第46話


星乃咲良ちゃんに連絡を入れたところ、ソッコーで電話がかかってきた。

私は事情を説明する。最近の涼香先輩のこと、それをどうにかしたいこと。


『なるほど、そっかぁ…けどなぁ。んー』

「? なにかあるんですか」

『結構難しいとこなんだよね。確かにあたしとか、他のライバーもそれにはなんとなく気がついてたけど、あまり触れられない部分というかさ』

「なんでですか?」

『あたし達が気にかけることで尚更病むかもしれないからさ』


ああ…、と思った。


『あの子、結構責任感とか強いからね。自由で気楽そうな雰囲気があるけど、中身はかなり真面目だからね

ね…だから、多分あたしとかが話聞こか?ってするとプレッシャーになっちゃうと思うんだよ』


わかる。私も大先輩である咲良ちゃんにそうやって気を遣われたら迷惑かけちゃったどうしよう、ってなりそう。…うーむ。


「…なるほど」

『でもさ、あたしもまた観てみたいな。前みたいにカッコよくFPSで活躍する涼香』

「初配信、すごかったですよね」

『そーそー、まるで別人っていうかさ!無敵感あってねえ。あれで一気にすっごいファンがついたんだもん』


まるで無双ゲーの如く次々と敵を倒していくあの姿。名前の通り刹那的に相手の命を奪っていく神がかったあのプレイングは多くの人を魅了した。


…おそらく、あのアンチコメントにも似た批判をしている人たちはまたあの姿がみたいんだろう。

その見たいという気持ちだけは私にもわかる。


『…あ』

「? どうしたんですか」

『や、確か…あの子の同期から聞いた話なんだけどさ。あの初配信の後から少し元気がなくなったって聞いたことが…』

「あの配信の後に?」

『…あの配信…なんかあったのかな』

「ちょっと見てみます」


――ガタン!あでえっ!?と電話の向こうから激しい音が聞こえた。


「!? ど、どうしたんですかっ!?」

『…あでで、いやごめん、歩き回ってたらクッション踏んでコケた…あはは』

「大丈夫ですか…」

『大丈夫大丈夫、あはは…』


焦ったー。大丈夫そうで良かった。てか、なんで歩き回ってるんだ…。

私は気を取りなおしてセツナさんの初配信のアーカイブをPCで再生。


『あ、そういやこの時の対戦相手ってあれだ、アイドルのYooTubeグループだったね』

「ですね…って咲良ちゃんも観てくれてるんですか」

『うん。一緒に観たほうがなんかわかるかなって』

「ありがとうございます…てか、明日ライブレッスンありますよね、大丈夫ですか?」

『大丈夫!』


結構大きなライブイベントがあって連日忙しい日々を過ごしている咲良ちゃん。絶対にへとへとで大丈夫なはず無いのに…。

忙しいのわかってたからホントはメッセージのやりとりで済まそうと思ってたんだけど。


(…ホントに優しい)


『人気アイドル『ナイトリード』3人組の男性ゲーマーだねえ…この時の彼らのチャット欄は、セツナ達のとこの比じゃないくらい盛り上がってる』

「そっちも観てるんですか!」

『うん、なんかわかるかなーって。かなり熱狂的なファンが多いねえ、ナイトリードさんは…』


熱狂的なファン…。私も携帯でナイトリードさんたちのアーカイブをみた。


…セツナさん達とのゲームが始まる前のチャット欄。負ける可能性を微塵も考えてないような盛り上がり方。

ファンもそうだけど、ナイトリードの3人も盛り上げるためかかなり煽ってるな。


『終盤に行くに連れ、チャット欄の雰囲気は逆転してるね。セツナ達は同接もかなり上がっていってコメントでも盛り上がりをみせている…けど、ナイトリードさん達は同接は減りはしてないけど、ネガティブなコメントが目立ち始めている…』

「…これですかね…涼香さんが変わった原因って」

『うん、おそらくは…。ナイトリードさんとこにいたリスナーがちらほらとセツナ達のチャット欄に現れてネガティブコメントを残してるね…これをみて病んじゃったのかな』

「…」

『ちなみにいうとさ、多分ここにはもう無いけどもっと酷いコメントが書かれてたと思うよ』

「…え」

『ナイトリードさんとこのチャット欄みてればわかるけど、こういう人たちって攻撃する時ってもっと激しいと思うんだ。酷いのは運営が消してるはずだし、涼香はみてないかもだけどね』


…確かにそうだ。ここにあるコメントが全てなわけなかった。

私に美夜お姉ちゃん、ヤミがいるように、セツナさんにも運営がついている。あまりに酷いコメントは消されているに決まっている。


ふと星七に言った言葉が蘇る。


『…んー、いや。今星七がみたコメントは、まだそんなレベルではないと思うから』


…そりゃそうだ。なんで気が付かなかったんだろう。


「こういうのってどうすれば良いんですかね」

『…うーん。基本的にはなくならないからねえ、こういうのって…』

「咲良ちゃんはどうやって乗り越えてきたんですか」

『あたし?…乗り越えれはしないかなぁ。ネガティブコメントみたら普通に悲しくなるし、物によってはかなり引きずるしねえ』

「じゃあ、どうして…」


『夢があるからだよ』


私は胸の奥が疼くのを感じた。


「…夢…」

『そそ。前にも話たでしょ?その夢があるから耐えられてる。そしてそれを応援してくれてるファンとか友達がいるからね』


夢とそれを支えてくれる人…。


『まあ結構それでもぐらつく事は多いけどね。あはは…』

「え、そうなんですか?」

『そりゃそーっすよ。辞めるかなー続けるかなーって、事あるたびに天秤にかけてすっごく悩むよ。今はまだ夢を諦められないし皆といたいって方に傾いているけどさ。いつ逆にいってもおかしくはないかな…ってくらいネガティブなコメントの持つ力は大っきいからね』

「咲良ちゃんでもそうなんだ…」

『いつも明るくてのーてんきに見えるからそーみえないでしょ?』

「あ、いやそーじゃなくって!」

『あはは。ま、暗い顔してたらみんな心配するからさあ。…涼香もきっとそんな感じなんだろーね。ちょっとキャパ超えちゃってるっぽいけども』

「…そうですね」


みんな抱えているものは同じなんだな。勢いがあって絶好調の咲良ちゃん…星河アリサちゃんでもそうやって悩むんだ。

涼香さんもそれが普通で…。いや、だって普通に考えてまだ中学3年生だ。そりゃひどいこと言われれば思い悩むだろ。


『というか、エリスちゃんこそどーなのさ』

「え?」

『あれだけ目立つ活躍してるんだから、誹謗中傷も多いんじゃないのかね?…大丈夫?』

「私はまあ、そういうのには耐性はあるほうなので…」

『おお、そうなの?』

「はい」


…前世で虐められていた時に身についた対処法。防衛本能的なあれが働くのか、それともその手の誹謗中傷に麻痺しちゃってるのか、あまり心が痛まない。

嫌なものから目をそらす癖…っていうのかな。例え目に入ったとしても頭が理解しないように心がつとめようとしている…気がする。


『けどさ。それでも…辛くなったら相談しなね。そういうのって、自分が思っているより心にかかる負荷は重いものだからね』


そういった咲良ちゃんの声はとても柔らかかった。同じ事務所に所属しているわけでもないのに、まるで後輩にかけるような…優しさに満ちた言葉。


「はい!私も愚痴くらいなら聞けますから、咲良ちゃんも遠慮なく!」

『あはは、そっか。それじゃ今度付き合ってもらおっかなぁ』

「ぜひぜひ!」


私は時計を見る。結構時間を使わせてしまった。相談したいことはしたし、そろそろ咲良ちゃんもヤバそうな気がする。


「咲良ちゃん今日はありがとうございました、助かりました」

『なーにいってんの。涼香はひるどきライブの後輩であたしの友達でもあるんだから、そんな礼なんて言われることはないよ。むしろ気にかけてくれてありがとね。うれしいよ。…直接どうこうはあたしにはできないけど、あたしもなんとかしたかったしね』

「…はい」


『あ、そーだそーだ。今度涼香のバイト先一緒にいこーよ』

「いいですけど、さっきも言った通り、涼香先輩は最近バイト休んでて会えませんよ?」

『うん、そうだね。でもあそこのマスターって涼香のおじいちゃんなんだよね』

「…おじいちゃんに話を聞く?」

『そそ。もしかしたら涼香のためにできることみつけられるかもじゃない?』

「確かに、そうですね。行きましょう!」

『じゃ、明日のお昼とかどう?』

「え、ライブレッスンあるんじゃ」

『あ、ライブレッスンあったわ』


「…ぷっ」『ふふ』


※※※


暗い部屋、清水涼香はぼんやりと星空を見あげていた。

カーテンも閉めずに、PCの前に座り、配信の時を待つ。

彼女にとってこの時が一番嫌な時間だった。


何もしていない時はすぐにあれが思い浮かぶ。


無意識に机の引き出しに隠したそれに目がいってしまう。


(…司)


まだ見ることができていない大切な人からの手紙に。



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