ずれた帰り道

ナナマル

第1話

お散歩に出たのではなかったか。

気が付くと、田園の中を歩いていた。


慌ててスマホを開き、地図を確認する。

どうやら家とは逆方向に歩いてきてしまったようだ。


「戻らなきゃ」

くるりと振り返ると、きれいに舗装された道路が伸びている。

緑の匂いを楽しんでいたはずなのに、周りは駅沿いの商店街だ。


畑だったよね――

ふとそんな考えが頭をよぎったが、私は帰らなければならないのだ。


通勤時間帯なのだろうか、茜色に染まりつつある駅の階段を、サラリーマンやOLに混じって降りる。

このままだと電車に乗ってしまうのかな。それでもいいか。この線は自宅の駅にも通じている。

そんなことを思ったが、降りきったところで地上の道と合流したのだ。


さっきとは打って変わった、西洋風の街並み。カフェ、服飾店、雑貨店が立ち並ぶおしゃれな街にかわっていた。

――見て回りたい!

まだ時間はあるはずだ。日は高いのだし。


カフェに入ろうか…と思ったが、困った現象が起きたのだ。


そう、トイレ。


なんだかトイレに行きたい――まずはトイレに行ってから見て回ったほうがいいだろう。


スマホで公衆トイレを探すが、地図には公衆トイレは表示されない。

仕方ない、雑貨店でトイレを探す。色々見たいのにまずはトイレだ。

雑貨店にトイレはなかった。客に貸すトイレはないのだろう。


服飾店やその他のお店で探すが、やはりトイレはないのだ。

その間も尿意は増すばかり。


この街には、トイレはないのかもしれない。

そんな馬鹿な。そんなことがあるはずない。

頭に浮かんだ不気味な考えを振り払い、お店の店員さんに聞いてみる。


「すみません、トイレはどこですか?」

「トイレ?ああ、○△□×☆♯ですね。それはこの先の角を…」


○△□×☆♯?トイレだよね?

とりあえず教えてもらった場所へ行くことにした。


その場所につくと、この街には似つかわしくない、仰々しい派手な外観の――まるで繁華街にあるような――建物にたどり着いた。


ガラスの引き戸を開けて入ると、カウンターの上にボックスティッシュの箱のようなものが等間隔で並んでいる。

カウンターの上で男性数人が何かしているが、何をしているのかわからなかった。

彼らは用を済ませると、そのままガラス戸を開けて出て行った。


カウンターに近づいてみるが、それをどう使えばいいのかわからない。

これがトイレ?尿意はもう限界に近い。何も考えられない。

隣にさっきトイレを聞いた店員さんが立っていた。

にこやかな口調で語りかけてくる。

「どうぞ、ここへ出してくださいね♡」


私はいったい何を出せばいいんだろう

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