第23話


「うわはー!いい景色ー!」


茜が窓の外を眺め声をあげる。長い国道を美夜お姉ちゃんが運転する車が行く。

以前から計画していた温泉へ車を走らせている最中である。


色鮮やかな金色と紅色に染められた山々が美しい。中でも山が削れ断崖絶壁になっている麓に並ぶ紅葉はまさに絶景で、始めてみる美月ちゃんは言葉を失うほど見入っていた。


黄色と赤のまちまちな町中の木々とは違い、一面の燃えるような彩り。比較的道路付近にある断崖が続くこの道は観光ポイントの中でもかなりの見どころだろう。


その証拠に毎年のことながら、道脇にカメラを持ち撮影に夢中になっている人達がわんさかいる。

場所も場所ながら熊の目撃情報があるので気をつけて欲しいところだが。


「…はい、星ちゃん」

「あ、飴!」


あめちゃんが後部座席から手を伸ばし飴を渡してくれた。ちいさないちごミルク味飴玉。


「おひとつどーぞ」

「ありがと!美味しいやつ!」

「前美味しいって言ってたから」

「そうそう、この飴すっごく美味しい」


車の中の席は運転席に美夜お姉ちゃん、私が助手席で、後部座席は茜、あめちゃん、美月ちゃんという並びだ。

ちな美夜お姉ちゃんの隣が良かったので助手席に乗った。運転上手なので心配は無いけれど、運転してくれてる人のサポートをしたいというのもあったし。


片道約30分。私も運転歴長くてするのは好きだけど、とはいえ運転って結構疲れるからな。


(…まあ目的地まで殆ど一本みちでナビも必要ないからやることもあんま無いけど)


そうしてたどり着いた温泉街。山に囲まれたそこは車であふれていた。おそらく観光客だろう。

旅行バスの並ぶホテルも多数。絶賛行楽シーズンである。


駐車場になんとか車を停め、私たちは外へ出た。


「んんー、きもちいー!」「ね」


背を伸ばす茜と頷く美月ちゃん。


「美夜お姉ちゃん、運転お疲れ様」「お疲れ様です、ありがとうございます」


私とあめちゃんがお姉ちゃんを労うと茜と美月ちゃんも頭を下げた。


「あ、いえいえ。みなさんもご苦労さまでした。写真とりますか?」


ちょいちょいと指差す美夜お姉ちゃん。駐車場を囲むように綺麗な紅葉した木々が立ち並ぶ。


「とる!とりたーい!」


しゅびっ、と両手をあげた茜。元気いっぱいで可愛いな。


そうして記念写真をいくつか撮って回った。少し歩いて撮影ポイントを探したり、遠くの山を背景にしたりして。


(…美夜お姉ちゃん大丈夫かな)


私含め子供四人を連れて回るのはかなり大変だと思う。主に気疲れ的な意味合いで。

比較的私たちは小1とは思えないくらい大人の言う事を聞くおとなしい子供ではあるが、それでもお姉ちゃんには保護者としての責任があるので神経を擦り減らしているはず。


(あれ…)


そう思っていたんだけれど…なんだか楽しそうだ。茜や美月ちゃんの会話をきいて口元を緩ませ眺めている。


(もしかして、美夜お姉ちゃんってもともと子供が好きなのか…?)


「…ね、星ちゃん!」

「お」


とことこと隣に来る美月ちゃん。…あれ、そういえば今日手繋いでないな。


「凄いね!前に星ちゃんが言ってたのわかったよ!ほんとに凄い綺麗だねー!」

「うん、でしょ!まるで別世界だよね!」


美月ちゃんはまだ北海道に来て一年経ってない。今回の温泉にさそったのもこの地の四季折々の景色を満喫させてあげたかったからだ。


「…手、繋ぐ?」

「!」


私は手を差し出す。


「…」


すると美月ちゃんは手を伸ばしとろうとした直前で止まる。


「…大丈夫…!」

「え」


むしろ最近だと美月ちゃんから手をつないできていたのに…なぜ…。

わりとショックを受けていると、美月ちゃんはにこりと笑って空を指差す。


「綺麗だね!」


そこには澄み渡る青空と、ロープウェイが通る紅葉に彩られた山。登山もできるらしい。


「うん、綺麗」


美月ちゃんは無邪気にいう綺麗はあの日月を指さした時のものと一緒だった。

可愛らしく私の心を時めかせる。


けれど、なんだかもやもやとした気持ちにもさせられる。なぜだろう、こんな気持ち…始めてだ。

前世でも味わったことのない、始めての気持ち。


これはいったい何なんだ?


けど…ただ、ひとつ。あの日の美月ちゃんがいっていた気持ちが同じだといった言葉。それが同じものではなかったんじゃないか。このなぞの気持ちは私だけのものなんじゃないか。


手を繋ぐことを拒否された…その時点で気持ちのズレはあった。それは、想いが同じだということが違う証拠だろう。同じなら手を取ってくれたはず。


(…?)


何かに振り回されているようなそんな感覚。


これは、いったいなんなんだろう。


※※※


かぽーん、と湯けむりの中5人温泉に浸かる。


洗いっ子が始まった時は温泉に浸かる前に血の池に浸かるかと思ったが、なんとか乗り越えられた。あと少しで鼻血まみれになるとこだったぜ。


見慣れたとはいえ至近距離にあると避けようがないからな。抱きついてくるし、まじでヤバかったわ。


「…いやあ、いい湯ですなぁ」

「あは、茜ちゃんおじさんぽい」

「ひどっ!あめちゃん、ひどっ!」

「あはは…」

「おおっ!?美月ちゃんめっちゃ笑うじゃん!」


…こええ。反射的に私はおじさんというワードにビビってしまう。こういう不意打ち的に繰り出されると尚の事背筋が凍るような感覚になる。


今の私は女だし子供だし、別に犯罪ではないので焦る必要もないけど。でもいけないことをしているような妙な感覚に陥る…してないけど。


「ねね、星」

「…ん?」

「お?どーした、のぼせたのか?顔赤いけど」

「大丈夫だよ。なに、茜」

「露天風呂いこーぜ!あっちから外出られるみたいだぞ!」


茜が露天風呂へ通じる扉を指差し笑う。風呂場にきたときから露天風呂のことを話していたからな。行きたくてうずうずしていたんだろう。


「いこ、星ちゃん」

「!」


あめちゃんが私の顔をのぞき込む。近い近い近い!


「あ、うん…」


思わずのけぞり不思議そうな顔をされる。小首を傾げるあめちゃん。

ふいに湯船からあがる彼女から慌てて顔を逸らす。


なんというラブコメ!こんな感じのマンガ見たことあるぞ前世で!


羨ましいと読んでいる時は思ったけど、実際に直面するわりと困惑と気まずさでいっぱいいっぱいになってしまう。

そのせいか、美月ちゃんの方になんて少しも目を向けられない。


変に意識してしまってるのか、顔も合わせられないっ。


湯船からあがると茜が隣にくる。にへへといたずらぽい笑顔を浮かべていた。…なんぞ?


不思議に思いながら歩いていると、その時。


「――きゃ!?」


前にいた美月ちゃんがコケた。瞬時に後ろの私が体を支える。けれど、バランスを崩して私も転倒。

隣の茜がそれを阻止しようとして巻き込まれ私の下敷きに。


「ぐえっ!?」

「あわっ、わ…わああっ!?」


そこへあめちゃんも折り重なるように私に抱きついてきた。おそらく彼女も助けようとしてくれたのだろう。私の手首をつかみバランスを崩したっぽい。


倒れ込み身動きがとれない。かろうじて目を開けるとそこには美夜お姉ちゃんがいた。しゃがみこみ私の顔をのぞき込む。


「大丈夫!?」


…ちょ、ま…。


「ちょ、星!?白目剥いて…!!」


ある種の絶景に私は死んだ。


※※※


「…はっ」


気がつくと休憩室に私はいた。扇風機の風をあてられ、美夜お姉ちゃんの膝枕で横になっていた。

いつの間にか服を着せられ、畳の上に横たわっている私。


「星、大丈夫?」

「…あれ、私…」


とてててと茜とあめちゃん美月ちゃんが寄ってきた。


「大丈夫?星ちゃん…」

「おい、まじで大丈夫か?」

「…」


心配そうにしているあめちゃんと茜。そして美月ちゃんは心配を通り越し深刻そうな顔で申し訳なさそうにしていた。


「ごめんなさい、星ちゃん」


ぺこりと頭をさげる美月ちゃん。私は慌てて起き上がり手を振る。


「大丈夫だよ!ぜーんぜん、大丈夫!何ともない!」

「…」

「それよりみんなは?一緒に転んだよね?大丈夫?」

「うちはあんくらいでやられんし。ふふん」

「なんというマウント…あめちゃんは?」

「ん、大丈夫だよ。星ちゃんの腕であたまぶつけないですんだから…ありがと」

「あ、そうなんだ。ん、てか私も茜に助けてもらってなかった?」

「え、あー、まあ。…失敗したけども」

「でもありがと、茜。嬉しかった!」

「お、おう…へへ」


可愛いかよ。鼻の下を擦り照れる茜。そこはマウント取らないんだ。


「美月ちゃんもなんともなさそうだね」

「…う、うん、何ともないよ。ありがとう、星ちゃん!」


ぎゅ、と両拳を握りしめる。…やっぱり、なんか様子がおかしい。

数日前に一緒に帰った時から、か?


いや、そういえば…よくよく思い出せば予兆みたいなのがあった気がする。


「星、アイス食べるよ」


美夜お姉ちゃんがにこり微笑む。


「みんな星が起きるまで待ってたの。一緒に食べたいって」

「みんな…」


にへへ、と笑う茜あめちゃん。そしてこくこくと頷く美月ちゃん。

視界がぼやける。やべ、やべ。


…こういうの弱いんだよな…おっさんの感性を引き継いでるからってのもあるけど。ほら、年取ると涙もろいみたいなやつ。


でも、それ以上に過去の経験が影響していると思う。いつも孤独で、学校や会社でも爪弾きのような扱いで…グループの外から一人その楽しげな様子をみていた俺には染みる。

こうして本当に心から心配してくれることも、待っててくれることも無かったから…。


(…そうか)


私はふと気がつく、自分の根源にあるそれに。


(だから…)


冷めていた熱。それの在り処がわかったような気がした。

私のモチベーションが低かったのは、満たされていたからだ。


こうしてあの頃の記憶が戻らない限り、あの熱は蘇らない。

前世の記憶が蘇ったあの時は、強くこびりついていたから原動力として自然に動いていたけど。

でも、時が経ちこうして幸せな時間に浸っていることであの暗い気持ちが薄れ初めてしまったんだ。


いうなれば復讐心のようなものだったんだ。


見下され、蔑まされ、酷い人生を終えた。それを覆したくて、見返したくて…憧れたVTuberの世界で成功したかった。

けど、その熱はもう下火になってしまった。


裕福な家、私を理解してくれる美夜お姉ちゃん、ライバルとして切磋琢磨してくれる茜、居心地のいい空気感のあめちゃん、そしてまるで姉妹…とは違うかもしれないけれど、それに近しいくらい親しい存在の美月ちゃん。


そうだ、私はもう満たされている。だから、欲が無くなっていたんだ…いつの間にか。


…なんだか、さみしいな。


けど、少しすっきりもした。


気持ちに整理がついたからかな。


私はアイスを舐めながら、友達と笑う。


※※※


外はすっかり暗くなった。ライトをつけ、車を走らせる美夜お姉ちゃん。

後部座席では疲れて眠る茜あめちゃん美月ちゃん。


時折街頭で照らされるすやすや顔。真ん中のあめちゃんの肩に茜と美月ちゃんが頭を預け眠っている。


(…なまらめんこい)


「…少し寄り道しよっか」

「え?」


美夜お姉ちゃんがいった。


「寄り道って…どこに?」

「朝日ヶ丘」


朝日ヶ丘。神河町の少し外れの山奥にある場所で、レストランやキャンプできるログハウスのあるところ。

もう時間も遅いから今はやってないけど、フラワーガーデンやお土産屋さんもある。


「朝日ヶ丘…そっか。久しぶりだね」

「コンビニで温かい飲み物でも買って、夜空の星を眺めよっか」

「おお、うん!眺めたい!」

「ふふ」


とはいえ、雲が薄っすらと漂う空。ところどころ星々にかかり、そこまで良い景色は見られそうにもない。

…けど、まあこういうのは誰と見るかだからな。みんなと見ることが重要で、例えそこそこの星空でも良い思い出になる。


ほどなくしてコンビニへと到着。美月ちゃんがいつのまにか起きていた。


「これから星みにいくんだって」

「星…?どこに?」

「えっとね。朝日ヶ丘って言って、町の近くにある…」


珈琲や紅茶、緑茶を5人分買って戻ってきた美夜お姉ちゃん。私と美月ちゃんがお話しつつ目的地へと車を走らせる。

3人の親御さんにはコンビニに寄った時に美夜お姉ちゃんが連絡済だ。


灯りが少ない山奥。街頭も数が減り、そのせいか段々と空の明かりが際立ってくる。

町中とは違うスターライト。雲の帯の隙間から、時折降り注いでくるかのような星々の輝き。それを車の中からジッと空を眺める美月ちゃん。


月が薄っすらと白く、星に囲まれそこにあった。私は溶け込むような雪のような白さに、肌寒さを感じた。


…今年は雪はいつ降るのだろう…。


思わず過ぎるタイヤ交換はいつしようか、という思考。染みついて取れない記憶の更に深いところにあるもの。生活する中で度々蘇り、すぐに溶けて消える。

まるで雪のように、定期的に現れて忘れ去られるもの。


…この虚無感もすぐにそうなるさ。ぽっかりと空いた何かがあった部分。冷めた熱。

それもいつか懐かしむようになる。


だから寂しいと思うのは今だけ。これが普通になるはず。


「ついたよ、星、美月さん」


車が駐車場へとつく。私たち以外の車は無かった。静かな丘。飲み物を手に取り車から出る私と美月ちゃん、美夜お姉ちゃん。

茜とあめちゃんはぐっすり深い眠りに落ちていて、起きなかった。美夜お姉ちゃんは車付近で私たちに目をやりつつ珈琲をあおる。


私と美月ちゃんは少し前の方に歩いて行き、雲に隠された星をより近くでみようとしていた。

隣同士、少し手を伸ばせば触れられる距離。だけど、やはり繋がる気配は無かった。


その時気がついた。ぽっかりと空いているのはこれか…と。いや、これが全てではないけれど。

でも、はっきりと明確に自覚できたのはこれだ。


なんだか寂しい気持ちで、でもそれを顔には出さずに。

私は美月ちゃんの隣で月をみあげた。美しい、けれど今は薄く雲に隠されている白い月を。


「…んっ…」


気がつけば美月ちゃんが飲み物のキャップを外そうとしていた。上手くあけられず一生懸命に捻る。

そういえば、私がいる時はいつも開けてあげていたっけ。

最初はみかねた私があげたげよっか?って手を差し出していた。


(…また断られるかな)


ふいに手を繋ぐのを断られたシーンが過ぎる。けれど、私は首を横に振る。

いや、あれとこれとは違う。これは明らかに困ってて助けが必要な事でしょ。


「…あけよっか?」

「!」


一瞬動きが止まり、私と目が合う。そして彼女の眉は八の字になった。…逆に、困らせたのか。


「お願い、します…」

「!」


差し出すちいさなペットボトル。温かい。

私はそれを受け取りキャップを難なく開ける。

ふわりと漂うレモンの香り。


空いたレモンティーを手渡し、「ありがとう」と礼を言われた。けれどそのお礼はどこか暗く、重々しかった。


「困ってたらいつでも言ってね」


自然に出た言葉。いつも言ってた言葉。美月ちゃんのいつもの返事は「ありがとう」…なのに、今は無言で俯く。難しい顔で、レモンティーに唇をあてた。

でも、飲むわけではなくただ、あてただけだ。

なぜならペットボトルの位置は動かず、したにあるまま。


…気まずい…のかな。


「…やっぱり、凄いね星ちゃんて…」

「え」


唐突な予想外の言葉に間の抜けた声がでた。


「どうしたの急に」

「…や、なんでもできるし…凄いなって思って」

「なんでもはできないけど」

「でも私より何でもできる」

「そうかな…でも、歌は美月ちゃんの方が上手いけど」

「…」


口をもにゅもにゅさせ俯く美月ちゃん。照れてやがる。へへ、可愛い奴め。

…しかし、この話の流れは一体…?


嫉妬してる、とか?いや、違う。美月ちゃんからはそんな雰囲気は感じない。


「でも、星ちゃんは私より色んな物を持ってる」

「!」

「たくさん、いっぱい…素敵なきらきらした才能を。だから、エリスちゃんをたくさんの人が応援して、たくさんの人から愛されてるんだと思うの」

「…うん」

「これからもっともっと星ちゃんはエリスちゃんは輝くんだと思う。あの日、見せてくれた歌の配信…星ちゃんはすっごくきらきらして眩しかったんだ…だから、私…」


手に持っている紅茶が温かいからだろうか。手にじわり熱を感じた。

目を輝かせて話す美月ちゃん。…もしかして実は嫌われてるかもしれない…という一抹の不安が消えていく。


そんなわけは無いとわかってはいるけど、でも最近の彼女の態度や雰囲気はそう思えてしまうくらいの変化だった。


「…良かった…嫌われてたわけじゃくて」


だから、ぽろっと言葉になってこぼれた。ホッとした気持ちと嬉しいという浮ついた気持ちで心が緩んだのか、口をついてそれが出た。


「…え?」


きょとんとする美月ちゃん。鳩が豆鉄砲をくらったような顔で私をみていた。


「あ、いや…違くて!」


なにも違わない。言い訳なんてできないまでにはっきりと口にしていた。だから観念して、私は説明をする。

久しぶりだ…こんなに言いづらい気持ちになるのは。

仕事のミスを報告するような、あれに似ている。


「や、なんていうか…さ、最近…手、繋いでくれないし…さ」

「…あ」

「今も…困ってたらいつでも言ってっていったら、困ったような顔してたから…嫌なのかなって」


おいおいおい、やめろ。声震えてるし。恥い!

情けない姿晒すな!


「そんなことない!私、星ちゃんを嫌いになんて絶対にならない!!」

「!?」


物すごい勢いで言い迫られた。顔近い近い近い近い。


「…でも、そっか…そうだよね…ごめん、勘違いさせたよね」

「勘違い?」

「…私ね、もうあまり星ちゃんに頼らないようにしなきゃって思ってて」

「え」

「あ、でも違うの!嫌いだから、じゃなくて…いつまでも頼りっぱなしはよくないって思ったからで!」


えっとえっと、と言葉を脳内で編んでいる美月ちゃん。わたわたとしている様子が反則的に可愛い。


「…星ちゃんの、迷惑になりたくなかったの」

「迷惑…?」

「うん。…私、星ちゃんになんでもかんでも頼り過ぎてたから…だから」

「私は迷惑だなんて思ってないよ」

「…でも、星ちゃんは私に構っている時間が多いでしょ…」

「それは私がしたいからしてるだけで、時間だって私の望んだとおりに使ってるだけ」

「…」


…そうか、だから。美月ちゃんは私の負担になりたくなくて。

でも、どうしてだ?なぜそう思うようになった?


「…私ね…あ、星ちゃんが大好きなんだ」


…え?


「さっきも言ったけど、あの日みせて貰ったエリスちゃんの配信。とってもキラキラしてて、眩しくて、凄いって思った。星ちゃんがVTuberを好きになる気持ちがわかったし伝わってきた。熱く温かい想いが。それが、まるで本物の星みたいに、暗い気持ちの私を照らしてくれたんだ」


まぶたを閉じ、思い出すように…その熱が愛おしそうにペットボトルを両手で包む美月ちゃん。

白い吐息がふわりふわりと躍る。


「…けど、ね。…最近の星ちゃんはあまりそれを感じなくて…」

「…」

「私のことばかりに気を使わせてるからかなって」

「それは…」


…いや、それは…そうかもしれない。


思えば最近の私は…いや、あの歌枠から美月ちゃんのことばかり考えていた。

配信をするにしても、他のなにがあるにしても、美月ちゃんのことをまず念頭に置いていた気がする。


(…あ…そっか…)


私、美月ちゃんの事ばかりであたまがいっぱいになっていたんだ。


そして理解した。あの日の答え、その理由を。


私が美月ちゃんを命がけで守ったのは、好きだからなんだ。

恋人とか家族とか、もしかしたら子供…そう言う存在と同等に好きになっていた。…いや、もしかしたらそれらよりも深いのかもしれない。

なぜか自分と近く感じる彼女に、自分が思うよりも大きな愛情が芽生えている。


さっき美月ちゃんが好きといってくれた言葉で理解した。

あの言葉はいま私が感じているこれと同じだ。

なぜかはわからないけど、でも…不思議なほど間違いないと思える。


(…でも、なら…別にいいんじゃないか?付きっきりでも、大切な人の側にいられれば…)


私がそう言おうとした時、美月ちゃんがにこりと笑った。

ぼんやりと月明かりに濡れた、きらきらした美月ちゃんの表情に私は出かけた言葉が止まる。


「私には、あの日夢ができました」

「…夢」

「そう、夢。憧れたんだ、ある人に」

「…」

「その人は私と同じ歳で、でもなんとVTuberをしてるすっごい人だったの。たくさんの人達に囲まれて、たくさんの応援をいただいて、すっごい上手い歌でみんなを幸せな気持ちで照らしていた…そんな、眩しい星のような彼女に私は憧れたの」


すっ…と流れ落ちる空の星。美月ちゃんはそれを指でさしなぞった。

いつのまにか晴れた夜空。雲一つなくなったそこには満天の星空が広がっていた。


キラキラとした輝きで美月ちゃんの瞳が輝く。


「あの日、あなたの光が私の心に焼き付いて離れない。あの星の輝きがあれば…私はどんなに暗い夜でも追いかける事ができる」


「夢って、なに」


「VTuberで、エリスちゃんのように輝く事…歌をうたうこと。星のようにたくさんの人を照らして、元気や勇気をわけてあげて…誰かを幸せにしたいの。俯いている私みたいな子を、今度は私が顔をあげさせたい」


(…あ)


それは私がVTuberに憧れ目指した理由と同じだった。


思い出した。ぽっかりと空いた何かを…そうだ、私は俺のような人のあかりになりたくてVTuberに憧れたんだ。

日々、失敗を繰り返し不器用に生きている人。不遇な境遇に生まれ苦しんでいる人。たくさんの人を照らせるような、そんな存在に…そして、少しでもみんなの生きる力になれたらって。


「…星ちゃんは私の憧れで夢。だから、私に構っている時間なんてない…もっともっと、大きな星明かりになって。私の希望に、目標に…私がもし諦めてしまいそうになっても、目を引く…惹きつけるような眩しいあの星のように!」


私をみて変わったんだ。私のあかりが、美月ちゃんを…。


『…ほんと、お前みたいな使えないやつ。なんの為に生まれてきたんだろうな』


――私が…生まれた意味。


私は顔をあげた。キラキラと輝いている星々。それはもう今は無い星の輝き。でも、あの熱は確かに私の中に受け継がれていた。


もう消えそうになっていた。人はどれだけ大切な記憶も時間と共に薄れ、沈んでいく。

深い闇の中で熱を失い、光が消えそうになっていた…俺の想い。希望。


それを美月ちゃんが照らし浮かび上がらせてくれた。柔らかな月明かりで、また私の中にあったそれが輝きを取り戻し始めた。


「…私、なるよ」


私も空へ指をさす。ちかちかと光る星々に。


「美月ちゃんの心に、いつまでも灯るあかりに」


熱い…胸の奥が、魂が燃えているかのようだ。私は誰かの希望の星になる。


「――最強のVTuberに、なってやる」


瞳に消えないあかりが焼き付いた。


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