第33話


――ふと、流れてきた動画。


たまにある、なんでこのジャンルの動画ながれてくんの?って感じの、あまりみないタイプのやつ。


俺は漫画考察やアニメ主題歌、そしてゲーム関係の動画しかみない。

なのに、何故かアーティストの対談動画が突然あらわれた。


24の若いアーティスト。多くのファンに黄色い声援できゃあきゃあ言われ、もてはやされ、涼し気な顔でキメ顔を晒す。

そこまで顔良くなくね?と、つい思ってしまう。彼はアーティストで、別にアイドルってわけじゃない。だから顔が良くなくてもまあ別に不思議じゃないし、ファンがきゃあきゃあともてはやしているのは、その曲ありきなんだろう。…わかっていても、俺は心の中でそんなひどいことを彼に吐きかけていた。


唾よりも痰よりも、吐瀉物よりも汚いもの。


一度として顔をあわせたこともない、赤の他人なのに、一方的にそんな誹謗中傷を心の中でとは言えしてしまう。簡単に…心のそこから。


そして、心のそこからそんな自分が嫌いだった。すごく嫌な気持ちになる。自分の醜さが浮き彫りになるような、この容姿以上に…酷いそれを目の当たりにする感覚。


「…」


俺は目を背けるように、別動画を探そうとスクロールした。と、しかし…その時…ふと思い出す。

そういえば、この人…あれ、あの漫画の主題歌うたってなかったか?


よくよくみるとそれは対談動画だった。あろうことか名前を見落としていた、タイトルにある好きな漫画の作者。彼の漫画が今度映画化し、そのアーティストが主題歌を手がけたため、その対談動画だった。


同年代の天才二人――。


サムネにあるその言葉に目を引かれる。同年代ということは、あの好きな漫画を描いてる人も27か。


じわり、とまたあれが滲み出てくる。汚い感情が。


(…どうしようもないな、俺は)


それはそう。俺はもうどうしようもない…38年生きていた中で理解はしていた。

動画をタップする。何となく、興味をもったから。


俺よりも遥かに年下で、好きなことで楽しそうに生きている彼ら。なのに、俺よりも多くの才能を持ち、凄い結果を残している。

数々の大ヒット曲…漫画…歌、イラスト…どれかひとつでも、俺にもあれば。これまでの長い38年。なにかひとつをともがいて生きてきた人生、結局どれも手に入らなかった。


彼らと俺の差は、どこにある?


(…才能…環境…だろ?)


同じ人間なんだ、そうに決まっている。じゃなければ、俺は…あまりにも…。


雑談トークの内容を、俺は最後まで見てしまった。けど見終わった後の感想は…正直、見ないほうが良かっただった。


(案外…二人共、普通の人なんだな…)


世界に認められる、天上人のような二人もただの人だった。


町中の不良にビビるような、酒を飲んではっちゃけるような、ちいさな頃はゲームや漫画にのめり込むような、普通の人。

変わらない。基本的なところは俺と何も。

好きなスマホゲームに時間を費やしたり、好きなだけ漫画を読みまくったり。


ふつーの人間だった。


…じゃあ、どこが違っていた?


俺が何ももたないでこの歳まで生きて、彼らは素晴らしいモノを得た…その違いは?


同じ人間なのに、なぜ天と地の差ができたのか。

この間にあるものは一体なんなのか。


まるでわからない…


なんて事はなかった。


ホントはわかってた。


そう、俺はわかっていて…目を逸らし続けていたんだ。


(…継続力…)


才能は確かにあるのかもしれない。けど、おそらく、それ以上にそこにかけた時間…。

対談の中で、眠る時間もなく作業に徹するなんて話もでていた。

何日も何日もかけて、殆ど全ての時間をそれに費やす。


…俺、いままで一度として、そのレベルで何かを続けたことあったか?


無い。飽きるか上手くいかなくて、いつのまにかやめていた。それを才能や環境のせいにしていた。

逃げる理由に使っていた。


『才能のあるやつには勝てない、だって俺は仕事で忙しくて疲れてるし』


(…いや…あの人達のほうが、遥かに疲れてるだろ)


しかもそれでもやり続ける。仕事だからじゃない、好きだから。

あの人達みたいになるには、それくらいの好きをぶつけなきゃダメだった。


…なんとなく、薄々気がついていた、俺がこんな大人になった理由。


なにも無い、からっぽな人間。

仕事へ行き帰ってきて動画をみながらゲームをする毎日。最近はゲームも億劫になり始めていて、疲れたが口癖…。

ダラダラと生きてきた人生。目標は高望みして、届かないと尻込みして、目をそらす。才能があれば時間があれば、環境が、運があれば…なんて、出来ない理由をゴミみたいな毎日から漁って。


(…恥ずかしい…)


そう、恥ずかしい。俺は彼らに嫉妬していた。


(…汚い…醜い…)


汚い。知りもしないのに…いや、本当は知っていたのに、適当な理由をつけて醜い感情を向けていた…自分が。


――惨めだ…俺は、そんな自分を守るために、言い訳して、妄想イメージでクソみたいな理由をでっちあげ、誹謗中傷をしていた。…心のそこから、自分が嫌いだ。だから、嫌いなんだ。


ぼんやりと流されるまま生きてきた。取り返しのつかないこの人生。

38年はあっという間だった。一瞬だった。気がつけばここにたっていて、気がつけばとんでもない差が出来ていた。

38年はとても短く、長い時間だった。まるでゲームが終わるかのように、もうここまできたのかと振り返る。


積み重ねたソシャゲのようだ。昔から努力して、考え、地道にコツコツと強くなった人間に、ぼんやりと適当にプレイしていたプレイヤーは勝てない。


重要なのは、継続力と思考力…。


(…俺はもう終わった人間だ)


頭も悪い、学歴もない、時間も、金も…きっとこの人生は好転することはないだろう。

今は、人生をやり直したい気持ちでいっぱいだ。次があるなら目一杯努力して、全力で頑張りたい。理想の人生を描けるように。

でも、そんなことはできないし、俺はこの人生が全てで暗い未来は先にもうみえている。


(…けど)


好きな事で、何かを残すくらいはしたい。なんでも良い、あの人達に届かないことは分かりきっている。生まれ変わらない限り…いや、生まれ変わったとしても届かないかも。

…けど、それでも…俺も何かを残したい…。

気がつくのが、目を向けるのが遅すぎたけれど、何かで…。


(…なにか、なにかないか…俺にもできる何か…)


何かに憧れた、忘れかけていた熱が灯る。埃まみれの心臓が、どくんと動くのを感じた。久しぶりの感覚だった。


――なにか、ひとつ…俺も残したい。



※※※



配信が終わり、清水先輩から紹介された星河アリサちゃん。

小柄で可愛らしい女の子。身長は150ないくらい。

彼女は清水さんから「この子が私の学校の後輩で、例の…」と説明され、「あー!この子がか!いや急に連れてくんなよ、びっくりしたわ!」と楽しげにやりとりをしていた。


(…こ、このテンポ感…アリサちゃん…の)


え、この人が…ホントに…?


ガチのマジのマジで…?


「――う、う…嘘だ!!!」


「うええっ!?」「!?」


私は思わず叫んでいた。なんで?いや普通に気が動転して…だって、ありえなくないすか?

目の前にあの星河アリサがいるとか…憧れの、ライバーがなんで突然…?

…私、清水先輩にVTuberが好きとか一言もいってないのに、なんで…は?まじでわけわからん!


「あー…手、出して」

「え、え?…あっ、あ!?」


混乱する私の手をアリサちゃんが触れた。ぎゃああああー!?!?いやこの人ニセモンだろーけど心臓の鼓動が高鳴ってやべえええ!!!

お手々ちょっと冷たくてきもちいい!!なんやこの人ほんもんか!?マジでアリサちゃんならやべえぞもう風呂入れねえぞこれ!?洗えねえよ右手!!ニセモンだろーけどさああああ!!!


パシャリと、スマホのシャッター音が聞こえた。そして画面をこちらに見せてくる。

そこには、ピースしたアリサちゃんの手と緊張で縮こまっているのがわかる私の手の写真画像があった。


「手だけだから大丈夫だよね〜…えーと、マネちゃんに確認してもろて。…おっ、よーし。おk」


なにがおkなんじゃ!!ニセモン、ニセモンだったら許さねえぞ!?この胸のドキドキは…どーしてくれんだちくしょう!!本物だったら土下座するけど、ニセモンなんでしょ!?はあはあ…あかん、目が…離せねえ…アリサちゃん(仮)の手から(顔直視できない。恥ずい)…うっ、やば…緊張で吐き気が…。


「ねね、長戸さん。あたしの、星河アリサのSNSフォローしてる?」

「はっ!?…え、あ…え、星河アリサちゃんのはフォローしてますけど…」


びくりと体を震わせた私に「おお」とびっくりする星河アリサちゃん(仮)。

いや名前知られとるがな!!いや、本物じゃないけど!本物なら嬉しすぎてヤバいけど!!


「んじゃ、みてみて」

「ひゃい」

「ひゃいてw面白いな〜長戸さんはwあはっw」


面白いって言われた面白いって言われた面白いって言われた面白いってえええーーーえへ、へへ(照幸)


って、ああっ…あ!?!?


星河アリサちゃんのSNSに投稿された『お友だちが来たっ』という投稿と共に添付された画像。私はそれを見て目を丸くする。あきらかに今、星河アリサちゃん(仮)のとった写真…それが、そこにあった。


「…ヤバい…」

「うん。ね?これで信じ…」

「星河アリサちゃんのSNSが乗っ取られてるうううーー!!?」

「うおい!?なんでだよ!!」

「ちょ!やば、長戸さんまじで面白いんだけど…!」


ツッコミを入れる星河アリサちゃん(仮)と爆笑する清水先輩、そして私は画像を保存して速攻で待ち受けにしていた。無意識に。


あばばばば…(白目)


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