第13話 それぞれの価値

「この…ヤバい袋には何が入ってるの?」


「あー、ゴムですね。彼女に命令されて」


「…」


今日は取材を受けていて、たまたま普段持ち歩いている持ち物の話題になって鞄の中身を見せていた。



あのピンクの禍々しい特級呪物の袋は捨てる事は許されず、ある意味呪物が入っていた。


俺が言った通り入れる物を指定されていた。


まあ、俺はヤバい奴って思わせる女避けのつもりなんだろう。


しかも普段から持ち歩かされている。

まあ、他所で中身を使う事は無いが。


たまに見つかると説明するが、大体この反応だ。引いている。

多分この特級呪物よりヤバい女だと思われてる事にアオバは気付いているのだろうか?



俺は教授と組んでから程なくしてメジャーデビュー出来た。


大半は教授の手腕だと思う。

さすがリリックの教授、口が上手い。


LUSHの頃は昔俺達が思っていた様にわかる奴だけ聴いてろって方針だったらしいが、俺と組んでから俺の声を活かして、より沢山の人が共感出来る物をって思う様になったらしい。


あの大人の教授ですら考えを変えられるんだから、俺も変わって行かないとなあと思った。


俺には大層な信念みたいな物はなかったけど…


そしてアオバも高校の頃から変わっていた。





「今日は歌舞伎町で取材!」


「へえ…」



何故か風俗ライターになっていた。

見た目もギャルから黒髪の何かエロいお姉さんになっていた。


大学在学中にその手の出版社に手当たり次第売り込んで、何とか今の会社に拾って貰ったようだ。


やっぱり元ギャルのバイタリティは凄い。


しかしちょっと触っただけで赤面するような純真無垢だったのに…


俺が開けてはいけない扉を開けてしまったのだろうか…


しかし読者は男ではなく、女向けだ。


元々は男性向けしか無かったのに、アオバの熱意で新たに部署を作ったようだ。


しかもそこそこ売り上げは良いらしい。



なんでも俺のトラウマ話を聞いて女の子向けの性のライターになりたくなったらしい。

自身の経験も影響してるらしいが…



俺とアオバは根底は似てるけどやっぱ違うんだよな。


俺はトラウマになったけどアオバにはそうならない。


俺には忘れたい事がアオバには忘れてはダメな事なんだろう。


お互い目を逸らせたい事が違っても結果が同じ所に着地している。


でもやっぱりアオバは分からない。

分からないから面白いと思うし、一緒に居たいって思う。




俺は元々バンドやってた頃のイメージがあったんで、歌の時にはメガネは外してコンタクトにしている。


まあ、ビジュアルはあの頃とさほど変わってはいないが…




「じゃあ、エル君、このカルタの読み札を教えて下さい。」


「えー、それお父さんの昔の女ですー」


「いっぽーん!」




何故かバラエティーに良く呼ばれている。


これコンタクトにする意味あるのかな?



前みたいにもう女の子とも遊ばなくなったし、素の自分でいる様になっていた。


見た目はアッチの世界、中身はコッチの世界が融合していた。


しかしこの性格は何か違う方向に役立っている様だ。


教授は良い宣伝になると俺を好きなようにさせている。


その分、教授はまだ教師をしているので殆ど表には出ない。

俺は二重生活に疲れて来ていたが、教授は俺と考えは少し違って別人になる事で自分のバランスを保てるらしい。


佐藤も相変わらず顔出しはNGにしている。

佐藤の場合は曲のイメージと実物が合わないからって理由らしいが…

俺は気にしなくて良いのにって思っている。



やっぱりそう思う理由はアオバの影響だろうと思う。

アオバは俺とヤる時は今でもメガネを掛けた姿の方が好きだと言っていた。



見た目や性格を変えなくても好きになって貰えるって凄くありがたいなあって思っている。

俺もやっぱり取り繕ったりして無い素直なアオバの方が好きだ。





こんな事を言うとまた怒られるかも知れないから頭の中だけにしまって置く。

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