思いの痛み【暇つぶシリーズ】

花魁童子

第1話

 星と月の光が輝き、自信に満ち溢れた頃、人生とは何かを頭の中で問うほど暇を弄ぶ。なぜ生きるという強制的な鎖に縛られないといけないのか。その鎖はいつ解放してくれるのだろう。もう願っても叶わないと後悔するところまで落ちた。

「…どうして…。夢など抱かなければよかった。」

 血と同等に赤く光る月は私の眼をひどく浄化する。でも、どうしてだろう。その眼は逸らすことも瞑ることも許さない。


  いや、許す許さないのではない。本能が申している。人は本能に抗うこともできない。なぜなら元は本能に従っていた。その従って任せていたものに抗うことはおろか、反発することも人間には不可能だ。本能とはそういうもの。だが今の者はそれに抗おうと必死だ。不可能だと言っているのにも関わらず…。


  私もその一人だ。運命という生の本質に目を背け、番ではないと"あの男"を、記憶を消そうとどうにかこうにか手を考える。


  しかし、運命の番は切っても切り離せない。本能で"あの男"を欲し、会えないことを嘆く。


  ───だが私にも思い人はいる…!


  番は別にいる。それもあちらからの誘いで、ほんの出来心にすぎない番が…。


  人はよく言う。

「運命の番から逃れる人はこの世に存在しない。」

 学を修めたある者が、そう自慢するように言った。しかし私の考え上、その言葉することは悪いことなのだろうか。


  本能に抗いたい。"あの男"が番など嫌だ。だが体は正直だ。甘く、特定の者が嗅げば幸せと欲求の沼に落とし酔わせる。


  昨夜もそうだった。今と同じく夜道に怖いという気持ちを抱きながら、スマホの小さな明かりを頼りにゆっくり歩いていると…。

  

  目の前には"あの男"が現れた。それも偶然かもしれないが暗闇から出現し、彼を見るなり私の本能が暴走しだした。私の意思とは関係なく突然に。突然来れば止めることはましてや、抑えることもできない。


  今さら後悔しても意味がない。そんなことは馬鹿でも分かる。後悔しないと己に甘えて、もう一度甘えれば元には戻れない。思い人に浮気だと言われても否定できないことを私はした。


  自分が情けない。

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思いの痛み【暇つぶシリーズ】 花魁童子 @yukari_hanada

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