Episode 05:儀式の痕跡
【導入:影からの脱出と次の標的】
(BGM:激しいノイズ音から一転、静寂と、クルーの走る足音。)
ナレーション(タクヤ):
前回の検証で、我々VERITASクルーは、失踪したカメラマン、タカシの残した廃屋で、全身が黒く湿った「影」による攻撃を受けた。その影は、我々と同じ赤外線カメラの光を宿し、我々を撮影していた。
(映像:集会所から外に出たクルー。息を切らし、互いの無事を確認する。)
ケンジ:
あれは…何だったんですか?ただの幻覚じゃない。確実に、俺たちを狙っていた。カメラが熱を持っています。
サクラ:
あの影が、超低周波ノイズの最高潮で現れたことを確認しました。あれは村のノイズが生み出した、あるいはノイズによって現実の存在に変質した、**「もう一人の撮影者」**の残滓です。
タクヤ:
タカシの日記にあった通り、儀式は我々の「役割」を求めている。ディレクター、リサーチャー、カメラマン。そして、タカシのクルーから破り取られていた「空白」の役割。
ナレーション(タクヤ):
このまま村の中心部に留まれば、我々は「数」を揃えるための餌食となる。我々が唯一できることは、この儀式の中心、そしてノイズの発生源を突き止め、その構造を記録すること。村の古文書に記された、男たちが年に一度入るという禁断の場所、「奥入り」の祠へと向かう。
【パート1:奥入りの道と精神の摩耗】
(映像:山道を登るクルー。道は獣道のように細く、周りの木々が異様に密集している。)
サクラ:
奥入り口の祠へ向かうこの道は、村の地図にも記されていない、人工的に隠された道のようです。ELF-Micの反応が、村の中心部にいた時よりも更に強まっています。
(画面に、ELF-Micが捉えた波形が表示される。波形の緩やかなサインカーブが、前回よりもさらに巨大で、規則的になっている。)
サクラ:
ノイズの波長が長くなっています。これは、もはや単なる環境音ではありません。この山全体が、巨大な音響装置として機能している。
ケンジ:
なんだか、頭の中に水が溜まっているような感覚がします。視界が歪む。さっきから、ファインダー越しに、誰もいないはずの茂みの中に、赤い光点がチカチカと点滅しているのが見えるんです。
タクヤ:
それはノイズによる平衡感覚の異常だ。ケンジ、カメラを向けるな。我々が見ているものが、必ずしも真実ではない。
ナレーション(タクヤ):
ノイズは、我々の聴覚や視覚だけでなく、精神そのものを蝕み始めていた。この山奥に座す「闇の奥に座す神(クラオキノカミ)」が、儀式の舞台である祠に近づく者を、音によって歓迎しているかのようだ。
【パート2:祠の発見と祭壇の構造】
(映像:クルーが苔むした石造りの祠を発見する。祠の周囲だけ、木々が円形に枯れ、空間が異様に明るい。)
タクヤ:
ここだ。「奥入り」の祠。ヤマモト氏の証言と、村の古地図の断片から推定される、儀式の中心地。
(祠の内部へ。内部には、素朴な石造りの祭壇があり、中央には黒く焦げたような円形の石が置かれている。)
サクラ:
これは…祭壇そのものが、ノイズの発生源です。中央の黒い石は、電波や音波を吸収し、反響させる特殊な鉱物でできているようです。
(サクラが祭壇に近づき、小型のレーザースキャナーで形状を測定する。)
サクラ:
祭壇の周囲には、12個の窪みがあります。全て、人の足跡の形をしています。そして、窪みの内側には、かすかに「ニエ・ヲ・マ・コ・ト・ス」の文字列が刻まれている。
ナレーション(タクヤ):
10年前に失踪した12人が、この祭壇の上に立ち、低周波ノイズによって意識を奪われ、儀式が執行された。この窪みこそが、「贄」の数を揃えるための、物理的なステージだった。
【パート3:過去の記録と「七人目の贄」】
(映像:タクヤが祭壇の横の石壁の隙間に、古びたロール紙が挟まっているのを見つける。)
タクヤ:
これを見てくれ。これはタカシの日記とは別の、10年前の取材クルーが持ち込んだ、撮影記録のロールだ。
(ロール紙を広げると、そこには彼らが失踪するまでの詳細な撮影スケジュールと、クルーの役割分担が手書きで記されていた。)
サクラ:
(読み上げ)ディレクター(トモナガ)、リサーチャー(ユキ)、カメラマン(タカシ)…やはり6名分の役割しかない。
タクヤ:
いや、よく見ろ、サクラ。最下段、空欄になった役割の横に、小さく文字が付け足されている。
(画面にロール紙のクローズアップ。)
サクラ(震える声で):
…「プロデューサー(ミズキ) - 外界との繋がりを、切る者」。
ナレーション(タクヤ):
プロデューサー、ミズキ。彼こそが、タカシのクルーの写真から破り取られ、存在を曖昧にされていた「七人目の存在」だ。そして、彼の役割は、村人ではなく、自らのクルーを儀式へと導く「外界との繋がりを断つ者」だった。
ケンジ:
ミズキ…つまり、儀式は当初、村人6名と取材クルー6名、そして**「外界の繋がりを断つ者」の合計13名**を必要としていたんじゃないのか?
タクヤ:
そうだ。そして、そのミズキの存在が曖昧にされたことで、儀式の「数」に空白が生じた。タカシの日記にあった「空白」とは、この七人目の役割、プロデューサーの役割を指していたんだ。
【パート4:プロデューサーの役割と「空白の補填」】
(サクラが祭壇の窪みを指さす。)
サクラ:
祭壇にある窪みは12個です。12名の贄。つまり、プロデューサーのミズキは、贄ではなく、この儀式を執行し、その後に自らの存在を記録から抹消する役割を持っていた。
(サクラが自身のタブレットを取り出す。そこには、現在のVERITASクルーの役割が記されている。)
サクラ:
我々VERITASクルーは、タクヤさん(ディレクター)、ケンジさん(カメラマン)、そして私(リサーチャー)の3人。我々のクルーは、常にこの3人でした。我々のクルー編成には、プロデューサーはいません。
タクヤ:
つまり、この村が求めている「空白」とは、儀式の鍵を握る「プロデューサー」の役割。我々のクルーにはその役割がないため、村が、この3人の中から最も適した者を「空白」にしようとしている。
(その瞬間、祭壇の黒い石が、低く「ゴウ」という音を立てて振動し始める。ELF-Micの波形が狂ったように揺れる。)
ケンジ:
ノイズが、まるで俺たちのいる場所だけをピンポイントで叩いている!
ナレーション(タクヤ):
それは、祭壇が「外界の者」を感知し、儀式の「空白」を埋めようと、強制的に働きかけている証拠だ。
【パート5:引き継がれる役割】
(映像:祠の入り口の暗闇から、何かがゆっくりと、こちらへ忍び寄ってくる影が映る。しかし、カメラのファインダー越しにしか捉えられない。)
タクヤ:
退避するぞ!この場所は危険だ!
(クルーが祠から出ようとした瞬間、祠の入り口に、さきほどの黒い影が立つ。その影の手に、かすかに現代のデジタルカメラのようなものが握られているのが見える。)
ケンジ:
(カメラを構えたまま硬直する)あれは…俺たちの「もう一人の撮影者」!
(影がサクラに向かって、ゆっくりと手を差し伸べる。同時に、サクラの頭の中で、ミズキの記録にあった「外界との繋がりを、切る者」という言葉が、ノイズと共に響き渡る。)
サクラ:
(頭を抱え、後ずさりながら)駄目…私はリサーチャーよ!私は記録しなきゃいけない!
ナレーション(タクヤ):
影は、最も論理的で冷静沈着なリサーチャー、サクラに、外界の者との繋がりを断ち、儀式を執行する「プロデューサー」の役割を引き継がせようとしている。
(タクヤが咄嗟に祠の祭壇に飛び込み、祭壇の中央にある黒い石を、持っていた金属製の三脚で叩きつける。)
(祭壇の石から、火花のようなものと、金属的な甲高いノイズが発生する。黒い影は、一瞬たじろぎ、光に溶けるように消滅する。)
タクヤ:
走れ!祠から離れるんだ!
(映像:クルーが祠から山道を駆け下りる。ケンジのカメラは、彼らの後ろ姿を映している。その時、ケンジの足が、祭壇の窪みの一つに、ほんのわずかに触れた。)
(画面に、ケンジの足元に触れた窪みから、かすかに光が走る映像が一瞬だけ挿入される。)
(次回予告テロップ:Episode 06:二重の撮影者)
ナレーション(タクヤ):
祠の祭壇を破壊したことで、我々は一時的に儀式の執行を止めた。しかし、ケンジの身体に宿り始めた、タカシのクルーの「役割」と、祠のノイズがもたらす精神の異常。次回、我々は、現在のクルーの映像に、10年前の失踪者が二重に映り込むという、次元を超えた現象に直面する。**
(画面がノイズと共に終了。)
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