【閲覧注意】K村呪殺記録:失踪したドキュメンタリー班

@tamacco

プロローグ:廃墟に遺された三脚と、封印された記録ファイル

記録体裁


ファイル名:K_R001_Prolog


カテゴリ:警察捜査報告書(抜粋)/編集者注釈


対象事案:令和六年九月、テレビ番組制作会社「ストレイ・ライト・プロダクション」スタッフ三名の失踪事案。


警察捜査報告書 抜粋(所轄:R県警 地方課)


1.発見時の状況


令和六年九月十八日、R県K町、廃村K集落における捜索活動中、制作会社ストレイ・ライト・プロダクション(以下、SLP)が使用していたと推定される廃屋から、以下の物品が発見された。


デジタルビデオカメラ一台(製造元:S社。バッテリー残量23%。レンズキャップが装着された状態。内部ストレージにデータファイルが存在。)


業務用音声レコーダー一台(製造元:Z社。電源オフ。内部ストレージにデータファイルが存在。)


ディレクターズノート一冊(署名:A。日付は九月三日から九月十二日まで。後半の数ページは破り取られているか、意図的に汚損されている可能性あり。)


アルミ製三脚一本(地面に突き刺さるように固定されていた。カメラは三脚から外れていた。)


スタッフの私物(衣服、食料残渣など。特筆すべきは、使用済みマッチ箱と、携帯電話三台のバッテリーが抜かれた状態でまとめて置かれていた点。)


失踪したSLPスタッフ三名、ディレクターA(男、30代)、カメラマンB(男、20代)、音声C(女、20代)の身体的痕跡は一切発見されなかった。車両はK集落入口手前の林道で施錠された状態で発見されている。


2.証拠品の分析(特記事項)


回収されたデジタルビデオカメラ(以下、カメラ)の内部ストレージには、日付順に整理された複数の映像ファイルが存在した。


ファイル総数:74ファイル


総撮影時間:約12時間45分(うち、5時間40分はノイズや暗闇、または意図不明の環境音のみ)


ファイル名規則:K_Day[日付]_Rec[連番].mp4


これら映像ファイルのうち、最後のファイル、K_Day12_Rec08.mp4は、ファイルサイズが極端に大きく、通常の再生ソフトではエラーを吐き出すか、極めて不安定な挙動を示した。専門機関によるデータ復旧作業の結果、約二時間の断片的な映像と、それに付随する不可解な音声データが検出されたが、その内容は捜査上の理由により非公開とされた。


音声レコーダーのデータも同様に、大部分が環境音と会話記録であったが、九月十日以降のファイルには、人間には聞き取れない高周波のノイズが断続的に混入していることが確認された。


ディレクターズノートには、取材の進捗と、スタッフ間の心理的変化、そしてK村の歴史に関する記述が認められた。特筆すべきは、九月十日のページに乱雑な筆跡で以下のメモが走り書きされていたことである。


「撮れた。撮ってしまった。まさか本当に...これは検証じゃない。記録だ。呪いの記録だ。」


「ノイズは、彼らの警告か、それとも…引きずり込まれる。BとCの目が違う。彼らは、もうここにいない。」


警察は当初、カルト宗教団体の関与、または事件性を疑ったが、現場状況から**「何らかの集団自殺、あるいは事故の可能性」**として捜査を終結させた。しかし、遺族やSLP関係者からは、この結論に強い不服が表明された。


編集者注釈(本書の目的と構成)


これは、上記捜査で回収された「封印された記録」を、情報公開法に基づき部分的に開示させ、更に情報源不明のリークファイルと照合し、一つの記録として再構成する試みである。


本記録の読者(あなた)は、失踪したドキュメンタリー班の第三の目撃者となる。彼らがK村で何を目撃し、なぜ姿を消したのか。その真実を、断片的なファイル群から読み解いていただきたい。


以下のテキストは、ディレクターズノートの記述、音声記録の文字起こし、そして映像ファイルのタイムコードに沿って、再構成されたものである。


記録開始:九月三日(取材初日)


場所:R県K町、K集落入口


記録:ディレクターズノート(九月三日付)


「ようやく辿り着いた。インターネットで《神隠し村》として半ば伝説化しているK村。県道から外れて三十分、舗装されていない林道の奥にその集落はあった。既に廃墟というより森の一部といった趣だ。


メンバーは三名。ディレクター兼リサーチャーの俺(A)、カメラはB、音声はC。オカルト専門チャンネル『アンノウン・フロンティア』の特別企画『現代怪異を追え』シリーズの第一弾として、気合が入っている。


K村について改めて整理する。この村は戦前から過疎化が進み、決定的なきっかけは昭和三十年代に起こった《連続行方不明事件》。五年間に七人が忽然と姿を消した。遺体は見つからず、捜索も打ち切り。村は事件後すぐに廃村となり、以降、誰も住んでいない。


最近になって、この集落の廃屋を訪れた肝試しグループや探検家が、**『村に入ると時間が歪む』『帰りの車でナビが村の座標を指し続けた』**といった奇妙な体験談をネット上に投稿し始めた。そして、去年と今年、二件の神隠しめいた失踪が発生している。これが今回の取材の核心だ。


Bは少しナーバスになっている。廃墟特有の雰囲気に飲まれているようだ。Cは相変わらず冷静で、早速レコーダーのチェックを始めた。


初日は設営と村の概観撮影。この廃屋をベースキャンプにする。村の中心にあるはずの『神社』が見当たらない。地図上にあるはずなのに。これは明日以降の調査対象だ。


初日のカメラ記録は順調。Bは良い映像を撮っている。彼には才能がある。Cの音声チェックも異常なし。


今のところ、ただの荒れた廃村。だが、この静寂が、まるで何かを隠しているようだ。」


記録:K_Day03_Rec05.mp4(映像ファイルより文字起こし)


日時:九月三日 16:35


場所:ベースキャンプ廃屋前


登場人物:A(ディレクター)、B(カメラマン)、C(音声)


(映像:Bがカメラをセットし、Aが村の概観を説明している。Cは廃屋の軒下で音響機器をチェックしている。)


A:えー、カメラ回ってる? OK。じゃあ、今日の総括ね。ざっと見て回ったけど、このK集落、ネットで言われてるほど荒れてはいないな。生活感は完全に消えてるけど、建物自体は朽ちているというより、時間が止まってるって感じだ。


B:(小声で)…ディレクター。さっきからなんですけど、鳥の鳴き声とか、虫の音が一切しないんですよね。録音できてます?


C:大丈夫、マイクは生きてる。ノイズもゼロ。むしろ静かすぎて、自分の心臓の音まで拾いそうなクリアさ。普通、こういう山奥の廃村だと、風の音とか遠くの川の音がするはずなのに。


A:気のせいだろ。ほら、C。お前の得意な『環境音の異常な静寂』ってやつか?(笑って)


C:笑い事じゃないです。自然の音がないのは、逆に不自然ですよ。誰かが意図的に環境を操作してるか、あるいは――(言葉を選ぶ)――この場所が、周囲の生態系から切り離されているか。


A:いい切り口だ、C。それ、企画書に使おう。切り離された村、ね。


B:ディレクター。あの…カメラを回す方向をちょっと動かしたいんですけど。


A:どうした?


B:さっきから、あの森の奥の暗がりが気になって。


(映像:カメラがゆっくりと、廃屋から数十メートル離れた鬱蒼とした森の入り口を映す。木々が密集し、昼間にも関わらず、深い闇が口を開けているように見える。)


A:あそこか。地図だと、あそこは集落の外れ、山の斜面だな。何か見えたのか?


B:いえ、何も。ただ、さっき、一瞬だけ、誰かが立っているような気がしたんです。人じゃなくて、もっと、何というか、**「塊」**のような。すぐ消えましたけど。


A:……(沈黙)B。お前、疲れてるんじゃないか? 今日はここまでだ。機材を片付けて、明日の打ち合わせをしよう。無理はするな。


B:はい。すみません。


(映像:AがBの肩を叩き、Cが機材を片付け始める。映像の隅に、Aが森の暗がりを一瞥する様子が映る。)


記録:K_Day04_Rec01.mp4(映像ファイルより文字起こし)


日時:九月四日 09:30


場所:K集落中心部、古い石造りの水槽前


登場人物:A、B、C


A:二日目。今日は村の中心部を探索する。目星をつけていた『神社』の場所を最優先。


(映像:三人が草木に覆われた集落内を歩く。廃屋の壁には、子供の落書きのようなものが残っている。)


A:これ、何だろう。落書きにしては古すぎるし、ただの模様か?


(映像:カメラが壁の模様をアップで捉える。それは単純な円と線で構成された記号のようだが、円の中に小さな点があり、まるで目玉のようにも見える。)


C:落書きというより、魔除けとか、何かを封じるための記号に見えますね。古い時代のもの。


B:この村で《呪殺》の風習があったっていうのが、単なる噂じゃないってことですか。


A:可能性はある。ノートにも記録しておこう。さて、問題の神社だが。


(映像:地図上で神社があったはずの場所を映す。そこには、小さな広場があるだけで、社の痕跡すら見当たらない。地面には苔が生し、中央には朽ちた井戸のようなものがある。)


A:おかしい。地図上ではここがK集落の心臓部、鎮守の森だ。社殿の一つや二つ、跡形くらい残ってていいはずだ。


C:地面が不自然ですね。他の廃屋の周りより、苔の生え方が均一すぎる。まるで、全てを飲み込んで、平らにならしたみたいに。


B:井戸…ですかね。蓋がしてあるけど。


A:ちょっと近づいてみる。B、カメラ回しながらゆっくりな。(Aが井戸に近づく。井戸は重い石板で厳重に塞がれている。)


A:石板で完全に封印されている。これ、大人が一人じゃ動かせない重さだぞ。しかも、石板の周り、粘土みたいなものでコーティングされてる。まるで、井戸ではなく、何かを埋めた場所みたいだ。


(映像:Aが石板の側面に手を触れた瞬間、Cの音声レコーダーが**「ブツッ」**という小さなノイズを拾う。Aは何も気づいていない様子。)


A:これが、連続失踪事件と関係があるのか? 神隠しの《入り口》が、この井戸の底だった、とか。


C:ディレクター、一旦離れましょう。今、マイクが妙な音を拾いました。解析が必要です。


A:ノイズか? …チッ、こんな山奥だ。無線でも飛んだか。分かった。撤収。


(映像:三人が井戸から離れる。カメラがパンする際、一瞬、石板の影になった部分に、わずかに湿ったような新しい痕跡が映り込む。それは、人が屈んで作業をした後のような、微かな地面の乱れだった。)


編集者注釈


九月四日の記録には、この「井戸」に関する記述が頻繁に登場する。ディレクターAはこの場所を「中心地」と呼び、この井戸こそが村の秘密を封印していると考えていたようだ。


また、この映像の後に続く音声記録(K_Day04_Audio02.wav)には、音声Cが拾ったノイズの詳細が記録されている。


Cの報告: 「検出されたノイズは、通常の電磁波ノイズや風切り音ではありません。周波数帯域は極めて狭く、人間の可聴域をわずかに外れた高周波。しかし、その波形はランダムではなく、まるで誰かの呼吸、あるいは呻き声のような、周期的なパターンを示しています。」


この解析結果は、ディレクターAには伝えられたが、「ただの機器の故障だ」として一蹴されている。しかし、この瞬間から、三人の間に最初の亀裂が入り始めたことが、後の記録から読み取れる。


(以下、九月五日、村唯一の住人との接触記録へと続く。)

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