第12話 モチベーションは大事です
晃太郎がパソコンの画面上、動画をフルサイズ化して一時停止ボタンをクリックした。
「ほら、これでしょ? このチャンネルのこの動画」
指さした先には、ついこの前作業をした神社の鳥居の前でテントを広げている若い男の顔が映されている。
「じゃ続きね」
男は次から次へと『心霊スポットでやっちゃダメな事ベスト8』と言えるような所業を繰り返している。
これだけのことをやれば、そりゃ罰も当たるし呪われるも祟られもするだろう。
こういう動画がやたらと増えている。それも、新しいチャンネルが生まれては消え、また雨後の筍みたいに次から次へと生まれて、そして垢BANだか祟られて活動停止したのかはわからないが消えていく。
「多いよねぇ、こういうの」
「ホントそうよね」
「たださ? なんか良くわかんないんだけど……最近チャンネルの更新が止まったチャンネルって、みんな最後か最後から2番目くらいに、例の群馬の祠? だっけ? そこの動画出してからしばらくして更新しなくなるんだよね」
「例の祠って……群馬県? どの辺?」
「さぁ? オバちゃん知ってる?」
「晃太郎くん、会社では『副社長』」
「おねえ様」
「しょうがないわねぇ、晃太郎ちゃんったらもう」
「……お母さん?」
「副社長だって言ったでしょうが。あ、晃太郎ちゃんは良いのよ? 時給も今日から5500円にしちゃう。で? その祠だっけ?」
「え、待って? 何この扱いの差、おかしくない? 私、娘なんだけど?」
「祠は群馬の神流湖ってとこの近くにあるのよ。まぁ社長のとこにもう相談は来ててね」
私の苦情は華麗にスルーされたまま、話はどんどん進んでいく。
神流湖と言えば、埼玉と群馬の県境にある有名な心霊スポットだ。だが件の祠は、有名なスポットからは少し離れた場所にあるらしい。
いつ作られたのかはわからないし、何が祀られているのかも分からない。そんな古びた小さい祠で、外見はただの大きな岩が立てられているだけのようなもので、刻まれている文字もあまりにも古びていて読めなくなっている。
何故ここまで細かくわかるのかと言うと、実際この祠を映した動画をリアルタイムで見ているからだ。
「まぁしかしアレよ、好き好んでわざわざ神罰仏罰に触れるようなことすっから、垢BANされんでしょ」
「でもさ、その祠は祠として、他の家の件とかと関係してたりする? 確かに、さいたまと南群馬の案件が増えてはいるけどさ」
そう。最近私たちが走り回っているのは、大体が埼玉県の中部から北部、そして群馬県の南部だ。
時折東京都内の案件もあったりするけど、全体の8割くらいはさいたまと群馬の県境辺りだったりする。
「多分さ? どっかのチャンネルがこの祠の動画を流して、んで何かの原因で垢BANされるか収益化止められたかでユーチューバー辞めて、それがきっかけで群馬辺りにヤバい祠があるらしい、ってんで話題になって次々ユーチューバーが撮りに来た。ただ、そういう二匹目のドジョウだっけ? ウナギだっけ? そういうのしか狙えないようなユーチューバーは二番煎じくらいしかしないから、やがて飽きられて収益も無くんって活動停止、とかそういうオチじゃない? 現実的に考えたらさ」
確かに、晃太郎の説は筋が通っている。
オカルトとかそういうのを除外して考えるなら、多分晃太郎の説が一番説得力がある気がする。
「たださぁ……何ていうかこう、もうちょい色々調べて見たほうが良い気がするんだよね。晃太郎、どうせヒマでしょ? その更新ストップしたチャンネルと、いつ頃更新ストップしたかと、あと最後に公開した動画がどんなのだったか、調べてまとめてみない?」
「えー、俺がぁ?」
いかにも不満です、という顔の晃太郎をよそに、意外なことにお母さんもしきりに頷いている。
「そうねぇ、もしそれで何か分かったら、次の案件のヒント的なのも見つかるかも知れないし? ほら、晃太郎ちゃんの時給もアップしたことだし? ね?」
「頑張って晃太郎。お姉さんがハグしてあげるから」
「いらね」
「要らないってなによ要らないって。合法背的に成人女性に抱きつけるんだよ? 普通なら事案っていうか逮捕案件なのに? 成人のFカップ巨乳の持ち主に抱きつけるんだよ?」
「だって面倒くさいし、何ならFカップって今どき巨乳じゃないよね」
「何言ってんの、日本人でFカップは巨乳よ。何なら揉んでも良いけど? てかヤる?」
「日向ちゃん、親の前でよくそういう事言えるよね」
ちら、とお母さんの方を見ると、別に気にしていなさそうだ。
「まぁ、良いんじゃない? 2人仲良くしてるなら私は構わないけど。まぁ子供出来たら教えてね?」
実に軽々しくとんでもない事を言って、お母さんはまた通帳を持って銀行へと出かけていった。
「オフィス内ではやめときなさいね。ヤるなら家に帰ってからにしなさい」
と、およそ娘の母親と思えないような事を口走るあたり、流石私の母だ。
お父さんの話では、お母さんはド肉食だったらしく、お父さんも言ってみればお母さんに『喰われた』らしい。
「日向ちゃん、どうすんの? 一回帰る?」
「え? ……やだ、ちょっとホントにするの? 今から?」
「いや? とりあえずゲームで忙しい」
「……あのさ晃太郎、仮にもオトナの女よりゲームを取るっていうのは、男としてどうなの」
「それ日向ちゃんがヤりたいだけなんじゃないの?」
「違うわよ。ったく、人を色情狂扱いしないでよ」
自分で言ってちょっと違和感。
まぁ、私自身晃太郎とスるのは嫌いじゃないというか、デトックスというか、まぁぶっちゃけ好きではある。
私がやりたいだけ、というのも、まぁ外れてはいないか。
「うん、違うわ。ヤりたいから帰ろ」
「え? ちょ、日向ちゃん?」
「ほら、さっさと帰るよ。一戦交えてから仕事仕事」
我ながらおかしいテンションで晃太郎の手を引いて、事務所の鍵を締めて早々に退社して家に引きこもることになった。
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