第4話 夕日は、眩しいものです
鞄を二つ分買い物かごに乗せて、荷台に横座りした和田さんを乗せてゆっくりと走る。
最初の角を曲がるまでに、
裕也辺りには興味がないのがわかるとは言われたものの、流石に僕も男子高校生である。恋愛的な興味以前に、美人だとは思っている同級生を後ろに乗せて、しかも荷台を握る一方で、僕の腰も結構しっかり掴んでいる状態なのだから緊張しないわけもなかった。
「……初めて乗ったけど、思ったより揺れないし安定してるね。村山くん、乗せ慣れてる?」
しかし、後ろからそんな声が聞こえてくる程度には安定して走れているようで、僕の平気なフリも中々なものである。
尤も、それなりに安定して走れているのは平静とは別の理由かもしれないが、少なくとも僕は二人乗りは初めてだ。
後ろの和田さんにそう返すと。
「へへ、そっか。ねぇ、初めて同士の割には良い走行してると思わない? 相性良いのかもね!」
和田さんがそう言った。
(…………なるほど)
心の中で僕は呟く。人気がある理由の一端が分かるとともに、よくもまぁこんな美人で良さげな子を彼女にしながら、あの先輩は浮気なんてことをしたものであった。
口に出すと明らかな、埋まってすらいない地雷なので踏みはしない。
そうして数分走らせた後で、僕はゆっくりと大通りに出る前に自転車を停車させた。ハンドルを押さえて固定しながら、和田さんに尋ねる。
「さて、じゃあこの辺で二人乗りは止めて、と……足痛かったら、押すから乗っとく?」
「うわ、紳士じゃん。ありがと。もう足もいいから歩こうかな……ところで方向はこっちで良かったの? 私が駅の方って言ったから遠回りしてくれたりしてる?」
それに、ふふっと笑ってゆっくりと降りると、和田さんはそう聞き返してきた。
その間にも、足を確かめながら、うんと頷いている。気を遣っているわけでもないようで良かった。そう思いながら答えつつ、僕も返すのが礼儀かなとそう質問する。
「大丈夫、家はこっち方面なんだよね駅向こうのショッピングモールの先の住宅街なんだけど、そっちは電車?」
僕自身は小学校や中学校からこの辺に住んでいるのもあり、同じ流れで同じ高校に来ている人間は大体知っていた。和田さんのことは高校まで知らなかったし、この容姿で噂も知らないということは別の地域からの電車通学かなと思ったのだが。
「へぇそうなんだ。ううん、うちはその手前のマンションなんだけど、意外と近所だったんだね」
どうやら近所のようだった。だが、その手前のマンションと言えば、確か一昨年辺りに建った中々綺麗なマンションだったはずである。
なるほどと僕は納得していると、続けるように和田さんが僕の前にずいと顔を傾けるようにして見上げて言った。
「ねね、じゃあさ、良かったらお茶でもしない? 助けてくれたお礼に奢るよ?」
容姿だけでなく、いい子だとはここまでの十数分で思っている。魅力的でもあった。だが――。
「うーん……せっかくのお誘いだけど、実は行きたいところがあってさ」
「行きたいとこ?」
和田さんが首を傾げてくるのに、僕は隠すほどのことでもないかと告げる。
「実は、これからそのショッピングモールでタイムセール中に買い物しちゃいたいんだよね」
そうなのだ。担任からの頼みに自転車置場でのトラブルと、ただ買い物をしたいだけの僕にイベント続きだったのだが、そのせいで後三〇分もすると目当ての食材たちが売り切れてしまう。
イコール今日の夕食が慎ましくなってしまうわけで、僕としては急ぎたいのだった。
「へえ。何買うの? ……あ、聞きすぎ?」
「ううん、ってか普通の買い物だよ? 今日は挽肉が安いみたいでハンバーグ予定だから買って、追加でキャベツとパン粉かな、後は、明日の朝の食パンとその夜は決めてないけど何かあれば……」
「え? 待って待って、キミが作るの?」
僕がえーっと、と歩きながら考えて話すと、今度は少しトーンが高めの疑問の声とともに、和田さんが言う。
聞きすぎ? と言うわりに、本当に質問が多いなぁとも思いながら、僕は頷いた。
「親は働いてて、しかも時間も不定期なことが多くてさ。大学生の姉貴は傍若無人かつ家事能力欠如してるし、妹たちもこれまた調理能力に難があるし…………後は、ばあちゃんがいるんだけど、最近足悪くてね、結果僕ができる時はやってるわけ」
「……ふふ、おばあちゃん、好きなんだ」
今度は少し優しげな笑みで、和田さんが後ろ向きに歩きながらこちらを覗きこむ。
「わかる?」
「ばあちゃんが、っていうのが特に優しかったから。いいじゃん、私もパパとママが働いてるのは一緒だけど、一人っ子だし家族三人で基本家では一人だからちょっと羨ましい……ねね」
「ん?」
「買い物とか、ついてっちゃ駄目かな?」
「うん? …………うん?」
ん? と思って一瞬考えてみたけれど、やっぱりわからなくて、僕は目を瞬かせた。
「…………やっぱ、駄目?」
「いや駄目ってことはないけど、むしろ何で?」
寂しそうな顔をされて、僕は慌てて――いや何で慌てなきゃいけないんだ――言う。でもそう、何でだ。疑問の方が大きかった。
「うーん、キミと話すの結構楽しいってのもあるし、買い物に興味あるのもあるし、どうせ家に帰ってもパパもママもいないし、用意されたの温めるか外食しないとと思ってたし。あいつにうっかり会うのも嫌だしさ――」
理由が沢山ありそうだったが、つまりは寂しくて暇だと理解する。
「本当に普通の買い物だからね? つまんなかったら帰っていいからね?」
「本当に? やった、ありがと!」
実際駄目でもないし、成り行きってのはこういうことかと思いながら了承のつもりで言うと、和田さんはこちらが驚くほどにぱあっと明るくなるような笑顔を見せた。
そして流れるような金髪が、ちょうど赤く照らす夕日と共に笑うように跳ねる。
(…………うわ)
僕は、目を細めた。誰かの笑顔を眩しいと思ったのも、自然と、誰かに見惚れてしまうというのも、初めてで。
でも、朝からの鬱々とした和田さんを見ているだけに、そんなことで笑顔になってくれるならまぁ良いかと、そんなことも同時に、思うのだった。
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