理を越えし担い手たち

いがらし つきみ

序章

ep.1 始まり

◆◇◆◇◆聖域◇◆◇◆◇


 それは世界の根幹をなす大樹を祀る神聖な場所。

 世界が闇に覆われるとき、大樹は勇者を生みだす。


聖域の長――聖導師せいどうし

 その導きによって、勇者は魔王を討ち倒す。

 そして、勇者が大地へ還る時、世界には安寧が訪れる。

 これは、人々の間で語り継がれる話。

 人々の不安を少しでも取り除く伝説であった。


 大樹に祈りを捧げ、四地方の神々の力を結ぶは聖導師せいどうしの役目。


 聖導師を支え、導き、護るは守人もりびとの役目。

 そして、聖域を守り、緑絶やさず大地を育むは森の精の役目。


 聖域はこれらの役目を持った者達によって支えられ、そして世界の中心としてこの大地を見守っている。


 その加護のもと、人々は六つの大国を築いた。

 六国の王を中心に、人々の日々の営みが続いていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 しかし、安全な生活は永遠には続かない。


 予言された魔王の誕生は突然であった。

 それでも人々は、勇者の誕生を信じていた。


 こうして生まれた勇者は、生まれながらにして”魔王を倒す”と言う大きな使命を負う。


 人々はその背に自分たちの未来を託し、いつもと変わらぬ日々を送っていた。


 だが、その未来は、突如として崩れ去る。

 

――勇者の裏切り。


 勇者が魔王の手を取ったことで、世界は再び闇に包まれた。


 力をつけた魔王の手先たちはすぐさま世界の破壊をはじめた。

 勇者を堕とした魔王が次に取った行動は聖導師の存在を消すことであった。

 魔王は魔族を従え、聖導師を魔界へと連れ去った。


 その後、聖導師がどうなったのか知る者は誰もいない。


 人々は勇者の裏切りに憤り、悲しみそして絶望した。


 しかし、人々がすぐに魔の手に堕ちることはなかった。

 六国の王が立ち上がり、人々を鼓舞し、そして魔族たちを次々と退けたのだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 しかし、その士気は長くは続かない。

 抗い続ける強い決意を胸にしながらも、人々は自分たちができる限界を悟っていたのだ。


 人々は新たな勇者の誕生を大樹に祈るしかなかった。


 そして、誕生して間もない、小さな聖導師。

 その幼き存在に不安を覚えながらも、

 人々はただ、縋るしかなかった。

 

 それが自分たちの、最後の希望だった。

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