたかの様に魔王は彼の前に現れた。
魔王の剣が彼の斧を持つ右肩に突き刺さる。
「ぐはぁっ……!」
魔王は彼のことにトドメを刺さず、大きな柄頭で戦士を床へ叩き落とした。左肩を狙った打撃は彼を戦闘不能にした。
彼の努力を無駄にせんと魔法使いはチャンスを逃す前に術を唱える。
「雷よ、敵を縛れ、グラーヴェチェイン!」
明るい鞭が彼女の杖から瞬時に現れて魔王を拘束する。
「こんなもので私を止められたとでも?」
右から来る勇者を見ながら魔王は膝を曲げ腰を低くした。
「神よ悪の子に罰を与えよ、ピュリファイン」
テュファも神に祈りを捧げると光の刃が魔王に飛んでいく。魔王は勇者が近づくのをもう半秒待つと身体を回転させた。杖から伸びていた電気の鎖を逆手に取り、彼女ごと投げ飛ばす。
「くっ……何なんですの?!」
投げ飛ばされた魔法使いはコントロールが効かず杖を離すことができない。
遠心力を使って勇者の攻撃を避けた魔王は魔法使いと勇者を激突させた。
「うっ……!」
「くはっ……」
そして2人に降りかかる本来、魔王に当たるはずだった僧侶の
何十もの槍が彼らに当たる。
「チッ……」
魔王はその刃が彼らに何の効果も無いと見ると3人から離れて玉座の前へ戻った。
「バカですの?神聖の力は私達に効果はありませんの」
魔法使いは魔王を煽る。
「まだまだこれからですの!」
僧侶は戦士の元へ駆け寄り、斧を両手で持ち上げると勇者の背中に向かって投げる。
魔法使いは勇者の背中に斧が到達する寸前に爆破魔法を使い、斧を爆破させて爆風で勇者を魔王の元へ飛ばした。
勇者は空中を飛び、剣を見事に魔王の顔面に突き刺す。
魔王は歯を食いしばりながら刺された跡を押さえる。魔王は更に下がり、指の間から床に垂れ落ちる自身の血を見る。
「なるほど……洗練された連携だ。私の部下達はただ経験値になっただけと言う事ですか」
魔王は低く笑った。
感想を終え、魔王は再び攻撃に戻る。片目をなくそうとも彼の剣技は勇者に劣らなかった。それどころかこのハンデがあるにもかかわらず後ろに控える魔法使いと僧侶を気にする余裕があった。
魔法使いは魔王に杖を向ける。
「全てを氷尽くせ、フローズンワールド!」
その詠唱を言い、魔王を凍りつくしてしまうはずだった。しかし勇者には死角。魔王との一騎応戦に神経を注いでいた勇者は気づかなかった。
魔王は勇者の突きをかわすと一歩後ろへ下がった。
そこにチャンスだと思い込み胴を狙って踏み込む勇者。
勇者の腕は剣とともに、一瞬にして氷の中に閉ざされてしまった。
「しかし作戦無き連携は妨害につながる……あなたたちならよく知っているはずです」
魔王は剣に両腕の自由も失った勇者を見下し、自分の魔剣を構える。
「クソッ、ぬけねぇ!」
僧侶は分厚い氷を砕くような術を有してはいない。
「リーネ様、何とか勇者様を!」
魔法使いに助けを求めるが、彼女も僧侶と同じような状況にいた。
「さっき腕を痛めてしまったんですの。今の氷魔法で己の腕の状態がよく分かりましたの。」
「そんな……!」
「ここから火魔法を打ちましたら彼ごと灼熱の中……もっと近づくしかありませんの」
魔法使いリーネは杖を持ち変えると勇者に向かって走り出した。
「ヒトの希望と呼ばれし子よ。貴様の死は無駄になることはない……愚かなヒト族の象徴として歴史に残してやろう」
魔王は近づくリーネを見るが、彼女が安全な射程距離に到達するまでには勇者の首を落とせると確信した。
「クッソオォォォー!」
勇者は汗をたらしながら腕を抜こうとする。
リーネが杖を構え始めながら近寄るが、魔王はもう剣を降ろし始めていた。巨大な刃がギロチンのように落ちていく。
勇者は敗北、訪れようとしている死を受け入れず藻掻き続けた。死ぬ前、時間が遅くなるように勇者の抗いは引き延ばされた。
魔法使いは勇者を呼びながら杖を構えようとし、僧侶は涙を流しながら手を突き出していた。
そして魔王は価値を確信していた。勇者、彼さえ
勇者の敗北は、ヒトの敗北をも意味する。
魔王が剣を振り下ろしていたその瞬間、後ろから何者かがぶつかり、魔王は氷を割ってしまった。
魔王の後ろにいたのは両腕のぶら下がった戦士だった。
「こんなの日常茶飯事だせ。俺は止まれねぇ」
彼は血と共に言葉を吐いた。
勇者は魔王の動揺を機に腰を曲げ、身体を大きく振って魔王を真っ二つにした。
魔王の身体は、上下にずれたまま崩れ落ちた。
赫い血が玉座の前の床を静かに濡らす。
「……やったぜ」
勇者の声は震えていた。
氷に閉ざされていた腕は自由を取り戻している。だがなぜか固まって動かない。
魔王の顔には怒りも憎しみも無かった。
「やはり、勇者は魔王を討つのだな……私の願いは叶わぬか」
仰向けの魔王は目や耳、口から血が流れる。
「守るもんがあると強くなる。それが人間の強さだ」
勇者は勝ち誇った顔でいたが、次の出来事は彼にも、彼の仲間にも予想できることでは無かった。
「私も……そう思う……」
そう言って生き絶えた魔王の亡骸の先、入口の扉が微かに空いていた。
「まだ手下が?」
僧侶は入口を睨んだ。
軋む音と共に扉が更に開く。
そこに顔を出したのは殺意に溢れたゴブリンなんかでは無く、玉座の間には不釣り合いな幼女がいた。
黒いツノをもち、肩までの髪は乱れ、薄い衣の裾が震えている。
「……お父、様?」
彼女は呟いた。
勇者は剣を構えない。
魔王の死体を見下ろす。
これは単なる魔王では無い。子供の生きやすい世界を作ろうとした父親だったのだ。
魔法使いはすぐに詠唱を始める。
少女はただ亡き父親を、手足震わせながら見ていた。
そして誰ひとりと彼女に声をかけず、4人は転移魔法であっという間に去ってしまった。
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