魔法学校で魔女と姿を入れ替えられて無実の罪で追放された私ですが、突然現れたドラゴンを下僕に従えて復讐します。

秋名はる

第一章

第1話 突然の逮捕

晴れた日の昼下がり。

 穏やかな魔法学園内に、突如として怒号が響き渡った。

 

「ヴィオレッタ・ド・ ヴィスコンティ

 お前を国家への反逆罪の疑いで逮捕する」


「__ヴィオレッタ。

 あの、人違いではありませんか?」

 

 1人庭先で昼寝をしていたフローレンスは呑気にあくびをした。

 

「とぼけるな! すでに証拠は上がっているのだぞ。物ども、こやつを連れて行け。」


掛け声と共に、わらわらと王都の近衛兵たちが中庭に駆け込んで、フローレンスを取り囲んだ。

 

「ちょっ、ちょっと何をするんです!」

 

 後ろに控えていた十数人の兵士が彼女を取り囲むと、あれよあれというまに、彼女を学園の外へと連行した。

 

 

 -------

 トリエステ公国は海に囲まれた小さな島国である。

 

 その国では時々、魔術を操る素質のある子が生まれる。それらの子供たちは12歳になると、王立アストリアス魔法学園に入学を許可され、ここで魔道士を目指して魔術を学ぶ機会を得るのだ。

 

 フローレンスもまた、そうやって選りすぐられて学園へと招待されたうちの1人であった。

 

「ヴィオレッタ。いつまでしらを切るつもりだ。いい加減に罪を認めろ。」


「いいえ、長官さま。何度も申し上げています通り、私はヴィオレッタではありません。」

 

 フローレンスは学園から引き摺り出され、牢獄へ連行されて取り調べを受けている。

 彼女は涙ながらに訴えた。

 

「とぼけるな!悪名高いヴィオレッタ嬢を見間違えるものなどあるか。」


「まさか、そんな。」

 

 長官は声を荒げて、守衛の1人に手鏡を持って来させると、フローレンスの元に突き出した。衛兵が持ってきた手鏡を覗き込むと、そこに映っていたのは、フローレンスではない別の女性の姿だった。

 

 切れ長の勝気な瞳に、スラリと長く切り揃えられたプラチナブランドの髪をした、同じ年くらいの女性が映り込んでいた。それがどうしてだか、今この手鏡に映り込んで、フローレンスがしたように驚愕の表情を浮かべている。

 

「これは_私ではありません。

 長官さまどうか、信じてください。私は陥れられたのです。」

 

「黙れ、子悪党め。

 衛兵、こやつを牢にぶち込んでおけ。」

 

 フローレンスは、再び暗い牢の中へ閉じ込められてしまった。

 

 フローレンスは、幼い頃に両親を病気で亡くし、孤児院で育った。貧しい暮らしではあったが、心優しい施設長のもと、たくさんの兄弟たちに囲まれて慎ましく幸せに過ごしていた。


幼い兄弟の世話を焼くうちに、病気や怪我を治癒する光魔法の素質があることを知り、学園に入学する事となる。

 

 

 王立アストリアス魔法学園では、生徒たちは「火属性フレマクリムズ」「水属性シレーナマレア」「土属性フェスタヴェルデ」「光属性ルースデルソラーレ」「闇属性ルーナアンブラ」の五つの専攻に分かれて学ぶ。フローレンスはそのうちの光属性に所属していた。


長官が言っていた人物、ヴィオレッタ ド ヴィスコンティという生徒は、学園ではフローレンスと同学年の生徒の1人であった。先程、鏡の前で見せられたその女性に、フローレンスは見覚えがあったのだ。


彼女は闇魔法を専攻する生徒の1人であった。同学年なのと、派手な振る舞いや目立つ容姿から、学園内で彼女を知らない者などいない。しかし、光魔法専攻のフローレンスとはほとんど関わりがなかったはずだった。


(どうして、自分がそのヴィオレッタの姿になっているのだろう?)


フローレンスが首を傾げると、突然牢の外の方から誰かの足音が聞こえてきた。


「こんばんは、ヴィオレッタ。

 なんともまあ、惨めな姿ね」


 牢の前に現れたのは――なんと、自分自身の姿だった。

 緩やかなブロンドの巻き毛に、小柄な体つき。まぎれもなくフローレンスそのもの。


 けれど、その表情は決定的に違っていた。

 それは、フローレンス自身なら絶対に浮かべないような、勝気で、悪辣な笑みだった。

 まるで人を見下すかのように、偽の“自分”は牢の中を覗き込む。


「ど、どうして私が、そこに……?」


 戸惑いの声を上げたフローレンスに、偽フローレンスは微笑みながら言った。


「あら、違うわよ。私はフローレンス。

 そして、あなたはもう――ヴィオレッタなの」


「な、なにを言ってるの……!? 

 これは一体どういうことなの? あなた、私に何をしたの!?」


「ふふっ、覚えてないの?」


 その言葉に、フローレンスは記憶を辿る。

 昨日の、ある出来事を思い出した――。






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