恋愛短編集

@nyaaaaaaa_

百合

 私は杉野琴絵すぎのことえ

 突然だけど私は同性愛者だ。

 いわゆるレズビアンというやつ。

 別に男になりたいわけじゃない。

 ただただ女の子が好きなだけ。


 そんな私には今、好きな人がいる。

 彼女の名前は澤江莉彩さわえりさ

 彼女との関係は、ただの友達? 親友? だと思っている。

 私が勝手に好意を抱いてるだけ。

 私からしたら好きな人だけど、向こうからしたらただの友達。

 彼女は友達が多いから、多分私の事なんてそんな見ていないだろう。


 放課後のざわめきから、私はいつも一歩外にいる。

 好きで静かにしてるだけなのに、いつの間にか“友達少ない子”になっていた。

 そんな私に声をかけてくれたのは、やっぱり莉彩だった。

 1人でぽつんといた私に明るく声をかけてくれた。

「ショートめっちゃ似合ってるね! かっこいい〜!」

「あ、ありがとう…」

「名前なんていうの?」

「杉野琴絵です」

「こと! 私莉彩! よろしくね!」


 これが、私たち2人の馴れ初め。

 それから何かあれば「ことー!!」と呼ばれベタベタされることもある。

 最初の頃からそうだけど、彼女はやたらと馴れ馴れしい。

 初めましての頃からタメ口だし、スキンシップも多い。

 まあただコミュ力があって、人と関わるのが慣れてるだけだろうと私は思っている。

 でも私は彼女に1つだけ疑問を抱いていることがある。

 それは、圧倒的に私と過ごす時間が多い事だ。

 彼女は友達も多くて、よく友達から呼ばれてたり初対面の人とも簡単に仲良くなれる人だ。

 そんな良くも悪くも馴れ馴れしい人が、なんで私みたいな陰キャと過ごす時間が多いのだろう。

 そんなことを考えていた時、莉彩が話しかけてきた。


「ん? どうしたの」

「いやー、ちょっと暇だなーって思ってことんとこ来てみた!」

 そう言いながら「えへへ〜」と無邪気に笑う莉彩を見て、私は胸が少し温かくなった。

 そんな気持ちを胸に抱きながら、私も口を開く。

「莉彩は別に他にも話せる人いるでしょ。私じゃなくてそっち行きなよ」

 私がそう言うと莉彩が少し息を漏らして私に言う。

「ことじゃなきゃダメなの! なんでそんな事言うの~いっつも冷たいんだからことちは~」

 そう言いながら私の腕に寄り、頬擦りする。

 私はいつも「ことじゃなきゃダメ」って言われるけど、私はその言葉がずっと理解できない。

 莉彩は他にも話せる子とか仲いい子とかいるんだからそっちにも行けるじゃんって、いつも思う。

 分からない子だなぁと思いつつも、私はいつもされるがまま。

 そんなことを考えていると、莉彩が口を開いた。

「ねね、今日の放課後空いてる?」

「ん? なんで?」

 私が純粋に疑問に思って尋ねる。

 そう聞くと莉彩は少し照れくさそうに答える。

「いや、ちょっと遊び行きたいなーって」

 私が黙ったまま莉彩を見つめていると、今度は弁解するように莉彩が口を開く。

「いや! 別に空いてなかったらいいし、空いてても嫌だったらいいけど……今日はことちと一緒にいたい気分だなーって思って……」

 少し顔を赤らめながらそう言う莉彩を見て、私は素直に思ったことを口にしてしまった。

「可愛い」

 私は急いで弁明しようとしたが、莉彩がさらに顔を赤らめたように見えて、また可愛いと言いそうになった。

 そんなことを考えていたら、莉彩が口を開く。

「可愛くない!!!! 可愛くないから!!」

 顔や頭からプシューと湯気が立ってそうなくらいに恥ずかしがっている姿の莉彩。

 何がそんな恥ずかしいんだよ。お前はいつも周りの子達に言われてるじゃん可愛いなんて。言われ慣れてるだろ。

 そう思いながら私が莉彩の事を見つめていたら、また莉彩が口を開く。

「なんだよ!! なんで見つめてくんだよ! 何が言いたいんだよ!!」

 キレているような様子の莉彩を見て、やっぱり出てくる言葉は同じモノ。

「可愛い」

 私がそう言うと、莉彩はまた耳まで真っ赤にして恥ずかしがりながら「可愛くないから!!」と言い、逃げるように去っていった。


 莉彩が去っていったことを確認して、私は小さく息を漏らしながら小声で呟く。

「かわいいな…」

 私はその場でしゃがみながら頭を抱えた。

 こぼれた声を、誰にも聞かれていないと思い込んでいた。

 そんな私の背中に、隠れた影がそっと手を伸ばしていたとは知らずに──。

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