性奴隷を拒否したらバーの社畜になった話
タタミ
日常編
プロローグ
今日、人生で初めての経験が2つあった。
1つめは手足の爪を全部剥がされたこと。
2つめは「死にたくない」と泣き叫んだことだ。
薄暗い部屋、おそらく山奥にある倉庫。そこで俺は両腕・両脚を縛られて床に転がっていた。
体が痛い。痛くて俺が呻くと、顔面を誰かに蹴り上げられた。俺を拷問していた男はさっき電話が来たとかで出て行ったから別のやつだと思う。誰だか曖昧なのはもう俺に目を開く気力がないからだ。
口の周りを生温い何かがつたって気持ちが悪い。鼻血が出たに違いない。そう思ったのと同時に、今まで鼻血が出ていなかったことに驚いた。
「あ~、さっさと殺しの許可出ねえかな」
「今日中にはやるだろ」
俺の命について極めて軽いテンションで喋る男たちの声が、耳鳴りと共に頭に響く。
このまま死ぬまで嬲られ続けるんだろうか。
それだけは嫌でまた俺が呻くと、今度は背中を踏まれて呼吸ができなくなる。次は皮剥がしだろうな、という声が聞こえてきて咳き込みながら笑ってしまった。
こんな世界が本当にあるんだ、漫画みたいだ。
思えば今日はずっとフィクションめいていた。今日が俺の人生で1番刺激的で、1番最悪な日だろう。
ギギィと不快な音が響く。倉庫の扉が開く音だ。
「お疲れ様です! ノウリさん」
俺を取り囲んでいた男たちが一斉にそう言うのが聞こえた。
ノウリというのは俺を拷問していた男の名前だ。2時間ほど前にペンチか何かで爪を剥がされた足がジクジクと痛む。またあの男に拷問されるのかと思うと、吐き気がした。
革靴が床を蹴る音が近づくたびに俺は震えて、今までの人生を神に懺悔した。神なんて信じたことはないけど、何か神にしておかないとこの後もっと酷い目に遭いそうで仕方がなかった。
床に突っ伏した俺の顔を上げるため革靴が顎下に差し込まれ、甘ったるいお香の匂いが漂う。
「う、っ……」
「……誰だ。コイツの顔をやったのは」
薄ら目を開けると表情のなにもない男が俺を見ていた。短く切り揃えられた頭髪をかきながら、暗い穴のような瞳が俺から俺の周りに立つ男たちに向かってぬるりと動いた。
「ッあ……あの……オレがやりました……」
「雇い主のオーダーは首から上は現状維持で生きたままコイツに『はい』と言わせることだ」
「もっ、申し訳ありません! コイツが騒いだので黙らせるために……ッ」
ガキン。
俺を蹴り上げたと正直に名乗り出た男が言い訳を始めた途端、男の口には金槌が刺さっていた。ノウリが金槌を引き抜くと、血と歯を吐き出しながら男は床に膝をついて喚き泣き始める。
「スハラコウタ」
男の口から金槌を回収したノウリが俺にそう言った。
『
「スハラコウタ。俺がいない間に耳もやられたのか」
「き、きこえでッ……ます!」
これ以上返答が遅れるとまだ無事だった鼓膜を破られそうで、俺は叫び過ぎてかすれきっている声を張り上げた。
「今から
その名前を聞いて、元からこれ以上ないくらい悪かった気分は最悪になった。
三ツ木さんに顎を掴まれた感覚が甦って、口の中がべちゃべちゃと気持ち悪くなる。
ああ、どうしてこんなことに。
そんなことを今更考えても無意味だ。ただ1つわかっているのは、あの人に歯向かって、俺の人生は終わってしまったということだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます