第19話 仲が良いのは良いことです

 しっかりとくっつけて敷かれた布団に今更戸惑うこともなく、私と晃太郎はまるで姉弟みたいにあっさりと布団に入る。

 流石に私も運転の疲れもあるし、晃太郎もこのところの忙しさで2人で愉しむ余裕もなく寝息を立て始める……なんてことはなく、当然のことながら私は晃太郎の布団に入り込む。

「日向ちゃんて正直だよね、自分の欲望に」

「まぁね。晃太郎も正直になっていいよ」

 浴衣なんて速攻で脱いで全裸のまま散々カラみあったあと、ピロートークにしてはムードの欠片もない会話を楽しんでから全裸のままで眠りにつく。

 係の人が朝食を部屋に運んでくるまでガッツリ寝て、部屋の露天風呂でだらだらと過ごす。これがほんとうの贅沢というものだ。

「なんかさぁ、温泉ってダメになるよね」

「日向ちゃんは元々ダメだけどね」

「ンだよぉ、真面目かよぉ……」

 暖かいお湯に使って空を見上げる。今日は生憎の曇り空だが、午後からは晴れになる予報だ。

「どうする? 今日どっか行く?」

「そだねぇ……晃太郎運転してくれるなら良いよぉ」

「それはなんかヤだ」

「でしょ? 私も」

「気が合うよね、俺達」

「付き合い長いからね」

 実にだらけた、本当にぐうたら姉弟のような会話をしながらも、何故か晃太郎は私の胸を揉んでいる。

「ねぇ、なんでずっとおっぱい揉んでんの」

「なんか落ち着くから。ダメ?」

「どんと来い。私のなら揉み放題だ」

「やった、日向ちゃんかっけぇ」

「でも、他の女の胸揉んだら殺す。その女と晃太郎殺して私も死ぬ」

「おっと、重いぞ」

「浮気は絶対許さないけど、私になら何しても良いよ。私、基本ドMだからどんなプレイでも受け入れるから」

「日向ちゃんかっけぇ」

 ざば、とお湯に波を立ててカラダの向きを変え、昨日又従弟から婚約者にジョブチェンジしたばかりの歳下の男に抱きついた。

「ね、ここあと一泊するからさ? 今日夜にライトアップされてるの見に行こ? 良いよね?」

「ん、良いよ」

 よし、ちょっとは彼氏彼女らしいこともしておくとしよう。

 どうせ行く先々でみたくないモン見ることにはなるけれど、晃太郎が一緒だったら少なくとも私には寄ってこない。

 風呂でのんびりイチャイチャしてから、申し訳程度に浴衣を着直して少しのぼせ気味の頭を冷ましておく。

 夕食前にはもう外は暗くなり、早い場所ではライトアップが始まっていた。

 川沿いの遊歩道は、地面に置かれた提灯みたいな明かりで照らされていて、紅葉が残っていたらさぞキレイだろうなと思える状態。

 モミジもほぼ全部散っていたのが残念だが、まぁ少なくとも良いムードで手を繋いで歩けたのは良い収穫だ。

「なんかさ、こうやって日向ちゃんと手ぇ繋いで歩くのって何年ぶり?」

「んー、どれくらいだろうね? 子供の頃は毎日だったけど」

「俺が小学校高学年くらいから繋がなくなったっけ?」

「あー、だね。私が二十歳くらいになって、晃太郎が照れてヤだって言い出したの」

「え? 俺から?」

「そうだよ? アタシが手ぇつなご? って言ってもヤだ恥ずかしいって言ってさ。あーぁ、お姉ちゃん寂しかったなぁ」

「そうだったっけ。全然覚えてない」

「薄情者」

「ゴメンて」

 ムードだけは良いけど、会話の内容はもうまるっきり姉弟だ。

 もう二十年近い付き合いになるし、いまさら遠慮の類がなくなるのは仕方のないことなんだろう。

「あのさ晃太郎」

「んー? なに?」

「ちょっとさ、すっごいヤらしい話するけど」

「うん」

「私、子供3人は欲しい」

「3人かぁ、結構行くね」

「でさ? 私来年30才なんだよね。だから割と早めに子供作んなきゃいけないんだけど、晃太郎の卒業って再来年でしょ? だから、ぶっちゃけ子供先に作っちゃったほうが良いかなって」

「え、日向ちゃんにしては凄い現実的な話だった」

 それは現実的にもなるだろう。何しろ女の体にはタイムリミットがあるんだ。

 晃太郎が卒業して就職して、それで『社会人として一人前に』とか言ってたら、あっというまに35才を過ぎてしまう。

 その年令を超えるとあっという間に高齢出産だ。

「まぁ今日の話で私と晃太郎が結婚すんのは確定としてだ。お母さんとお祖父ちゃん、あとついでにお父さんへの報告も事後承諾で良いとして、とりあえず子供作るのは晃太郎に頑張ってもらおう」

「了解。任せて」

「あと、家どうする家? こないだのさ、マンションあるじゃん? お祖父ちゃんが買っておいたっていうアレ。あそこホントにもらう?」

「貰っちゃおうよ。くれるものは遠慮なく頂いたほうが、おばちゃんも社長も喜ぶんじゃない?」

「だな。よし、じゃあ新居もオッケー。あと何か考えとかなきゃいけないことあったっけ?」

 新婚夫婦として、こういう事はムードのあるレストランでワインでも傾けながらするのがおしゃれなんだろうけど、私と晃太郎の間柄じゃかえって現実的じゃない。

 こうして手を繋いでお散歩しながら、『今日の晩御飯何にする?』くらいのノリで話をしたほうが気軽でいい。

「んーと……今んとこ思いつかないかなぁ。家のことも大丈夫だし、子供のことも俺が頑張れば良いとして、あとはお金?」

「あぁ、お金は私がお祖父ちゃんに媚び売ってねだるからオッケー。お祖父ちゃん、私にはデレデレだから。孫娘モード全快で甘えてみる」

「あざといなぁ」

「うっさい」

 どこまでもムードの欠片もない会話。

 でもまぁこれはこれで私たちらしい。とりあえず、今日はこのきれいなライトアップで盛り上がった気持ちのまま酒でブーストかけて、早速晃太郎に頑張ってもらうとしよう。

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