第13話 諸悪の根源を探します
もうどれくらいの時間、こうやって暗い部屋でユーチューブなんてものを見続けているだろう。
一人暮らしの男の部屋で、十代の男と二十代の女が二人きり。おまけに女は酒を飲んでて、シャツのボタンを鳩尾まで開けていてスカートだってわざと裾を上げている。もう襟首掴んで首をガクガクさせながら、『手前ェこんだけあからさまに誘ってんだからいい加減手ぇ出してこいやゴルァ』くらい言ってもいいくらいの状況なのに。
あぁそれなのに、この10才歳下の又従弟ときたら。
「あー、やっぱコイツだ。見覚えあると思ったんだ」
「はいはいそりゃあ良うござんした」
「ねぇ日向ちゃん見てみて、コイツ。ほら、神社にも行ってるし、コイツだけだよ。祠に行ったあともチャンネル更新してんの」
「あっそ。んで?」
「……日向ちゃん、怒ってる?」
「怒ってない」
「怒ってんじゃん」
「怒ってないっつってんでしょうが! で? そいつが何よ!」
つい腹から声が出てしまった。いかんいかん。
とりあえずボタンを止め直してスカートの裾を降ろしてから、画面をじっと見る歳下のオトコノコの肩に、使い道のないノーブラFカップを押し付けてやる。さぁドギマギするが良い。赤面して私の方へ振り返って、『日向ちゃん!』とか切羽詰まった声出して私を押し倒してくるが良い、たっぷり可愛がってやるぜ?
とか思ったが、案の定ビタ一文反応することもなく、画面上のタトゥーがびっしり入ったチャラそうな男のチャンネルリストをスクロールしている。
「なんかさ、コイツのチャンネルの動画の日付調べたんだけど、他の心霊スポット突撃系ユーチューバーがあげてた動画って、時間差はあるけど大体コイツが挙げてたスポットをなぞってるんだよね。まるでトレースしてるみたいに」
「へぇ。んで?」
「で、コイツだけは何度も祠を取り上げてるんだ。一応動画見たけどどの動画にもなんにも映ってない。当たり前に暗いとこ行って暗いトーンで話してるだけ。まぁぶっちゃけ退屈なんだけど、こいつ何故かチャンネル登録者数結構いるんだよね。で、コメント見てみたら『自分も行ってみます』ってのが結構いてさ」
「……ヒマなの、こういう人達って。仕事してないのかな」
「さぁ? ヒマではあると思う。で、コメントした人の中に、これ以降の動画でコメント書いてないってのも結構いるんだ」
「ほう? それで?」
「で、コイツのチャンネルのスポット見てみてよ。俺と日向ちゃんが『処理』した神社もそうだし、こないだ日向ちゃんが漏らした家も行ってる。で、コイツが行った後に心霊スポットになってる」
晃太郎が、刑部クリーニングが直近で処理した案件と、このタトゥー男が訪れた場所と時期をメモ帳に書き出した。
少なくともここ数ヶ月の間、急に案件が増え始めた時期と、コイツが埼玉や群馬で『新たな心霊スポット』として紹介した場所と時期がおおよそ一致する。
「……へぇ?」
「それでちょっと考えたんだけどさ、コイツ、俺の逆なんじゃないかって」
「逆?」
晃太郎は、その場にいるだけで何でもかんでも焼き尽くしてしまう『剥き出しの臨界原子炉』のようなもの。その逆ということは?
「そ。つまり、コイツはその場に居るだけで、周りからどんどん引き寄せちゃう。で、そこに定着させちゃう的な」
「え、何それヤだキモい」
「だよねぇ」
あははは、と笑いながら晃太郎は再生ボタンを推して、動画を続ける。
もしもそんな事が出来るとしたら、そいつは拝み屋とかとは正反対にいる存在、呪い屋とかそんな具合の存在だろうか。
「まぁ俺もさ、別に何か視えるわけでもないしよくわかんないけど、会社的には悪い話じゃないよね? 案件増えて売上も増えるし」
「まぁそれはそうだけど」
「たださ、何かこう……ヤじゃない?」
「ヤだ。私こういう事するやつ、もうとりあえず生理的に受け付けない。そもそも陽キャな時点でムリ」
「日向ちゃんがド陰キャ引きこもりボッチ喪女のどエロBLマニアだってのはとりあえず置いといてさ。じゃどうすんの? って話」
「どうすんのって? っていうか色々くっつけ過ぎじゃない? 当たってはいるけどさ」
「コイツの邪魔をするか、それとも何もしないか。まぁこいつも多分こういうことばっかやってたらいつかヒドい目に遭うと思うけどさ」
「良いんじゃない? 別に。私たちが自主的に動いたりしても、何もメリットないじゃん。私はヤダ。こんなガラの悪い半グレっぽい人、近づきたくない」
「だよねぇ、俺も。良かったぁ、日向ちゃんが『正義に反する、叩き潰してやらなきゃ気がすまない』とか言い出さないで」
「言うわけ無いじゃん。たださ? 晃太郎の仮説が正しいとして、それも確かめようがないよね?」
「まぁねー。だからさ、こないだの宮司さんいたでしょ? あの神社の。あの人にこのチャンネル見てもらったらどうかなーって思ったんだけど」
思わずのけぞってちょっとだけ距離を取ってから、『にししし』とか声を出して笑いそうな晃太郎の顔を眺める。
「……え、ちょっと晃太郎冴えてない?」
「でしょ? 褒めて良いよ? ご褒美もウェルカム」
「よし、シャワー浴びてこい。ご褒美にお姉様が可愛がってやる」
「えー」
「何がえーだ、さっさと脱げ、おらヤんぞ」
私と晃太郎にとって、夜のプロレスごっこはコミュニケーションの一つだ。ただ、ちょっとばかり体液の交換を伴うものだったりするだけで、やってることはまぁ可愛い身内のスキンシップでしかない。そう自分に言い聞かせてはや数年。
「ガッツリ搾り取ってやる。さぁ脱げ」
「えー、やだ。お婿にいけなくなる」
「私が貰ってやる。ガタガタ言うな」
さぁ、ちょっとばかり精神的にスッキリした後はカラダもスッキリするべきだろう。
10歳年下のオトコの服を剥ぎ取ってベッドに押し倒すと、私も服を一気に脱いで覆いかぶさった。
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